【八千代松陰】限られた時間を有効活用!質と効率を高めた練習

昨年夏の千葉大会では強豪ひしめく中、決勝進出という結果を残した八千代松陰。スポーツが盛んな学校ではあるが野球部員は全員が自宅から通っており、練習時間も決して長くとれる環境ではない。前編ではそんな中で結果を出すための工夫や方針を兼屋辰吾監督にうかがったが、後編では取材当日の具体的な練習や狙いについてお届けする。

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前編「19時完全下校でも2年連続プロ輩出!狙うは3度目の甲子園」

前編でも触れたように兼屋監督は沖縄尚学から筑波大という経歴である。高校と大学ではかなり環境も方針も異なっていたようだ。
「高校は沖縄でしたけど、当時の監督は岡山出身だったので、オフの期間もトレーニングは結構やっていました。練習時間は今のうちと比べると長かったですね。自分でも結構長くやりたいタイプだったので(笑)。大学はレベルについていくのが大変でしたけど、量というよりも何のためにやるかという目的を考えてやっていたと思います。今も平日は全体練習の時間は短いので運動量にするとそれほど多くないですし、もっとやった方がいいかなと思うこともあります。どっちかに偏り過ぎることなく、バランス良くといったところですね」

平日の練習は16時にスタートし、19時が完全下校ということもあって2時間半程度という八千代松陰。全ての練習を一日に行おうとしても非効率ということで、テーマを絞って行うことが多いという。取材当日のメインとなったのはバッティング。2分間×6セットで回すというものだったが、実際に打てる球数は多くないため、それを補うような工夫が見られた。まずバッティングの班で順番を待っている選手はケージの外で必ず素振り。兼屋監督からも実際に打っている選手だけでなく、素振りをしている選手に対して指摘が飛ぶことも少なくなかった。

また、ケージの横にはタブレット端末を設置。撮影した動画を時間差で再生することができるアプリを利用しているとのことで、打ち終わった選手が自分のフォームをすぐに確認する姿が見られた。このあたりも少ない本数を有効に活用する取り組みと言えるだろう。

練習の質を高めるには選手の意識が重要

またバッティング練習がメインではあるが、打っていない選手も他の練習を同時並行で行っている。この日は野手を6つの班に分けていたが、打球もただ受けるのだけではなく守備練習として行っていた。また走塁を行う班も、打球に対する判断をメインに練習する姿が見られた。全く別の練習をしているのはグラウンドの外でショートダッシュを行っている班だけであり、あくまでバッティング練習と言ってもそれに対する副次的なプレーは全て練習という位置づけで行っていると兼屋監督は話す。
「今日の練習は最後のランニングメニュー以外はずっとこの形です。色々やろうとするとそれだけ時間もかかりますので、テーマは絞ってやることが多いです。ただバッティングと言っても、実際に打っている以外の選手にとっては生きた打球を受ける練習になりますし、打球に合わせて走塁練習もできます。トータルで見てバランス良く練習するようには心がけていますね」

2分間を6セット、合計で12分間のバッティングを6班が行うことになるので、単純計算でそれだけで72分費やすことになる。当然入れ替えの時間もあるのでそれ以上かかるのだが、この時間をいかに短縮できるかがカギになってくる。選手達も実際に練習を行っている時以上に、入れ替えや移動の時に大きな声が出て素早く動いている姿が目に付いた。
 
もうひとつ特徴的だったのが、高校野球の練習にありがちなお互いを叱咤するような声があまり聞かれなかったところだ。もちろん必要な指示の声などは都度飛ぶのだが、どの選手もプレーそのものに対して集中して、考えている様子が多かった。この日、投手陣は野手とは完全に別行動でトレーニングとフォーム固めがメニューであり、ブルペンでは並んでシャドーピッチングを行っていたが、その様子を見てもそれぞれが課題を持ってポイントポイントに気をつけながら取り組んでいるように見えた。

また、兼屋監督の選手に対する指摘もプレーそのものよりも目的意識についてのものが多かった。限られた時間、環境の中で結果を出すためにはやはり質を高めること。そして練習の質を高めるには選手の意識が重要だということなのだろう。そんなことを強く感じさせられる八千代松陰の練習風景だった。(取材・文/写真:西尾典文)