【天理】あらゆる年代の指導経験を持つ中村監督の指導論

86年の天理の全国制覇時の主将で、その年にドラフト2位で近鉄に入団した中村良二監督。11年間のプロ生活を終えた後はリトルシニアや天理大学の監督を務めた経験も持つ。そんなあらゆる年代の指導経験を持つ中村監督に、高校生への指導についてお話を聞きました。

いかにシンプルに分かりやすく伝えられるか

中村良二監督は、天理OBで86年の天理の全国制覇時の主将で、その年にドラフト2位で近鉄に入団し、阪神も含めて11年間プレーした元プロ野球選手でもある。

ただ、プロでの経験がすべて高校野球に直結する訳ではない。それはもちろん、プロと高校生では明らかに技量、体力が違うからだ。「経験があるからと高校生に全てを指導するのは危険が伴ったり故障する可能性が高い。高校生がこれぐらいのことができていたらいいな、という練習メニューを常に考えています」。

例えばプロなら1箱(約100球)続けて打つティーを、天理では10球ほど続けて打たせて、間を置いて再び打たせている。プロは打ち損じをほとんどしないのと、集中力の違いがあるからだ。量をこなせばいいと極端な量を高校生に課すと無理をさせることで体に無駄な動きが出てしまい、故障に繋がる。「足首をひねるとか、体幹が弱いので無理をして腰痛を起こすとか、色んな弊害が起きます。本来は背中側から投げるティー打撃もやってみたいと思うのですが、投げ手にも打つ方にもリスクがあるので、不可能なのが現状です」。

中村監督は、天理高のコーチ、監督になる前には天理大でも監督を務めたが、その前に9年間、藤井寺リトルシニアで中学生も指導した経験がある。ただ、中学生の指導は想像以上に難しさがあったという。
「教えたくても伝わらないことが多すぎて、どう伝えれば理解して身につくのか模索しながら指導していましたね。ようやくその流れが分かってきた9年目に大学の監督をすることになったのですが、中学生を指導して学んだのは、いかにシンプルに分かりやすく伝えられるか。我々はプロにいた時にどうしても難しい言葉を使いがちでしたが、うまく伝えるにはどれだけ簡単に物事をとらえて、うまく伝えるか。この経験は今にも生きています」。

その後、大学生を指導した際はさらにジャンプアップした指導力を要した。中学生なら半年から1年かけて身につくことは、大学生なら2、3カ月で習得できた。その後、天理のコーチになると、高校生はその間くらいで習得できるのかと思いきや、高校生は大学生に近い期間でマスターした。「高校生は甲子園に行くことなど目指すものが明確になるので、そこに合わせて練習に取り組むので、課題を見つけやすいし、身に付けやすいというのもあるんじゃないですかね」と中村監督は分析する。

打撃指導に関しては、中村監督はある“順序”を敷いている。「このスイングができないとバッテリーと勝負できないというポイントが実はいくつかあるんです。それは一度に全てを教えても身に付けることは難しい。ですので、それをパーツ(項目)に分けて教えるようにしています。バットを振りだす時の位置、感覚、インパクトはどう当たるのが理想か、軸足はどう回すのか。それぞれに分けて教えると結構分かりやすいことが分かったんです。ひとつひとつ分けて教えて、それらをパズルのように組み合わせていくと、きれいに振れるようになる。パーツごとに練習していけばスイングがきれいになるし覚えやすいんですよ」。

大切にしている球児たちの主観

天理では入学して寮生活にある程度慣れてきた5月頃に1年生を集めて、中村監督が身振り手振りでその項目ごとに座学を含めた指導をする。見聞きしたその講義や技術指導の内容を選手がノートに記入してそれを実践させ、ある程度理解すれば次のパーツ(項目)へ。

中村監督が打撃に関して熱心に指導するのはこの時期だけで、以降は本人の感覚やレベルに応じて考えながら取り組ませている。もちろん節々でアドバイスは送るが、分からないことが出てくればそのノートを見直すなどして自分を顧みる。あまりに手取り足取り教えてしまうと、何でも鵜呑みにしがちな高校生の主観が失われてしまうからだ。

さらに中村監督は、選手の練習を見て必要な打球の種類を表に記して選手に見せる。ゴロ、ライナー、フライの3項目があり、割合を10として、例えばゴロは3、ライナーは5、フライは2、という具合だ。
「ホームランが打てない子にフライを打たせてもアウトが増えるだけだし、ホームランを打てる子にゴロを打てというのももったいない。
ただ、遠くに飛ばせる子は空振りが多い傾向があります。逆に空振りが少ない子はゴロが多い。力がついてくると元々ボールが当たる子だと、ゴロがライナーに変わって、ライナーがフライに変わります。今、在籍している子でもそういう可能性を秘めている子はいます。空振りの多い子はライナーを打つ意識を持つことできちんとインパクトできるようになるんです。フライを打たそうとするとボールの下から叩くようになるので、空振りが増える。ライナーは真ん中を叩くので当たりやすくなるんですよ」。

そういった中村監督独自の見解で、全員の割合の数値をはじき出し、作成された表はバッティングゲージに貼り付け、練習中に選手達がすぐに見られるようにしている。成長すればもちろん数字の見直しはするが、数字にすれば見る方も実に分かりやすい。実際にその表をもとに選手たちの打球への意識が変わり、打球の質が変わったという。「僕の独断と偏見なんですけれどね」と中村監督は苦笑するが、それぞれの選手が自分の持ち味を大事にしながら成長してほしいという狙いがある。

「僕はプロで一流になれなかったですが、プロでの生活は学ぶことの多い11年間でした。今、指導する側になって“自分がそうだったよな”と思いながら練習を見ています。自分がもし一流選手で今の立場にいるとしたら、どうなっているのか分からないくらいダメだったと思いますね」と中村監督。ただ、こういった生きた指導が、天理の各打者の意識を変えていっているのは間違いない。(取材・文・写真:沢井史)

*次回は天理高校の練習の様子をご紹介します。