【小山台】結束力のルーツは「ボトムアップ」。創部最多の111人で挑む夏
7月18日に開幕した東東京独自大会は、都立小山台が創部最多の111人で優勝を狙う。指導者、選手、保護者が一体となって戦う「全員野球」で2018、2019年夏に決勝進出。2014年センバツ以来の甲子園出場を予感させた。聖地への道は断たれても、甲子園を目指す心は生き続ける。23日に初戦を迎えるチームを直前取材した。
19日の日曜日、部員111人そろっての全体練習が行われた。共用グラウンドが全面使用できる11時にスタートし、7人×16班のローテーションでティー打撃、マシン打ち、内野ノック、外野アメリカンノック、ブルペン投球などを交代で行った。広くないグラウンドに入りきれない選手たちは、校舎横の通路や、駐車場、昇降口の狭スペースを使って、シャドウトレや、テニスボールノック、ラダー&ミニハードル、縄跳び、体幹トレなど基礎トレーニングをして汗を流した。いつもの練習風景がそこにあった。

平日は定時制の関係で1時間しか練習ができない小山台。大会直前の休日練習はメンバーに絞った実戦練習をするチームが多いが、ここは違った「公式戦前だからといって特別なことはしませんよ。いつも通りの練習をみんなでやるだけです」。福嶋監督が穏やかに話す。そんな指揮官を見ながら大谷里志部長は「福嶋先生は、ボトムアップを大切にする先生なんです。全員野球を育てながら、トップの子たちを引き上げる。その結果が2年連続の決勝進出だったのでしょう。いま64歳ですが150歳までやっていただきたい先生ですよ」と笑顔で尊敬の念を口にした。
「甲子園は心の中にある」。上江洲主将の新たな決意

過去10年の3大会(秋春夏)でベスト8以上が10回。激戦区・東東京の強豪校になりつつある小山台。コロナ禍で時勢が不安定な中、スポーツ推薦のない公立校に56人もの新入部員が入った。初めて3学年がそろった7月1日のミーティングで、福嶋監督は選手に向かってある“約束”を伝えた。
「いいかい、優先順位は、生活、勉強、その次が野球だぞ。野球中心の生活ではいけない。生活の中に野球があるんだ」と。
主将の上江洲礼記(うえず らいき=3年)は、昨夏準優勝を経験した唯一のレギュラーだ。甲子園出場の夢は消えたが、最多部員をまとめるリーダーとして新たな決意が芽生えたと言う。「僕たちは日頃から『愛されるチーム』を目標に生活しています。じゃあ、どんな人が愛されるのかと言うと、私生活も勉強も野球もしっかりやって、感謝の気持ちを伝えられる人だと思うのです。それを教えてくれたのが福嶋先生でした。甲子園大会がなくなり、東東京大会が無観客試合となり、目標や感謝の気持ちを伝える場がなくなったけど、恩返しの気持ちを心の中にしっかり持ち、一生懸命プレーします。それが福嶋先生の言う『甲子園は心の中にある』という意味だと思うからです」。

初戦の相手は東京実だ。福嶋監督は「厳しい戦いになることは確実」と表情を引き締める。秋の都大会で日大二に1回戦敗退してから、少ない好機を生かす打撃を磨き上げてきた。試合当日は、午前中に学校で授業を受けてから神宮球場へ移動することが決まっているが、選手たちの平常心が乱れることはない。「心の甲子園」を目指す夏がいよいよ始まる。

小山台の選手は、なぜ落ち着いていられるのか。なぜ勉強をおろそかにしないのか。なぜ野球で結果を出せるのか…。過去にわずか4校しかない都立の甲子園出場校の一つ、小山台の強さの秘密と、メンタリティの強さ、家庭生活での工夫などについては9月上旬発売の「想いをつなぐ 2020年夏の球児たち」(辰巳出版)で詳しく紹介する。
選手たちが胸に刻む「心の甲子園」とは、いったい何なのか。その秘話に迫る―。