【仙台育英】須江監督が掲げたオフのテーマは「デカく! 速く!」

東北大会で3年ぶり10度目の優勝を果たした仙台育英。夏全国8強を経験した6人が残る布陣で、4試合連続2ケタ安打を記録しました。強力打線に支えられ、夏メンバー外だった左腕・向坂優太郎投手(2年)が台頭。笹倉世凪投手、伊藤樹投手の1年生投手コンビも健在で、投打に安定した実力を見せた秋の戦いでした。センバツ出場が有力視される仙台育英。この冬のテーマを須江航監督に伺いました。

春12回、夏27回の甲子園出場を誇る東北地区の雄・仙台育英。今年の夏は甲子園で8強入り、茨城国体でも4強入りを果たし「東北勢初の全国制覇」の期待がかかる強豪校の一つだ。甲子園では2001年春、2015年夏に準優勝。2012、2014年に神宮大会優勝を果たしており、近年は安定した強さを見せ続けている。

野球部のグラウンドは仙台校舎(本校)から電車で約20分の多賀城校舎の敷地内にある。「なかなかスタンドインできない」と言われる両翼100m、中堅120mの広さを持つ全面人工芝の野球場(通称:真勝園)で、東日本大震災被災後の2013年に完成された。隣接する室内練習場はマシン3カ所、ティー打撃ができる十分な広さを持ち、朝6時から自主練習をしている選手も多くいる。卒業生の上林誠知(ソフトバンク)、熊谷敬宥(阪神)、平沢大河、西巻賢二(ともにロッテ)ら、数多くの選手がプロ野球で活躍している。

2018年1月。系統の秀光中等教育学校(以下秀光中)野球部の監督を10年以上務めたOBの須江航監督が仙台育英の監督に就任した。2014年全中で全国制覇を果たした経験をベースに、今の時代に合った高校野球の指導法を模索し、奮闘を続けている。秋の東北大会で優勝を修め、チームでは3年ぶり、自身では初となるセンバツ出場が確実視されている。

強打線のカギ。「始まりはいつも田中」

須江監督に今年のチームの特徴を聞いた。
「複数の甲子園を経験した下級生が残っているので、さまざまな試合展開に対して落ち着きがあります。この秋に関してはそれが非常に生きたなと思いました。ゲームの中で『あ、この子たち落ち着きがあるな』と感じたシーンが多々あったのです。具体的には中盤から終盤にかけての強さです。9イニングで勝ち切ればいいんだという落ち着きが見られました。終盤にひっくり返せる能力というのは、すごい有能な選手がいてもできないことかもしれない。いまのチームの特殊能力、大きな武器だと思いますね」

東北大会2回戦(明桜戦)は延長11回の粘り勝ち、決勝(鶴岡東戦)は8回裏の逆転勝ちだった。宮城県大会・準々決勝(東北戦)まで振り返れば、笹倉選手(1年)が9回裏にサヨナラ3ランを放ち試合を決めている。大舞台を経験した下級生選手たちの「経験力」が終盤の逆転劇につながった。そこにはもちろん、東北大会全4試合で2ケタ安打(計68安打)を記録した強打線があったからだろう。「全国大会でいろんなタイプのピッチャーと対戦したことが自信につながっている」と須江監督。打線のキーマンに2番を打つ主将の田中祥都(2年)を挙げた。
 
「長打のある4番入江(大樹=2年)に目が行きがちですが、試合を動かすきっかけを作っているのはすべて田中。冷静な観察眼があり、野球偏差値が非常に高い選手で、野球の強・弱・柔・剛の使い方が巧みです。ベンチでは『始まりはいつも田中』が合言葉になっています。能力以上のものを発揮する選手ですね」と信頼を置いている。

冬の気候に合わせ「デカく! 速く!」

投手力は背番号8の向坂投手(2年)が全4試合に登板。準決勝(盛岡大付戦)で13奪三振、被安打3(失点2)の好投でチームをけん引した。5人の投手の特性を生かして継投策で勝ちあがった仙台育英。 神宮大会の初戦敗退(天理戦)も一つの経験値としてとらえ、次なるステージに向けて構想を練っているところだ。「今年の冬はどんな冬になるのか。12月に雪が多いのか少ないのか。それによって練習メニューが変わります」。東北地区ならではの「冬の天気」に合わせて、柔軟に対応することになる。

練習のテーマは「デカく! 速く!」。身体を鍛えて心肺と筋力を強くしながら、俊敏性にもこだわっていく予定だ。「身体が大きくなっても、走るタイムが遅くなってしまっては本末転倒。ダッシュ系のタイムを落とさないように、身体を作ります。走塁はもちろんですが、足が遅くなるとディフェンスにも影響が出ますからね」。

須江監督は秀光中時代も走塁にこだわってきた。守備の時間をいかに短くして、攻撃の時間を長くするか。ポゼッション(支配率)を上げるためには出塁がカギとなる。仙台育英にもこの考えを取り入れ、この冬は走塁をさらに強化していくつもりだ。
「2018年、夏の甲子園で浦和学院に負けてから『1000日以内に日本一になる』と期限を決め、自分の中に覚悟を作りました。いまはまだ道半ばですが、一つ一つの段階を経て、幸福度の高い、面白い野球ができればいいと思っています。準備していきますよ、焦らず、じっくりと」。幸福度と勝利。2つの夢を貪欲に追い求める。(取材・撮影:樫本ゆき)