『打撃伝道師 神奈川から甲子園へ――県立相模原で説く「コツ」の教え』バッティングの考え方と技術論

 バッティング指導に定評のある県相模原・佐相眞澄監督。川崎北時代には桐蔭学園をコールドで下し、打が売りの横浜創学館に18対8で打ち勝ったこともあった。現在の県相模原でも、昨夏の準々決勝で横浜を8対6で倒すなど、その指導力に磨きがかかっている。著書『打撃伝道師 神奈川から甲子園へ――県立相模原で説く「コツ」の教え』の中から、バッティングに対する考え方や技術論を紹介したい。

1.バットを持ったバッターが有利

「バッティングは一流打者でも3割。ピッチャーのほうが有利」という声をよく聞くが、佐相監督の考えは違う。
「野球はバッターとピッチャーの1対1のケンカ。バッターはバット、ピッチャーはボールを持っている。戦ったらどっちのほうが強いか。バットを持ったバッターのほうが強い!」
 人によっていろいろな考えがあるだろうが、「バッターのほうが強い」と思ったほうが、メンタル的に有利に立てる。昨夏の準々決勝の横浜戦、5回終了時まで0対5とリードされていた。グラウンド整備中、佐相監督は「野球は1対1のケンカ。バッターのほうが有利だ!」と檄を飛ばし、選手の気持ちを奮い立たせた。

2.上達のカギは守破離にあり

 武道や茶道などでの修業における師匠と弟子の関係性を表した「守破離」。守って、破って、離れる。佐相監督も“上達のカギ”として、守破離の考えを大切にしている。
「技術を習得するうえでも、守破離が大事になります。『守』はいわば基本の型。型を学ぶから、『型破り』ができるわけです。この基本を習得しないうちに、『破』に進んでしまっては、どこかでカベにぶち当たることになります。基本が疎かになっているため、自分自身が立ち戻る場所がなくなってしまいます」
 3年生に上がるまでの間に、構え方やトップの位置、軸足のヒザの使い方など、基本となる型を徹底的に覚える。そのうえで、「トップをもうちょっと深くしたい」など、自分なりの色が出てくるのであればいい。それ以前に「自分流」に突き進むと、型のないバッティングになってしまう。

3.構え=スタート

「構えは自由でいい」という監督が多いが、佐相監督は構えを大事にしている。
「構え=バッティングのスタートです。短距離の選手がクラウチングスタートの姿勢を研究するように、バッターも力を発揮しやすい構えを研究するべきです」
 大きなポイントとなるのが、つまさき・ひざ・肩が一直線に並んだパワーポジションで構えることだ。パワーポジションを作ることで骨盤が前傾し、股関節周辺の筋肉が働きやすい姿勢を作ることができる。
 もうひとつは、リラックスして構えること。「打ちたい」「おれが打たなければ負ける」と思うと、僧帽筋に力が入り、肩がグッと上がりやすくなるが、こうなると肩甲骨の可動域が狭まってしまう。
 チャンスが来たときこそ、どれだけ平常心で臨めるか。県相模原ではメンタルトレーニングのひとつとして、自らを客観視するために、架空実況中継をしながら打席に入る練習をしている。

4.下半身から動きを確認する

 グラウンドでバッティング練習を行うとき、佐相監督は三塁側ベンチのイスに座って、バッターのフォームを確認することが多い。
「横から見たほうが、バッターの動きがわかりやすい。それに、試合もベンチから見るので、同じ視点で見たほうがいいと思っています」
 普段はメガネを掛けているが、バッターを見るときはあえてメガネを外す。ぼんやり見ることで、全体像をとらえやすくなるからだ。
 そのうえで、特にチェックするのが下半身の動きになる。「下を正しく使えれば、スイング軌道もよくなる」という持論があり、「内転筋のリレー」「後ろヒザを斜め下に使う」「踏み出し足のつまさきは20〜30度で着地」など、基本技術の習得に時間をかけている。(文・大利実/写真・山下令)

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佐相眞澄 著(県立相模原高校野球部)
< 仕様 >四六判240ページ
定価1,600円+税 2020年2月25日発売