「テクニック」と「スキル」

Facebookページ「少年野球指導者のひとり言」でおなじみの廣川寿さんが少年野球指導の現場で思ったこと、考えさせられたことなどを紹介するコラム。今回は「成果にこだわる」について。

野球には「投げ方」「捕り方」「打ち方」などがあります。
確率高くプレーを成功させ、故障なくプレーを継続させるためにはある程度の技術を習得することが必要となります。当然私もチームではこれらの技術は指導します。

これらはいわゆる「テクニック」です。
野球におけるテクニックは「身体の使い方」「道具の使い方」にほぼ集約されます。
球が速い、捕球が上手い、などは「テクニックが高い選手」と言えます。

一方、この「テクニック」と似た言葉で「スキル」があります。
「スキル」はテクニックに比べるともっと思考を伴ったような技術です。日本語では「技能」と訳されることもあります。教養や経験によって習得されるものと言われます。経験を積み、自ら思考することで「広範囲な情報収集」「正確かつ素早い情報処理」が伴ったテクニックの駆使がなされるような状態が「スキルの高い選手」と言えると思います。

私が子どもの頃に比べると野球は高度化しています。
より細かな「テクニック」が指導され、トリックプレーの練習を繰り返し行ったり、バントもサインによって転がす方向まで指示されるチームもあります。より高度なテクニックを磨き、緻密な作戦を駆使して勝利をつかもうとするチームが増えています。

こうした事細かに作戦や指示がされるチームでは選手の思考力が育たない傾向を感じます。

先週の試合で、来年4月に入団予定の小学生を起用しました。
その子は三塁を守っていたのですが、「ポジショニングが違うなぁ」と思いながらもその場は黙って見ていて、ベンチに戻ってきてからその選手に質問しました。

私「サードって三塁線と三遊間、どっちに打球が飛んでくることが多い?」
選手「三遊間です」

私「じゃあ、2アウト2塁で、どっちを抜けたら走者は本塁に帰ってくる?」

選手「どっちも帰ってきます」

私「打者にヒットを打たれないことと走者を本塁に返さないことのどちらが大事?」

選手「走者を返さないことです」

私「じゃあ、あの場面はどの辺を守ったほうがいいと思う?」

選手「三遊間寄りですか?」

私「正解!」

ひとつの例ですが、スキルの高い選手はこの会話をひとりで自問自答して行動に移します。こんな自問自答と行動を繰り返して「スキル」を身につけていくと思います。指導者が大声で「サード!2アウト2塁だ! 三遊間を詰めろ!」と指示するだけでは選手の思考力は向上しません。

私が選手に身につけて欲しいのはテクニックだけではなく、思考を伴ったスキルです。合理的に思考して自ら決断し主体的に行動する。そんなスキルは野球以外でもきっと役立つはずです。

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著者プロフィール

著者:廣川寿(ひろかわひさし)
愛媛県出身。松山北高校時代に投手として選抜高校野球(春の甲子園)に出場。甲南大学時代は投手として阪神大学野球連盟の数々の記録を塗り替える。社会人野球まで投手として活躍。自身の息子が少年野球チームに入部したことをきっかけに学童野球のコーチとなる。現在は上場企業の管理職として働く傍ら、横浜港北ボーイズのコーチとして「神奈川NO.1投手の育成」を目標に掲げ、中学生の指導に情熱を注ぐ。