【明石商業】狭間監督が投打の中心、中森と来田に寄せる期待
来年、投打で注目を浴びるであろうエースの中森俊介投手、来田涼斗中堅手を入学直後の1年生の春から起用し続けている狭間善徳監督。指揮官は2人のどこに着眼点を置き、成長を見守っているのか。そして今後の2人にどんな期待を寄せているのかを聞いた。
マジメすぎる一面もある中森
1年春からすでに公式戦のマウンドに立っていた中森俊介は、当時16歳とは思えない落ち着いたたたずまいが印象的だった。そんな中森について狭間善徳監督は、やはり「頭が良くて学業も優秀」と一言。そのうえ、中森のこんな一面も明かしてくれた。
「高校生は、何かを指示すると“ハイ”と大きな返事をしても全部やり遂げられるかと言えばそうとも限らない。でも、中森はこちらが一度話したことをちゃんと理解して、最後まで全部やり遂げられる。ただ、マジメなのはいいのですが、マジメすぎる一面もありますね」。
今年は春、夏と甲子園のマウンドを踏み、共にベスト4。秋季大会には多くのファンが球場に押し寄せ、中森がその場を通ると歓声や黄色い声が中森を包み込んだ。だが、そんな空気の中に身を置いても、中森は浮かれた表情を見せることは一切なかったという。
球のスピードは入学時から同学年の中でも群を抜く速さだったが、指揮官が特に気になったのは体の硬さ。高校入学直後は腹筋ができないほどだったというから驚きだ。
「体幹もそうですが、特に気になったのは肩回りの硬さ。今でも中森の悪い時は腕が内に入ってしまうのですが、これも肩回りの硬さが原因です。入学時から肩回りのトレーニングをしたり、チューブでインナーマッスルを鍛えたり、色んなことはやってきました」。
打撃のいい中森は外野を守ることもあるが、外野からの返球は確かに速くても、驚くようなボールを投げていた訳ではなかった。「そのうえ中森は体幹がもろくて背筋も弱い。速いボールを投げる投手=背筋が強いはずなのに不思議でしたね」(狭間監督)。
それでも甲子園であれだけ速いボールが投げられたのは、下半身の強さがあるからだろう。腰をきちんと回転させ、上半身へ力をうまく伝えることができる。
「でも、それはずっと出来ているかと言えばそうではないんです。体が硬いゆえに、腰が前に行く前に肩が内に入って、わき腹あたりで下からの力が伝え切れていないんです。だから、まずはまっすぐ立つようにって、よう言うてますよ」。
今秋の近畿大会の初戦の東山戦は3失点も167球を投げ切り完投したが、実はフォームがバラバラで無駄なボールが多く、球のキレも良い時のそれと比べると程遠いものだった。そのため次戦の大阪桐蔭戦までの1週間は、甲子園の映像と悪い時のフォームを見比べて細かい部分までチェックした。
「肩が入りすぎる部分を中心に何度も見直しました。修正していくうちに、徐々にボールが指にかかるようになった。この冬はその辺りをもっと見直して、来年に向けて完成していけたら。もちろん、引き続き体を少しでも柔らかくして、ケガをしにくい体にすることも大事やね」と指揮官は言う。
大事な試合で結果を残せる来田
そして1番打者の来田涼斗についても、入学時から異彩を放っていたことをあらためて確認できる。
「一番の魅力はスイングのスピードの速さ。高校に入ってきた直後の練習試合でも、高校生のピッチャーに対応出来たからね。中森とは違って体幹もしっかりしていて腹筋ができていたので、体が強いんだと思います。それでも1年生の時は細い方だったけれど、足の速さや体の強さは周りとは違っていました。来田の一番の凄さは練習や練習試合で打たなくても、大事な試合で結果を残せるところでしょう」。
どっしりとした下半身の力を呼び込んで、下の力でバットを引き抜ける。「下(半身)から力を伝えて打つと、体幹で力を伝える回路が切れてバットだけで打ってしまうことが多いんですけれど、来田の場合は体の回転の早さを使って打てる。良い時は下半身で力をためておいて、うまくバットに伝えることができる。」と指揮官は絶賛する。
だが、欠点もある。「目先と手の感覚だけで打っているところがあるんです」(狭間監督)。打席に立ってから、自身の感覚でタイミングや間を感じ取ることができない。投手との駆け引きの中で、うまく嗅覚を働かせることができず苦労する時期もあった。
「上半身と下半身が噛み合ってない時もあったのですが、どれだけアドバイスをしても、いざ実戦になるとどうしても感覚に走りがちになってしまうんです。本来は遠くに飛ばせる強いスイングができますし、タイミングをちゃんと図れて正しい体の使い方ができれば、怖いバッターになりますね。今の時点でも来田は打席に立てば独特の雰囲気があります。本人がもっと体の使い方に本気になって、この冬の間にうまい使い方を早く体に染み込ませていかないと。明徳でもこれだけのバッターは見たことがないですから」。
中森と同じく、普段から練習での意識は高く、キャプテンになりさらに自分がやらなければという自覚も芽生えた。狭間監督は「継続は才能」と常々言い続けている。自身の体の動きを見直しながら、じっくりコツコツとフォームを研究して最高学年になる来春、どんな姿を披露してくれるのか。その時が待ち遠しい。(取材・写真:沢井史)