【鳴門】再び甲子園常連校に!チーム一丸の取り組みとは
世界三大潮流の一つとして知られる「鳴門の渦潮」。最大で直径30メートルもの渦が発生するという鳴門海峡のそばにある徳島県立鳴門高等学校は、今年、創立109周年を迎えた伝統校だ。甲子園常連校でもある同校硬式野球部で、その強さの秘密に迫った。
「うずしお打線」で黄金時代を築いた古豪

鳴門海峡に渦巻く激しい潮流になぞらえた、「うずしお打線」と呼ばれる打撃力で知られる徳島県立鳴門高等学校硬式野球部。甲子園初出場は前身の撫養中時代の昭和13年。以降、昭和25年夏に準優勝、翌春に優勝、さらにその翌春には準優勝を遂げるなど春8回、夏12回、合わせて20回の甲子園出場を果たしている。
そのうち9回、部員たちを甲子園へと導いたのが、同校のOBでもある森脇稔監督だ。「昭和の黄金時代、チェンジの際に選手たちが全力で走ったことから、『全力疾走の鳴門』とも呼ばれていました」と話す。当時、甲子園という大舞台に緊張した選手たちが、無意識に全力で走っていたという裏話もあるが、その清々しい精神は現在も受け継がれていた。

1年生13人、2年生17人、3年生10人の部員たちは、冬場に名物の坂道ダッシュで脚力を磨いている。走力トレーニングの舞台となっているのは、練習グラウンドの裏手にある霊園の坂道。管理者の方の許可を得て、約200メートルの坂道や石段を全力で10往復している。「冬にしっかりと走り込みをすることで、基礎体力や持久力を身につけ、身体づくりを行っています」と森脇監督。部員たちにとってはハードな練習ではあるが、仲間とともに苦しさを乗り越えることが、精神面の鍛錬にも繋がっているようだ。
OBの細やかな指導と親子で取り組んだ食トレ。

森脇監督は昭和60年から平成7年に監督を務め、一旦は他校に赴任するも平成19年から鳴門高校の監督に復帰した。2度目の監督就任以降の12年間で9回の甲子園出場を果たしている。古豪を再び甲子園常連校に導くために、就任以来新しい取り組みも積極的に行った。
その一つが、元プロ野球選手を含む同校OB4名の外部コーチを招聘したこと。打撃、守備・走塁、バッテリーなど個々に担当を持って指導してもらい、選手のスキルアップを行った。
もう一つ、平成29年秋から取り組んだのが食トレだ。きっかけは平成29年10月の第70回秋季四国地区高校野球大会で、徳島県の第一シード校でありながら、香川県の高松商業高校に5対9で逆転負けを喫したこと。後半に粘り切ることができない選手たちを見て「何かが足りない」と考えた森脇監督は、以前から導入を検討していた食トレを行うことを決意した。「食トレのためには保護者の協力が必要不可欠。幸いなことに、皆さんが賛成してくださり、本格的に食トレに取り組むことができました」。

実際に食トレを導入後、フィジカルだけではなく、メンタル面でも顕著な変化が現れたという。お弁当を含めた3食、身体づくりのために必要な食事を用意してくれる保護者の姿を見て、それまで好き嫌いがあった部員も、残さず食事をとるようになったというのだ。またお菓子やジャンクフード、炭酸飲料などを口にすることが一切なくなり、小魚やナッツ類、100%果汁ジュースをおやつとしてとるようになった。
「親への感謝で自覚がついたことは間違いありません」と森脇監督。食欲がないとき、無理をしてでも食べたり、逆に食べたいものを我慢したりの経験が、精神面での成長に結びついた。「(食トレで)これだけ頑張っているのだから、ちょっとやそっとのことではへこたれないぞ」というような気概が部内に満ちてきた。
その結果、第100回全国高校野球選手権徳島大会においては、初戦の城南高校戦では13対9で敗色濃厚だった8回裏に4点を取って同点に追いつき、最終回に1点を加えてサヨナラ勝ち。準決勝の富岡西高校戦では、10対6で迎えた9回裏、一挙5点を取り大逆転サヨナラ勝ちする。課題であった終盤の粘りで、決勝も制して、徳島県代表として夏の甲子園への切符を手に入れることができた。


食トレの効果は思わぬところにも出た。食トレ導入後、風邪やインフルエンザで休む部員はゼロ、徳島大会から甲子園まで、熱中症の症状を見せる選手も一人もいなかったという。
森脇監督は、高校卒業後法政大学へと進学したが、選手ではなく、チームマネージャーとして野球部に所属していた。裏方としてチームを支えた経験が、現在の柔軟なチームマネージメントに役立っている。もう一つ大きなのは人脈。実は食トレについても、他校の監督から情報を得て導入に踏み切ったという経緯がある。「培った人脈のお陰で、最新の情報を得ることができています」。
『岩をも砕く不断の力』で個々のレベルアップを

鳴門高校野球部は、元ヤクルトスワローズの秦真司、元西武ライオンズの潮崎哲也、元広島東洋カープの川端順ら多数のプロ野球選手を輩出している。また森脇監督の教え子ではJR東日本の板東湧梧選手をはじめ、社会人や大学野球で活躍中の選手がいる。そんな名伯楽の座右の銘は『岩をも砕く不断の力』。これは校歌の一節でもあり、いかに積み重ね、継続が大切かを説いた言葉だ。「うちは軟式野球出身者もおり、圧倒的な力を持つスタープレーヤーはいません。代わりに基本練習を繰り返す中で、個々のレベルアップを図り、当たり前のことを当たり前にできるチームを目指してきました」。
第100回全国高校野球選手権記念大会では、初戦で前年の優勝校の花咲徳栄とあたり、序盤から果敢に攻めて試合を優位に進めたが、終盤で逆転され惜敗した。この敗戦にも収穫があった。2年生エースの西野知輝投手が完投したこと。そして追い詰められた最終回に1点を取ることができた。「格上の相手に最後まで諦めない野球ができたことは、選手たちの自信に繋がったはずです」。
甲子園ではほとんどの選手が涙を見せることもなく、胸を張ってグラウンドを引き上げた。厳しい練習と食トレで力をつけた鳴門高校の野球部員たちは、この夏、大きく成長した姿を見せてくれた。
甲子園の思い出


花咲徳栄の野村佑希投手は、145km/hの速球とスライダーが持ち味。対戦相手決定後は、ピッチングマシンをこの速さと変化球に設定して練習をした。また宿舎では映像により球筋の研究を行った。その甲斐あって、1、2回の猛攻で計4点を上げられた。
管理栄養士の食事チェック

サバ味噌、練り物、魚肉ソーセージと魚をとり入れる工夫が素晴らしいですね。緑黄色野菜のかぼちゃは、ビタミンとエネルギーが一緒にとれるおすすめ食品。乳製品があればさらにバランスが良くなります。
白米、ふりかけ、梅干し、卵焼き、大学芋、煮物(かぼちゃ、にんじん)、サバの味噌煮、ちくわ、フィッシュカツ、ポテトサラダ、ブロッコリー、プチトマト、ほうれん草とソーセージの炒め物、オレンジジュース、魚肉ソーセージ。
鳴門高等学校 DATA
所在地 徳島県鳴門市撫養町斎田字岩崎135-1
学校設立 1908年
直近の戦績
2018年夏・県大会優勝、全国高校野球選手権1回戦
2018年春・県大会優勝、四国大会準決勝
2017年秋・県大会優勝、四国大会準々決勝