高校球児は東大めざせ!? 東大前監督に聞いた受験アドバイス(前編)

全国各地で“代替大会”が行われることになった今年の高校野球。甲子園が中止となったことで、何かをやり残した感覚が残っている3年生もいるのではないでしょうか? そんな球児には、ぜひ大学で野球を続けることを検討してほしいと思います。 ということで前東京大学(以下東大)野球部の監督で、学習塾の経営者としても長年受験指導に取り組まれてきた浜田一志さんに、大学で野球をやる意義、野球を終えてから受験勉強に向かう球児へのアドバイスなどをうかがいました。

野球で成功体験がある子はそれを勉強にも活かせる! 

――まず浜田さんが昨年まで監督を務められた東大野球部について簡単に紹介していただけますでしょうか。

浜田「特徴は大きく三つあると思います。まず明治4年に日本で初めて野球をやったという“歴史”ですね。次に天皇杯をいただいている東京六大学に所属しているという“栄誉”。そしてもうひとつが文武両道の最高峰にいるという“プライド”。このプライドについては各個人が持っていますし、否定する人もいないと思います」

――所属している選手の特徴みたいなものはありますか?

浜田「まず高い意識で野球にも勉強にも取り組もうとしている集団だと思いますね。あとは努力をすることに長けた人間が多いです。東大全体で見ると1%くらいは、クイズ王の伊沢(拓司)くんのように、人の言ったことをすぐ覚えてしまうような子もいます。ただ残りの99%は“努力を続ける才能”で合格してきた子たちです。知識を得ること、その知識の使い方を努力して身につけてきていると思います」

――浜田さんご自身も高校3年まで野球を続けられて東大に合格したわけですが、選手としてプレーしていた期間はどれくらい勉強されていましたか?

浜田「自分の通っていた土佐高校は練習の後に20時から21時半くらいまで寮で補習の時間がありました。それプラス、家で少しやったりしていたので1日あたり1時間半から2時間くらいですね。引退した後は凄かったですよ。授業も含めてですけど、1日15時間くらいやりましたから(笑)」

――寝ている時間と通学時間以外はずっと勉強しているくらいですね(笑)。ちなみに監督ご自身の東大合格に対するモチベーションはどのあたりにありましたか?

浜田「まず高校の先輩から言われたことが大きいですね。東大の野球部に入って4番を打てと言われました。あと同じ高知県では当時高知商が強くて、その選手たちはよく明治大学に行っていたんですね。彼らとまた東京六大学で対戦したいという気持ちもありました。あとはやっぱりやるからには勉強でトップのところを目指そうという思いはありましたね。
あと親が一浪まではOKと言ってくれたのは大きかったですね。野球で言うと二度打席に立てるわけですから。結果として僕は現役で合格することができましたが、一回しかチャンスがないと思うと、なかなか高いレベルにチャレンジしようとも思えないですよね」

――よく「文武両道」と言いますが、勉強を頑張ることで野球に生きてくることもやはりありますか?

浜田「当然ありますね。受験勉強でも問題を研究して対策を立てて臨みます。野球でも勝つために相手を研究しますし、自分たちの長所を生かす戦い方も考えますよね。そういう考え方の部分は共通していると思います。東大の野球部員なんかは勉強で成功体験を持っていますから、その考え方を野球の取り組み方に生かして伸びる子も多いですね」

――逆に言えば、勉強は一生懸命やっていなくても、野球で成功体験がある子が勉強にそれを生かすということも可能ということになりますか?

浜田「そう思いますね。野球で高いレベルを経験しているような選手は何かしら自分の長所やチームの長所を活かして勝ってきたわけですから、それを勉強に置き換えることも可能だと思います。勉強と野球、どちらかしかできないということはないですね」

勉強すれば誰でも東大に入れる!?

――すごくざっくりとした質問で恐縮ですが、勉強すれば誰でも東大に入れるものですか?

浜田「泳いで四国から大阪まで行けますか? という質問と同じで、時間をかければというのが答えになりますね。ただ例えば『1/2と1/3はどっちが大きい?』と言われた時に、通分しなくても直感で分かるような感覚は必要だと思います。そういう感覚は小学校の時に養われるので、それがある人であれば時間をかければ入れると思います」

――よく言う“地頭”が良いみたいなものもやはり重要ですか?

浜田「地頭というのはありますね。ただこれは生まれた家が大きいか小さいかという話です。ただ大事なのは整理整頓なんですね。地頭の良い人、家が大きい人は適当に物を置いておいても大丈夫ですよね。ただ家が小さくてもちゃんと整理整頓して使い勝手を良くすれば、十分に機能します。そういう話だと思います」

――非常に分かりやすい例えですね。

浜田「大学入試というのは必ず答えがあります。答えがあるものには対策を立てることができる。その対策が数週間でできる人もいれば、何年もかかる人もいる。そういうことですね」

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(取材・文:西尾典文/構成・永松欣也)

浜田一志さんプロフィール

1964年高知県生まれ。土佐高校野球部でプレーし、東大理Ⅱに現役合格。野球部でも主将として活躍した。卒業後は東京大学工学系大学院に進学し、新日鉄を経て1994年に学習塾「Ai西武学院」を開業。2013年から2019年までは東大野球部の監督を務めた。現在は全国各地で講演活動を行い、今年にはYouTubeチャンネル『文武両道はまちゃんねる』を立ち上げるなど、東大合格を目指す高校球児に向けて支援活動を行っている。
 
Ai西武学院
http://www.ai-seibu.jp/

文武両道はまちゃんねる
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