山から海へと続くトレイル。南カリフォルニアのトレイルランは春に限る

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人の好みは、インドア派とアウトドア派に分かれるらしい。そして、アウトドア派はさらに山派と海派に分かれるとも聞く。そんな分類に意味があるかどうかわからないけど、ぼくはそのどれにも属していない。あるいは、その全てに属していると言えるかもしれない。つまり家にこもって本を読むのも好きだけど、山も海も同じように大好きなのだ。

そのような意味において、ぼくが長年住んでいるカリフォルニア州アーバインという街は、山派にも海派にも都合が良い。人口約20万人の計画都市でありながら、あえて広大な自然をそのままに『計画的に』残してある。その自然保護された土地の広さは“57,000acre(エーカー)”ということだけど、数字で言われてもピンと来ない。実感としては、市の3分の1ぐらいは自然のままで残されているような気がする。

自然保護された土地には、基本的にはトレイル以外には何もない。トレイルには歩行者、自転車、そして馬しか入れない。地形はちょっとした山があるうえ、距離的には海にも近い。今回走ってみたのはそのうちの1つ、アーバイン市内から山を越えてお隣のニューポート・ビーチ市の海岸まで続くトレイルだ。

出発点となったのは、アーバインのほぼ中央にある“Bommer Canyon Trailhead”。高級住宅地の一角にあり、ここもやはり駐車場とトイレと水飲み場以外には特に何もない。

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出発起点:Bommer Canyon Trailhead

しばらくは平坦な道が続くが、2、3kmぐらい走ると数百メートルほどの険しい坂が連続して現れる。周囲は見渡すばかりの山の中で、ついさっきまで住宅地にいたとは信じられないくらいだ。

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余談ではあるが、あなたがもしトレイルランが好きで、しかも南カリフォルニアに行きたいと考えているなら、時期は2月から3月にすることをお勧めしたい。この辺りの気候はほぼ砂漠に等しく、1年間の大部分は乾ききったような土地なのだが、冬の間だけはわずかながらも雨が降る。そして春が近くなると、普段は枯草ばかりの地面が一面の緑になり、野生の花が一斉に咲くのだ。雨が降ると空気が澄み、夏の間はスモッグで見えない遠くの山の稜線や水平線がこの季節にははっきり見えてくる。今年の冬はエルニーニョ現象などのおかげで、例年より雨量が多かった。そのおかげで景色の変化がいつにもまして鮮やかだ。

下の写真が同じ場所を写したものだと信じられるだろうか。

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この日コース脇に咲いていた野生の花

出発点から海までの全行程は7~8mile(約12km)。あちこちで写真を撮るために立ち止まり、景色を楽しみながらゆっくり走る。この日の天気は曇り時々晴れといったところで、気温は18~20度程度。レースをするには暑すぎるだろうが、ゆっくり走るには申し分なく快適だ。この時期の南カリフォルニアをお勧めするのは、景色に加えて天候も大きな理由だ。もう少し経って夏になると、最高気温が40度近くなる日もあるので、早朝以外はトレイルを走る気にはならないし、走っても苦行のようであまり楽しくはない。

出発地点から約5kmほどでトレイルはアーバイン市の境界線を跨ぎ、隣のラグナ・コースト市に入る。さらに1、2km走ったところで、今度はクリスタル・コーブ州立公園の中を通る。とは言っても、トレイル自体は一続きで、ただ道の脇にそれを示す看板が立っているに過ぎない。渡り鳥が国境線を気にしないように、ランナーにとってもそこがどの市であろうと特に意味はない。

州立公園に入るとトレイルは最高地点を越え、“Ridgeline”と呼ばれる山の稜線を走る。両側にはなだらかな山が連なり、遠く前方には海が見える。視界を遮る人口の建物は何もない。空は青く、雲は白く、トレイルの脇には鮮やかな緑と色とりどりの花が咲いている。これ以上の景色を望むことが出来るだろうか。

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山から海へと向かっているわけだから、ここからは基本的にはなだらかな下り坂が続く。それでも、ラクダのこぶのような起伏がいくつかあり、それを登ったり下ったりしながら、1つこぶを乗り越えるごとに海が近づいてくる。ワクワクしてくるが、もっとこの景色の中を走っていたいというのも正直な気持ちだ。

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南カリフォルニアのトレイルランがいつもこんなに素晴らしいわけではない。炎天下の下、厳しい日差しを遮るものが何もない荒地の道をあえぎ走ることも多い。しつこく繰り返すようだが、今が1年でも貴重な、ほんのつかの間のベストシーズンなのだ。そのことを思い、かみしめるようにゆっくり走った。ぼくの走力が足りず、疲れたわけでは決してない。

1時間半ほどで海岸に着いた。そこもまだ州立公園の中なので、住宅や商業施設の開発は厳しく制限されている。岸壁に囲まれた、静かな砂浜の海だ。

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売店、自動販売機すらないので、バックパックに背負ってきた水を飲み、ナッツを齧りながら、海を眺めつつ迎えの車を待つ。何かとてつもなく贅沢な時間を過ごしている気分になるが、実際には家を出てから2時間も経っていない。

遠くに行くことだけが旅ではない。ただのジョギングでも、少し普段と違う場所を走ってみるだけで、こうして非日常を味わうことができるのはランナーの特権だと思う。次は少しルートを変えるか、あるいは州立公園内のキャンプ場に1泊するのも面白いかと考えている。

■今回のRuntripのコースはこちら。