【仙台商業】下は向かない。打倒私学に「燃える」夏
今年の仙台商は、例年になく「打倒私学」に燃えている。
〝見えない敵〟の猛威により、代替となった夏の大会で「宮城県の頂点に立つ」と燃える士気の高さ。それを裏付ける力も備わっていると自負しているからだ。
きっかけは、昨秋の2つの敗戦だった。
ひとつは宮城県大会決勝。夏は3年連続で甲子園に出場する仙台育英に5回表まで1-0とリードしながら、その裏、微妙なコースをボールと判定されてから流れが相手に傾き、大量7失点。最終的に1-12の大差で敗れた。
もう1試合が、秋では19年ぶりの出場となった東北大会での青森山田戦だ。
1年生のサイド右腕、齋賢矢が相手打線を無失点に抑えながら、攻撃面では走塁ミスが顕著に表れ得点できず、9回サヨナラで0-1と辛酸を嘗めさせられた。
1球の怖さ。大一番で勝ち切ることの難しさを痛感した。しかし裏を返せば、それを補完さえできれば、強豪私学とも対等に渡り合えるという証左でもある。
シーズンオフにサーキットトレーニングを徹底し、私学のスピードとパワーを実感したことでウエイトトレーニングも導入した。
「東北大会に出させていただき、宮城県の21世紀枠候補にも選んでいただきました。生徒たちのモチベーションも高まり、冬のトレーニングは近年になく充実していたんです。今年の春と夏は本当に楽しみでした」
仙台商で歴代最長の17年目を迎えた監督の下原俊介がそう断言するほど、今年は本気で頂点を狙えるチームだった。
指揮官にとって、それは今も不変だ。
野球の技量だけではなく、心も成熟する。新型コロナウイルスの感染拡大によって、「人間力野球」をモットーとする仙台商の真価が発揮されようとしているからである。
3月に一斉休校となってから、選手たちは自主練習を余儀なくされた。下原は管理するだけでなく、それまで指導者だけが読んでいた野球ノートを、グループLINEを通じてチーム全員で共有することを決めた。
下原が意図を教えてくれた。
「生徒たちが個々で考えていることを偽りなく書いてほしかった。生徒たちの気持ちを切らせたくなかったこともありますが、一番はチームの繋がりを大切にしたかったんです」
5月に入ってからは、オンライン会議アプリ「Zoom」を活用し、本来ならば学校のホームルームが始まる8時30分からミーティングを行った。その後、午前中は勉強、午後からは練習と大まかな時間割を義務付けた。それも、野球部の繋がりを強くするためであり、何より選手たちの〝非日常〟を限りなく日常にさせる、下原の親心でもあった。
20日。夏の甲子園および都道府県大会の中止が発表され、全国の高校球児が涙に暮れるなか、仙台商も全員が涙した。
下原は選手たちに、こう諭した。
「野球に取り組む姿勢、チームの繋がりが『一番よかった』と、みなさんから言っていただけるような時間を過ごしていこう」
登校が再開した6月1日。仙台商は公式戦用のユニフォームで再スタートを切った。
チームカラーの赤がグラウンドで滾る。下を向く者などいない。野球ができる喜びを爆発させるように、白球を追った。
歩みが試される夏。「打倒私学」を果たし宮城の頂点に到達するまで、仙台商は心と体、そして、ユニフォームを燃やす。(取材・文・写真:田口元義)