社長になった「球児」に会いにいく|米沢谷友広(秋田商業出身)グローバルポーターズ株式会社代表(3)
高校野球を頑張っている皆さんにもやがて社会に出て働く日が訪れます。まだまだ先のことかもしれません。でも今から「自分は将来どんな仕事をしたいのか?」を考えていると、進むべき道、進路がぼんやりと見えてくると思います。このコーナーでは、かつては高校野球を頑張り、現在は社長として活躍されている”高校野球の先輩”に「仕事」、そして「働く」ということについてお話を伺っています。 今回お話を聞いたのはグローバルポーターズ株式会社代表で、秋田商業で甲子園も経験している米沢谷友広さん。最終回は現在の会社についてのお話し、そして高校生の皆さんへのアドバイス、メッセージなどもいただきました。
【目次】
社長になって知った責任の重さ
欲しいのは「自分にない考え」を持った人材
今も夢に出る、秋田商業の投球練習
高校時代に見つけて欲しい、好きなこと
米沢谷友広(秋田商業出身)。神奈川大学を経てスポーツ小売業大手ゼビオ株式会社に入社。経営企画室でスポーツ事業に関わる広報活動やスポンサード、新規事業開発、M&A等の投資関連業務に従事。プロ野球独立リーグやJリーグ、アイスホッケークラブ等の運営にも関わり、スポーツ小売やスポンサーサイドからみたクラブチーム経営に携わる。その間、カリフォルニア大学にてアントレプレナーシップやビジネスインキュベーション、コーポレートファイナンス単位を取得。その後はAmazon Japanにてスポーツ&アウトドア事業部の商品戦略部統括部長などを歴任し、2017年に現在の会社グローバルポーターズ株式会社(https://www.global-porters.com)を起業。トータルベースボールカンパニー構想の実現を目指して野球界の発展に努めている。
社長になって知った責任の重さ
ーー米沢谷さんの会社「グローバルポーターズ株式会社」はどんなことをされている会社なのでしょうか?
一言でいうと、野球界に貢献できるビジネスをいろいろやっています。その中でも、①野球用品を開発して販売する「プロダクト事業」、②中古野球グラブの買取・再生・再販やグラブ修理、リメイクをしている「Re-Birth(リバース)事業」、③過去に野球や仕事で関わった取引先のマーケティングをサポートする「マーケティング事業」が中心ですね。
プロダクト事業としては、幼児向けに野球を始めるきっかけを作るグローブやバッティングセット、草野球を手軽に楽しめるコスパの良い用品、学生層の上達をサポートするトレーニンググッズ、プロ野球団のオフィシャルグッズなどが特徴で、約1,000アイテム展開しています。Re-Birth(リバース)は愛着あるグラブを長く使えるように修理サポートし、もし野球環境や生活環境の変化でグラブを使わなくなったら私たちが買い取らせていただき、グラブを再生・リメイクし、次のプレイヤーに安価で提供する「野球版の循環経済(サーキュラ―エコノミー)」を創ろうとしています。
最近では、未就学児のお子さん向けに、野球やキャッチボールの楽しさを知っていただくために絵本「ぼくのグローブでとれるかな?とれるかな!?」も出版しました。
ーー従業員は何人ですか?
役員も入れて9人です。あとは外部で契約させていただいているパートナーが数名います。全員野球が好きですね。
ーー社長になられて責任やプレッシャーなどを感じることはありますか?
一番最初に社員になってくれた私の右腕的な存在の社員がいるのですが、彼に社会保険証を渡すときに感じましたね。
ーーそれはなぜ?
彼には奥さんと子どもが2人いるんですね。ですので当たり前ですが社会保険証を4枚渡すことになります。社員を1人雇うということは、その家族の生活も背負うことなんだって痛感しましたね。社員は少ないですけど、その家族のことを考えると十何人の人生を背負うことなんですよね。なので路頭に迷わすにはいかないというプレッシャーは常にあります。
ーー高校生は「社長」ってどんなことをする人なのか、なかなかイメージが湧かないと思います。米沢谷さんの平均的な1日を教えてください。
私の場合ルーティンがないので、あまり参考にならないかもしれません。社長というよりあくまで1人の起業家としてになりますが、毎朝6時半に起きて1時間から1時間半くらい本や雑誌、尊敬している経営者のSNSをみて自分だけの時間を過ごします。ここから良く日頃の問題解決や新しい発想が生まれるので大切していますね。そのあと朝食を食べて、8時半からその日の優先業務に手をつけていきます。たぶんいろんな方が言っていると思いますが、大切な仕事や期限のある仕事は午前中にやるようにしています。なので、予定は全て11時以降からスケジュールしていますね。昔やっていた朝一メールチェックはもうしていません(笑)。
日中は、ほぼ商談や会議です。海外工場や得意先、球団関係者、新規事業で関わる方々など、様々な方と打合せしています。最近はオンライン会議が増えた分、移動時間がなくなって効率が上がってますね。
夕方以降は新商品の企画や新しいサービスの展開など、少し先のことを考える時間をとっています。社員のみんなからの相談事項や確認もこの時間がやっていますね。
あとは夜が少し特殊で、夕食後の21時くらいから1.5時間仮眠して、頭をリセットさせて深夜2時過ぎまで自分の時間を作っています。その日やれなかったことを消化したり、会社の将来のことを考えたり、会社の業績やキャッシュフローを確認したり、社員の労務管理したり。周りからは「毎日夜遅くまで大変」と思われたりしますが、実は仮眠しているので頭も体も良い感じで、自分の中ではこの時間が気に入っています。もう6年くらい習慣になっていますね。
ーーメールのチェックをしないのはなぜですか?
メールやビジネスで使うSNSのチェックや返信はスマホで常態化してしまっているんですね。デスク×パソコンではなくなっていますので、メールチェックのためにまとまった時間を取る必要がなくなりました。その代わり、毎日フルタイムであれこれ来ますので良いかどうかは自分でもわかりません(笑)。
ーープライベートでも仕事のメールチェックをするのはストレスたまりませんか?
「好き」を仕事にしているので、こういう(野球関連の)ものを扱っていていますから、そこにいる仲間たちとのコミュニケシーションって友達とのやりとりみたいな感じなんですよね。そこで生きているのが心地良いといいますか。なので全然苦にならないですね。
欲しいのは「自分にない考え」を持った人材
ーー社員の皆さんはやっぱり全員野球が好きなんですか?
全員好きですね。軟式野球やソフトボールをやってたり、野球をやってないけどグローブが大好きな社員とか。
ーーグローブを製造販売するだけなく再生などもやられているんですね。
はい、学生層が使うグローブは上質な革で作られているので、ちゃんとメンテナンスや修理をしていれば長く使えます。再生(Re-Birth)をキーワードにして野球界に貢献できるように進めています。他にも新しいサービスで「思い出リメイク」という、(思い入れのあるグローブやユニフォームなどを)インテリアとしてリビングや玄関に飾るということも訴求しています。インテリアとしてグローブが飾られていたりすると、「野球のある日常」とか「見える思い出」になって、新しい価値をつくれるような気がしています。
ーー米沢谷さんのお話をここまで聞いて「ここで将来働きたい!」と思った高校生もいると思います。米沢谷さんが人を採用する際に一番求めることはなんでしょうか?
私にない考えを持っている人ですね。お客様に対して何か新しいサービスや商品を発信していける、提案力をもってビジネスを創造していける、そういう仲間を採用したいですね。結局、面接で聞くのもそこなんですよね。
「うちの会社に入って何をやりたいんですか?」って聞くんですけど、野球用品を作りたいとか、プロ野球団と仕事がしたいとか、スクールで野球人口を増やしたいとか、Re-Birthでグラブを再生したいですとか、職人として技術を学びたいですとか、よく言われるのですが、それは今やってますからね。事業をエクスパンション(拡大)するフェーズではそういう方々も沢山採用することもあると思いますが、今はそうではなくて、小さくても良いから色んな選手や野球に関わる人たちに喜んでもらえるような商品やサービスを増やしていきたいと考えているので、私にない発想でそういうビジネスを企画して提案できる、実行できる、そういう情熱のある方を仲間に入れたいなと思いますね。
今も夢に出る、秋田商業の投球練習
ーー今の自分を支えている、一番大きかった経験は何かありますか?
思い出すのは高校の時の投球練習ですね。秋田商業の小野先生は「アウトローでいつでもストライクを取れるピッチャーじゃないとベンチに入れない」という考えでしたので、投球練習ではずっとアウトローに投げ続ける練習をしていましたね。あと、どんなシチュエーションであっても複数の変化球でアウトローでストライクが取れる。キャッチャーがずっとアウトローに構えて投げるんですけど。今でも夢で見ることがありますね(笑)。
一つのことを集中してやり続ける、できるまでやり続けるというのはビジネスでも同じだと思います。やり続けていけば必ず突破していけるんじゃないかなと思いますね。
ーーこの資格、このスキルがあって助かった、役に立っているというものはありますか?
それはもう簿記ですね。商売も経営もそうだと思うんですが原価計算から入って、お客様に提供したいプライスがあったときに、基本的にはその差分(利幅)の中で、お客様に伝える努力をしますよね。例えばTimely!に宣伝広告費を払うとか、人を増やすとか、そういう経費を計算しながら最終いくら利益が出るとか、その利益を次は何に再投資するかとか、高校の時に学んだ簿記が私のビジネスの基礎になっていますね。Amazonでも役に立ったのも、英語よりも断然簿記の方でしたね。数字をみて考えて判断する力はファンダメンタル(基礎能力)だと思っています。
ーー高校時代にああしておけばよかった、こうしておけばよかったと思うことはありますか?
もっと本を読んでおけばよかったと思います。自分が日常購入したり、サービスを受けたりする会社の経営者が書いている本を読むだけで世の中のことを少しだけ深く知れて、進学や就職に対する考えや納得感が深まったと思いますし、自分が好きなことや興味があること、仕事にしたいことがもう少し早く見つかったかなと感じています。
高校時代に見つけて欲しい、好きなこと
ーーもしも今の自分が「高校3年の自分」に何か一言だけ言えるとしたら何と言いますか?
「野球を続けてほしい」というのと「(甲子園の)メンバー外れた悔しさを忘れるなよ」と伝えたいですね。その悔しさがあったから燃え尽きていないというか、今の自分があるとも感じていますから。
ーー野球を辞めてしまったことに後悔があるわけですね。
そうですね。プレーヤーとして高校までの野球しか知らないというのと、肩を壊して辞めてしまったんですけど、大学でトレーニングをして土台の部分をしっかり鍛えればコンスタントに140キロ以上投げられたのかもしれないとか、そしたらその先どうなっていたかなとか……
プレーヤーとしてもう少し野球を続けた方が良かったなとは思いますね。自分がどこまでやれるのかを知れなかった、最後までやり切ることができなかったという後悔ですね。もっとたくさんの野球仲間とも出逢えたでしょうし。
ーー将来社長になりたい、野球に絡んだ起業をしたいと思っている高校生は今のうちに何をしておくといいですか?
好きなこと、やり切りたいなと思うことを見つけてほしいですね。そのためにも見聞を広げてほしいと思います。本を読むのも、引退後にアルバイトするのも、旅行するのも良い。「これかも?」というのを見つけられたらぜひ極めてほしいですよね。1つのことで1番になることは難しいかもしれませんが、誰もやっていないことを始めたり、マーケットをセグメントするなり、〇〇×〇〇の領域で考えればトップになることは可能だと思います。敢えて極端な話をすると、絶対切れないグラブ紐(革紐)を創るとか、0歳~1歳に適した野球用品のマーケットを考えるとか、75歳以上の野球経験者×健康増進、野球後進国の言語×野球スクールとか。かなりニッチかもしれませんけど(笑)。これからの時代は「好きなこと×トップクラスに秀でた能力」を創っていくことが価値になると思いますので、周りに「マニアック!」と言われるかもしれませんが、調べ尽くして行動していってほしいですね。
ーーあとは商業高校の子だったら簿記をちゃんと学んでおきなさいということですかね?
それは間違いないと思います。社長になるんだったらMust haveです。
ーー高校球児の先輩として、現役の球児たちにメッセージをお願いします。
今人生の道半ばに差し掛かっているのですが、「高校野球をやってました」ということでこれまでの人生で相当得をしてきた気がします。会社に入ってからもそうですし、友達付き合いもそうですし、野球を通じて沢山の人と出会えて仲良くなったのは人生にプラスになっています。野球をやっていた人たちって、1つのことを真面目に突き詰めた経験だったり、一投一打への集中力だったり、礼儀正しいとか声の張りが良いとか風邪をひきづらいとか、そういうものって実は社会やビジネスですごく大切にされています。野球をやってきたことを誇りに、これからの人生を歩んでほしいと思います。
▼プロフィール
米沢谷友広(秋田商業出身)
神奈川大学を経てスポーツ小売業大手ゼビオ株式会社に入社。経営企画室でスポーツ事業に関わる広報活動やスポンサード、新規事業開発、M&A等の投資関連業務に従事。プロ野球独立リーグやJリーグ、アイスホッケークラブ等の運営にも関わり、スポーツ小売やスポンサーサイドからみたクラブチーム経営に携わる。その間、カリフォルニア大学にてアントレプレナーシップやビジネスインキュベーション、コーポレートファイナンス単位を取得。その後はAmazon Japanにてスポーツ&アウトドア事業部の商品戦略部統括部長などを歴任し、2017年に現在の会社グローバルポーターズ株式会社(https://www.global-porters.com)を起業。トータルベースボールカンパニー構想の実現を目指して野球界の発展に努めている。