【サムライの親たち】侍ジャパンの親たちの「子育て」(宇野家/後編)

長男は強豪桐蔭学園でレギュラー。次男、三男はともにU12の侍ジャパンにも選ばれたという三兄弟の父である宇野誠一さん。後編では三兄弟の母である博子さんにもお話をうかがった。

仲間のことを考えられるようになったことの方が嬉しい

宇野家の玄関、リビングにはいたるところに野球用具が置かれており、三兄弟がいかに野球に打ち込んでいるかがよく分かる。しかしその裏では母の博子さんの負担も大きかったことは間違いないだろう。そのあたりで夫婦間の衝突などはなかったのだろうか。

――ご自身も社会人野球で多忙で、お子さんが生まれたら今度は少年野球、シニアリーグと野球漬け。そんな生活で奥様からの不満はありませんでしたか?
宇野さん「野球をやってほしくないということで何かを言われたことはなかったと思っています。ただ普段の生活でやっていないことがあると当然不満は言われますね。そういう時はこちらが悪いのでただただ『ごめんなさい』と謝るだけです(笑)。
でも休日は野球が中心ですが、長男がまだ小さい時は家族全員で旅行に行ったりする機会はよく作っていたと思います」

ここからは実際に三兄弟の母、博子さんにもお話を聞いた。

――男の子の場合、お母さんから受ける遺伝的な影響も大きいとよく聞きますが、お母さん自身は何かスポーツをされていましたか?また野球との関りはありましたか?
博子さん「子供のころから大学まではずっと水泳はやっていました。野球に関しては全く知らなかったです。でも知らないからこそ自分の子どもが一番だと思って応援しています(笑)。それが良かった部分はあるかもしれませんね」

――少年野球でも中学野球でも親の負担が結構大きいという話も聞きますが、そのあたりで大変だったことはありませんでしたか?
博子さん「長男の時は分からないことが多くて大変でしたけど、次男、三男とだんだん勝手が分かってきたので今は楽しんでやっています。当番の時間を嫌な時間にせずに、楽しい時間にするために自分でどんどん入り込んでいった方がいいと思いますね。

ただお仕事や他の兄弟の都合でできないお母さんもいるので、その場合は平等を求めるのではなくて、できるお母さんがやるべきだと思います。お話ししたように野球のことは知らなかったですけど、教えてもらってスコアをつけるようなこともできるようになって、それもまた楽しいと感じるようになりました」

何事も楽しみながら行うという姿勢は野球少年を持つ母親にとっては参考になることではないだろうか。また、子どもの成長が感じられることも博子さんにとって大きな喜びとなっているようだ。

――お子さんがこれだけ野球で活躍されていることはやっぱり嬉しいですよね。
博子さん「もちろん野球の結果もそうですが、それ以上にチームメイトのことを考えられるようになったことの方が嬉しいです。次男が侍ジャパンに選ばれた後に、同じチームのみんなにも大きい舞台を経験させてあげたいと言っていたんですね。それで実際に自分所属しているチームも頑張って全国大会まで出た。そういうことの方が親としては嬉しいものですね」

――育ち盛りの男の子が3人いると食事についても大変な部分もありませんでしたか?
博子さん「朝の集合が早い時はお弁当を作るのが大変ですけど、それでも子どもたちを送り出すと一仕事終わったと思ってすっきりします。日々のご飯についてもいっぱい食べてくれる人がいた方が作り甲斐があるじゃないですか。自分のためにだったら作っていても楽しくないと思います」

次男の竜一朗くんが侍ジャパンに入ったことで栄養指導を受ける機会があり、それをきっかけに栄養学についても勉強したという博子さん。そんなお母さんのバックアップがあったことが三兄弟の成長を支えていたことは間違いないだろう。

子どもたちを「信じ、待ち、許す」


野球をしている子どもを持つ親が気になるのは、やはりどうやったら上達するかというポイントではないだろうか。そのあたりを再び宇野さんに聞いてみた。

――三兄弟ともこれだけ順調に上達したわけですけど、何か秘訣があるとすればどのあたりになるでしょうか?
宇野さん「明確にこうしたから良かったということは正直分かりません。ただゴールデンエイジ(※)と言われる時期に、何かしらの経験をしたことが良かったのかなと思っています。水泳だったり体操だったり、またサッカーもやっていたり。

あとは長男がボールを怖がったこともあって、どうやったら怖がらずに受けられるのかなということを考えるようになりました。そうやって小さな成功体験を積み重ねていって、本人たちがやる気になって自分から取り組むようになったことは大きいかもしれませんね」
※ゴールデンエイジ:神経が著しく発達する時期で、一般的には10歳前後の数年間と言われている。

――子供の頃からこれだけ順調に成長していると将来も楽しみだと思いますが、宇野さん自身も期待している部分は大きいですか?
宇野さん「よく言われますけど、将来のことはまだまだ分かりません。12歳の時に上手だったからと言っても、中学、高校、大学でどんどん上手くなる子もたくさんいます。プロに行ければそれは嬉しいことですけど、そのためだけに野球をやっているのではありません。

侍ジャパンについてもまずそういう機会があって、それに向かってチャレンジしたことが大事だと思いますし、親としてはそういう機会を子どもに与えられたことが良かったと思っています。当然チームではエースで4番みたいな子の集まりですから、その中で試合に出られない経験もする。そうするとそういう子の気持ちも分かるようになる。そういうことが大事だと思いますね」


――将来お子さんがこうなって欲しいという願望はありますか?

宇野さん「さっきもお話ししたように子どもの間は親が機会を与えると思いますけど、大人になったら自分でそういうチャレンジする機会を作って、乗り越える力を身につけてほしいですね。リクルートでよく言われている『自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ』じゃないですけど、それは重要なことだと思います。そのためには心や仲間が大事ですし、そのために野球があると考えています。

自分は大人になってからも野球と携わってきましたけど、子どもたちも野球が好きなら続ければいいし、それ以上に打ち込めることがあればそれでいいと思っています。あと子ども接する中で気を付けているのはスクールウォーズに出てくる『信じ、待ち、許す』ということもありますね。子どもですから足らない部分があって当然です。そんな時にあれこれ言いたくなるんですけど、もう少し信じて待ってみようと夫婦で言い合うこともよくありますね」

仁志監督からの手紙

仁志敏久U12監督から送られた次男・竜一朗くんへの手紙

こちらは三男・真仁朗くんが仁志監督から今年もらった手紙。

子どもに真剣に野球をやらせている親というと、どうしても『巨人の星』のようにスパルタなイメージが強いが、宇野さんの場合は全くそれには当てはまらなかった。
取材当日は三男の真仁朗くんも在宅中だったが、何かを強制することや指示するようなことはなく、対話しながら接する両親が強く印象に残った。
そうやって自発的に子どもが取り組む環境を作り、チャレンジする機会を与えてきたことが三兄弟の成長に繋がったのではないだろうか。野球少年の子どもを持つ親にとって非常に参考になる宇野家の事例だった。(取材:西尾典文/写真:編集部)