【福岡県立城南】トレーナー・マネージャー・実習助手・分析担当ら選手を支える組織の強化
「自主練習時間の確保」と「多彩で豊富な情報提供」で、選手が自律的に成長するサイクルをつくる試みに挑む福岡県立城南高校野球部。もうひとつの特徴と言えるのが、「情報提供・活用」を円滑に行うための選手以外のスタッフによるサポートだ。
データのフィードバックを支えるシステムを開発
リポート前編はこちら→“自主練重視”主義と測定データや最新情報の積極提供
城南高校野球部の選手への情報提供は、「現状認識のためのデータ」や「課題の解消に用いることのできる技術やトレーニング方法に関する情報」などに分けられる。前者にあたる現状認識のためのデータとしては「測定分析シート」と「試合成績シート」などがある。
測定分析シートは、体格、スイング(スイングスピードやロングティーの飛距離)、球速、走塁(タイム)、ウェイト(スクワットやベンチプレス)、柔軟性などを月に一度測定し、紙に出力して選手に渡している。これらの測定項目は野球部をサポートする田中來人トレーナーが選定している。

試合成績シートは週末に行われる試合の結果をまとめたもので、打率や出塁率に加え、OPS(出塁率と長打率を合算した攻撃での総合的な貢献を見る指標)や、打者のタイプを示す四球と三振の割合、打席内でのストライクとボールの割合や初球のストライクへの対応なども集計されている。
試合ごとのデータを集計し、一覧にしています。これらのデータを参考に試合のメンバーを決めていきます!
現時点でPA/BBや初球ストライク率の数値に注目して指導しています!#セイバーメトリクス#高校野球セイバーメトリクス pic.twitter.com/gq1mseAhaj— 福岡県立城南高校野球部〜NEXT BASEBALL〜 (@jfnextbaseball) September 25, 2020

こうしたデータの管理で力を発揮しているのが藤上侑亮部長と大内田勇介実習助手だ。藤上部長は理科教諭で野球部の前監督でもある。大内田助手は元システムエンジニアという経歴を持ち、システム開発の経験が多くある。このコンビの尽力により、データ管理のシステム化・省力化が一気に進んだのだという。現在運用している野球部で開発したアプリケーションは、試合データの入力などがPCに特別強い人でなくとも難なく行うことができる。現在はマネージャーたちが入力を担当するようになっているという。


「快適に練習できる環境づくり」だけではなく
マネージャーに対し「ただのお手伝いのような立場ではなく、野球部が強くなるための取り組みに深く関われるようにしたい」という中野監督は、データ入力以外にも従来の枠を越えた様々な場面でマネージャーに協力を求めている。

選手をサポートする仕事に関心を持ち野球部に入ったという松本珠実マネージャー(2年)は、求められることが増えていく中でマネージャーの意識も変わってきたと話す。
「選手が快適に練習するためのサポートは当たり前で、プラスアルファで何ができるかを考えるようになりました」
最近ではグループに分かれて行うミーティングに4人のマネージャーが立ち会い、そこで出た反省点などをまとめる役割を担うようになった。「その日の夜までにグループチャットに送り、選手たちに振り返ってもらう」というルールを自らつくったのだという。

理数コースの野球好きな生徒を「データ分析担当」候補にスカウト
そして、城南高校野球部の最も新しい取り組みが、プレーヤー出身ではないデータ分析担当者の育成だ。分析関連の役割は、ベンチ外の選手などが務めるケースが多いが「プレーがしたくて選手になった生徒に、分析を担当してもらわずともよい仕組みをつくりたい」「プレーはできないが野球に関わりたいと思っている生徒に門戸を開きたい」という思いから生まれたプランで、理数コースのクラスで担任を務める藤上部長が、受け持っているクラスで野球に強い興味を持っていた納富太規君をスカウトしスタートした。

「最初はびっくりしました。野球に興味を持ったのが中学生のときで、そこからプレーヤーになるのは少し敷居が高かった。でも、プロ野球は毎日観るくらい好きで、研究してみたいと思っていました。だから、参加させてもらえるのであればぜひ、と」(納富君)
ピッチャーが投げる変化球の動き方に興味を持っていることから、「相手投手の投げるボールの分析に取り組みたい」と話す納富君。中野監督らは「まだ始まったばかりで、プレッシャーをかけてはいけないけれど」と前置きしつつも、将来的には試合前の分析だけではなく、ベンチに入り試合中にリアルタイムで対策を立てられる、プロ野球のスコアラーのようなスタイルも考えていると話す。
まさに城南高校野球部が標榜する〈NEXT BASEBALL〉を体現する、夢のある取り組みである。
次回「中野雄斗監督・堀江亮太主将・荻野凌大投手インタビュー」に続く