元プロ監督の流儀① 帝京長岡高校・芝草宇宙監督 野球人生で一番のやりがいを感じる日々

1984年に条件付きで認められた元プロ野球選手の高校野球での監督就任。当時は、“教員として10年勤務”という厳しい条件があったが、今では学生野球資格回復研修制度を利用すれば指導者としての道を歩むことができるようになった。そんな環境の変化もあり、元プロ選手にチームを託す高校も増えてきている。そこで、元プロの高校野球部監督を直撃し、これまでの経験をどう生かして指導をしているのかを中心にさまざまな話を聞く短期連載を開始。第1回目は昨年から新潟県帝京長岡高校の芝草宇宙監督だ。

「50代になって、選手たちと必死になって野球に真剣に取り組んでいる毎日が、本当に楽しくてしかたないんです」

こう話すのは、2020年4月から帝京長岡高校の野球部を指揮する芝草宇宙監督だ。高校時代は帝京高校(東東京)でエースとして2度、甲子園に出場。夏の大会ではノーヒットノーランも達成するなどチームのベスト4進出の原動力となった。その年のプロ野球ドラフト会議で、日本ハムファイターズ(現・北海道日本ハムファイターズ)に6位指名されプロ入り。18年のプロ生活で先発、中継ぎとして430試合に登板し、通算46勝を挙げた。現役引退後は、ファイターズのコーチやスカウトなどを歴任。

「帝京長岡の浅川(節雄)校長が野球部を強くしたいと、帝京の前田(三夫)監督に相談したそうなんです。そこで前田監督が僕に『長岡を見てくれないか』と話をしてくださいました。浅川校長は僕が高校時代に先生としてお世話になった先生でもありましたし、やれることがあればと何度か練習を見させてもらったんです。その中で“この野球部を強くしたい”という気持ちが強くなり、監督就任の話も快く引き受けさせてもらいました」

昨年度はコロナ禍の影響もあり、監督として十分な指導ができず、体調管理については口うるさく話していたという。「順調な1年ではありませんでしたが、僕自身でいろんな経験ができたので、今後につなげられればと思っています」と、前向きな姿勢を見せた。


野球以外の部分では“日々のあいさつの徹底”を選手たちに求めている

目標は甲子園に出場ではなく、甲子園で勝つこと!

ピッチャーとして、常に結果が求められるプロの厳しい世界を経験した芝草監督が目指すのは、“チームを甲子園に導いて勝利すること”。

「練習のときから甲子園で戦うことを意識した取り組みをしています。全国大会ともなれば、県大会で対戦したことのない投手もたくさんいます。甲子園に出られたとしても、初物に対する対応ができなければ勝てません。だからこそ、常に全国で勝つことを想定した練習をしなければいけないす。一度も出場してことがないのに何を言っているんだといわれるかもしれませんが、目標はあくまでも出場ではなく勝つことにしたいんです」

甲子園での勝利にこだわる裏には、あの大舞台で勝つ喜びを知っている芝草監督だからこその思いがある。「甲子園出場ともなれば、ベンチ入りメンバーはもちろん、そうでないメンバーにとっても財産になることは間違いない。そこで勝利することで、さらに得られるものも出てくる。選手たちの将来に関わる夢を預かっているわけですから、なんとか勝たせたいという気持ちが強くなるんです。それに勝つということは選手が活躍することなので、それ以上にうれしいことはないですし、それが一番のやりがいになるところです」

自身の人生を大きく変えてくれた甲子園での勝利。そんなかけがえのない経験を一人でも多くの選手にも味わわせたい。そのためにも、チームに戦う集団として自分たちは絶対に負けないという強い気持ちを根付かせるのが自身の役目だとも話す。「チームを指揮する立場として、自分にプレシャーを与えなければいけません。だからベンチにいるときは、常に勝負に徹する姿勢を見せ続けなければいけない。今の選手たちはすごく敏感ですから、不安な素振りを見せたら、すぐに察知してしまいますから」と、チーム一体となって気持ちを全面に出す必要性を教えてくれた。


「自分の考えをよく理解してくれている」と評する小野寺翔コーチ(左)と選手たちの指導にあたる

恩師の教えを胸に勝負師に徹する

芝草監督が勝負に徹することを重視するのは、恩師・前田三夫監督(帝京)の存在が大きい。前田監督に厳しく指導してもらうために、帝京への進学を決めたという芝草監督。最後の最後まで厳しい指導を受けたというが、「覚悟を持って取り組んだから耐えることができた」と振り返る。だからこそ今の選手たちにも、帝京長岡の野球部の一員としての覚悟を持ってほしいという。

「大切な将来ある選手たちを預かるわけですから、指導者としての覚悟は選手に伝えなければいけません。選手たちにはこちらの意思をわかってもらい、部員として活動してもらう。だから、入部前にも、入部してからもこちらも本音で伝えるようには心がけています。それは親御さんに対しても同じ。取り繕ったような言葉を言っても心には響かない。ある程度の感情も含んだ本音でなければ、選手たちには絶対に伝わりません」

また、チーム作りにおいてひとつの型にはめることはしないという芝草監督。「世代世代で選手の個性には違いがあります。だからみんなが同じことをやっても強くはならない。選手の将来性や目標などを聞きながらこちらで選手にあった調整をするのがいいと思ってやっています」と、今後も選手の個性を見極めたチーム作りをしていくという。

「元プロが教えたからってすぐにチームが強くなるわけでも、選手がうまくなるわけでもない。そんな甘い世界ではありませんから」とも話す芝草監督。結果が出るのはまだ先になるかもしれないが、練習時のワクワク感は日々増していると笑顔を見せた。

その様子を見ていると、数年後帝京長岡が甲子園の舞台で旋風を巻き起こす光景が頭に浮かんできた。


ときには選手たちを厳しい言葉で指導することもあるが、「かわいい選手たちですから、心は痛いです」とも話してくれた

(取材・文/松野友克)