「復興」「野球普及」「9歳の壁」を考える。 宮城県高野連が楽天とコラボ企画

2月27日、宮城県高野連が東北楽天イーグルスとタッグを組んで、オンラインによる9歳以下の野球教室を行いました。「野球普及」を願う宮城の高校球児が子どもたちに向けてクイズをしたり、デモンストレーションをし「野球の楽しさ」を伝えました。

「10年前、あの日見た景色から想像できないほど希望の未来、復興が進んでいます。これからの10年、私たちが新しい希望の力になれるように、歩み続けます」。

仙台育英・島貫丞主将の宣誓で開幕した第93回選抜高校野球大会。5歳で野球を始め、東日本大震災を経験しても野球をあきらめなかった福島市出身の島貫主将が「希望の未来」、「復興」を伝える強いメッセージを送りました。震災を経験した高校球児を取材すると「野球があったから前向きになれた」と話す選手が多いです。石巻工で2012年センバツ出場した宮城県高野連・松本嘉次理事長は「野球で街が盛り上がった。地方から高校野球の灯を消すことがないよう、宮城加盟校も一丸となって邁進していくことが大切」と力説しています。
先日、被災地の人口減が全国の3・5倍との発表ありました。岩手・宮城・福島3県42市町村は震災前より6%人口が減っているそうです。2017年には夏の宮城大会の参加チームが35年ぶりに70を切り(69チーム)今後も部員不足の課題は続く見込み。その中でも、希望の道を見出そうとしているのです。

オンライン効果で、県外の参加者、他県高野連の視察も

そんな中、宮城県高野連は2年前から東北楽天イーグルスと共催した野球教室を行っています。野球人口減少をプロアマが一体となって取り組むのは全国でも珍しいケース。感染症防止で今年はZoomでのオンライン開催となりましたが、岡山、京都、東京、神奈川など県外の子どもが参加したり、全国の野球関係者、他県高野連の視察が入るなど、オンラインならではの収穫がありました。
イベントの内容は①高校球児からの野球クイズ、ミニゲーム ②楽天アカデミーの坂下達徳コーチの室内トレーニング ③高校球児、元楽天・井上純コーチへの質問コーナーなど。子どもたちがパソコン越しに体を動かして楽しみました。デモンストレーションを行った宮城工、石巻工、村田、古川黎明の野球部員たちも「初めての経験で教えることが難しかったけど、子どもたちと一緒に楽しめた」と笑顔で口をそろえました。県高野連・野球普及振興部の石巻工・利根川直弥監督は言います。


楽天アカデミーの坂下達徳コーチと一緒に子どもたちへデモを行う古川黎明の選手たち。高校野球の指導者からは「子どもに教えるプロから、多くの気づきをもらった」と話していました

「ボストン・レッドソックスの野球普及の教えに『子どもは9歳までに見たもので価値観を形成する』という言葉があるそうです。今回、9歳以下の野球未経験者を対象にしたのは、『とにかく1回野球を知って欲しい』という思いです。これをきっかけに野球を好きになってくれるといいですね」。

オンラインの午前の部では、高校球児が中学野球部と交流


参加した中学野球部の生徒170人とオンラインを通じて交流した宮城工の選手。「楽しく」をテーマに、野球クイズや一発ギャグなどを取り入れ、高校野球の世界を明るく伝えました

同日の午前中は、仙台市内の中学野球部に向けたコラボ企画(13校、170人以上参加)があり、宮城工、仙台三、仙台東、東北生活文化大の4校が、中学野球部指導者と中学生からの質問に答えました。「高校野球はハードルが高そう」というイメージもあって、宮城の中学野球部生徒が高校でも硬式野球をやる割合は45%にとどまっているのです。高校生たちがパワーポイントと動画で自校のPR。最後に中学生に向けて「野球部も今はやみくもに野球だけをやる時代ではない」、「硬式の球になるとより打球も飛ぶし、速い球を投げられる」「練習は厳しいけれど、そのぶん中学よりも深い絆が生まれる」などのメッセージを送りました。

参加者からの主な感想
・短時間でも楽しく継続できる練習を教えて欲しい。
・今回の野球クイズのような楽しめるものはすごくよかった。
・高校生の実演が是非見たい
・プロが見本を見せて、高校生が専属でついて個別指導してくれる教室が良い。
・回数を増やして、少人数制での開催を是非やってほしい。
・次回はプロアマ関係なく小学生と混じってミニゲームをしてほしい。
・高校生を本気で指導するプロの姿も見てみたい。

同振興部の宮城工・冨樫誠悦教諭は、ネット不具合なく開催できたことに安堵し、ある「気づき」を得たと言います。
「楽天の坂下コーチの、子どもたちへの教え方がとても勉強になったんです。子どもたちを飽きさせない、楽しませる教え方を部員と一緒に見させてもらって、技術だけでなく『教え方、伝え方』もプロから学びたいと思いました。コロナが終息して、早く対面で子どもたちと交流ができるといいですね」。
 
 コロナ禍でもできることを模索し、開催を繋げた宮城県高野連。震災からの復興を目指す宮城から、これからも野球普及が続いていきます。
(取材・文/樫本ゆき)