「一斉に砂の上を走る人数」でギネスブック認定、ちょっと気恥ずかしいレース名の『サーフィン・マドンナ・ビーチ・ラン』

アメリカ・カリフォルニア州に住んで20年以上になる。ぼく・角谷剛の専門は、ストレングス&コンディショニングのコーチであるが、それとは別にフルマラソンなどを年に数回走る市民ランナーでもある。

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今、カリフォルニア州オレンジ郡にあるアーバインというところに長年住んでいる。ロサンゼルスとサンディエゴの中間にあり、生活圏としてはロサンゼルスに近い。仕事や日常の用事などでは北のロサンゼルス方向に向かうことが多く、週末や休日になると南のサンディエゴ方向に向かう。

サンディエゴにはパンダがいる動物園、象やキリンが放し飼いになっているサファリ、イルカと泳げるシーワールド、それにレゴランドまで、ありとあらゆる子供向け行楽施設が揃っていて、家族連れにはとても人気のある街だ。ぼくも子供が小さい頃は、何回アーバインとサンディエゴ間を往復したかわからない。メキシコとの国境に近く、異国情緒を楽しむこともできる。

アーバインとサンディエゴの距離は約140キロ。太平洋岸に沿って南北に走る高速道路(インターステート5)で行けば、1時間半ほどで着いてしまう。この高速道路とほぼ平行する一般道路があり、パシフィック・コースト・ハイウェイと呼ばれている。カリフォルニア全域に渡って、砂浜や断崖など変化に富む海岸線と魅力的な街を繋ぐ、「移動」するのではなく「旅行」するのに適した道だ。

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アーバインとサンディエゴの間のパシフィック・コースト・ハイウェイは、海岸沿いに小さな街をいくつも通り過ぎる。この区間は車でもいいが、自転車で走るともっと楽しい。多少の起伏はあるが、殆どが平坦な道で、サイクリング・コースとしての難易度はさほど高くない。途中に海兵隊基地があって、そこを迂回する以外はほぼ海岸線に沿っている。気合の入ったサイクリストなら1日でアーバインからサンディエゴまで行ってしまうし、海を眺めながらのんびりしたサイクリングを楽しむなら途中で1泊してもいい。

海岸線には鉄道(アムトラック)も走っていて、自転車をそのまま持ち込むことも出来る。輪行袋などは必要ない。車両の一つが自転車置き場になっているのだ。自宅からサンディエゴまで、往きはサイクリングで多少しんどい思いをして、帰りは鉄道の車窓から来た道を眺めつつビールを飲んだことがある。今思い出しても気分がいい。

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このパシフィック・コースト・ハイウェイ上にあり、サンディエゴに近い『Encinitas』という街で行われるビーチ・ランの案内が来たのが昨年のことだ。なんでも一斉に砂の上を走る人数が世界最大だということで、その年にはギネスブックに認定されるのだとある。『サーフィン・マドンナ・ビーチ・ラン』と何とも気恥ずかしい名前がついている。

ぼくは普段から近所のビーチで砂の上を走ることはよくやっているし、ギネスブックにも取り立てて興味はない。むしろどちらかと言えば、多くの人間で賑わうところを避け、空いている時間や場所を探すタイプの人間だ。フルマラソン以上の距離になると給水や補給が必要になるので、その為だけにレースに参加することもあるが、そうでない限りは1人で黙々と走る方が好きだ。『サーフィン・マドンナ・ビーチ・ラン』は5キロ、10キロ、12キロの3種類で、その距離なら給水エイドは特に必要ではない。それでいて参加費は64ドル(約7000円)と決して安いわけでもない。

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それなのに、このレースに出てみようと思ったのは、『Encinitas』という街に行ってみたかったからだ。何度か通り過ぎたことはあるはずなのだが、不思議なぐらい、どんな街だったか記憶がなかった。ただ、あの辺りはどこを切り取ってもきれいなビーチと小さな落ち着いた雰囲気の街が続いていて、行くたびにのんびりした気分になったことは覚えていた。ちょうどその頃、吉田秋生の『海街diary』をよく読んでいたことも理由の一つだ。鎌倉と北サンディエゴ郡では随分と様子は違うけれど、大都会から少し離れた海沿いの街、という点で共通しているように思えたのだ。

Encinitasの駅は単線無人駅。ビーチからは徒歩3分の好位置にある。

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Encinitasのメインストリートは数百メートル。小さなお店が並び、全国チェーン店はない。

さて、その『サーフィン・マドンナ・ビーチ・ラン』であるが、スタート時間は午後1時半とかなり遅い。言うまでもなく、引き潮で砂浜が広くなる時間帯を狙ったためだ。公道を走るレースと違い、交通規制が必要ないから、早朝にスタートする必要もないのだ。

これはぼくのように観光がてらの参加者にとっては都合がいい。午前中に到着すれば、のんびり海岸を散歩したり、ゆっくりランチを楽しむ時間がとれる。タイムを競うようなレースではないので、スタート前の準備でカリカリすることもない。

レースが行われるビーチに行くと、スタートとゴールのゲートが隣り合わせで砂浜の上に設置されている。ランナーはスタートのゲートをくぐり、北に向かって走り、ある地点でUターンして、ゴールまで帰ってくる。最初から最後まで砂の上を4000人以上が走るというだけあって、とにかくやたらと広い砂浜だ。ほぼ1直線の海岸なので、どこからでもコースの殆どを見渡すことが出来る。実にわかりやすいコースだ。

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スタート1時間ほど前になると、徐々にランナーが集まり始め、少しだけ賑やかになるが、さほど込み合った印象はない。受付を済まして、ゼッケンを受け取ると、あとはのんびりするだけだ。天気は上々。砂の上に寝転んで日光浴をしながら開始時刻を待っていると、自分が何をしに来たのかを忘れてしまいそうになる。周りのランナーからもリラックスした雰囲気が伝わってくる。

ぼくはゼッケンを太腿に着け、シャツを脱いだ。周りもそうしている人は多かった。砂はかなり固く湿っていて、裸足で走るには適さない。殆どのランナーは普通にランニング・シューズを履いていた。

こうして始まったギネスブック認定世界最大のビーチランだが、走り出してからは特に書くべきことはあまりない。単に砂の上を大勢のランナーに混じって走っただけだ。多少、砂に足をとられたり、靴が海水で濡れるようなことはあったが、タイムにこだわるわけでもないので気にはならない。なによりこの風景の中では、「海は広いな大きいな~」みたいな気分にはなっても、なかなか急いで走ることには気持ちが向かないものだ。

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特にエキサイティングでもチャレンジングでもドラマチックでもない。それでも1年に1回ぐらい、こんなレースを走るのも悪くはないと思わせてくれる1日だった。何もレースでなくても、自分で勝手にビーチに来て走ったって全然いいわけだけど、人にはきっかけというものが必要なのだ。

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大会公式サイト:https://surfingmadonnarun.org/

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