“全員野球”で 「そうだ、甲子園行こう!」〜僕たちのナツタイ 2021 幕張総合高校〜

さまざまなスローガンが各所に掲げられており、「そうだ、甲子園行こう」は“公立校でも『思いがあって、行動に移せば、行ける場所』。だから夢物語にしたくない”という部員の想いが詰まってる。今頭角を現しつつあり、ナツタイで台風の目になること間違いなしのナインを取材した。

幕張総合高校

幕張総合高校って?

1996年に開設された全校生徒2,200名という幕張総合高校の大きな特徴は「単位制」。2、3年生はほとんどの授業が選択制となり、大学のような「空きコマ」「2限始まり」といった時間割も作成可能だ。クラスという概念もほぼないため、野球部員は授業中や休み時間も一緒に過ごすことが多い。かつては県予選初戦敗退も多かった野球部も、近年はシニアリーグ出身の選手の入部も増え、部員はマネージャーを含め約70名の大所帯に。これまでの選手権大会最高成績は2017年の4回戦敗退。今年は投打のバランスのとれたチームで、さらなる高みを目指す。

School Data
監督/柳田大輔
部長/藤平 真
部員数/3年生27人 2年生18人 1年生17人マネージャー9人

県立幕張北高校、県立幕張西高校、県立幕張東高校の3校が統合される形で1996年に創立。野球部は創立と同時に創部された。2021年の春季大会でベスト16に進出した。

自主性のある練習が光る、激戦区千葉のダークホース

毎年数々のドラマが生まれる千葉のナツタイ予選。甲子園出場経験こそないものの、ひそかに注目を集めているのが幕張総合高校だ。昨年の秋季大会、今年の春季大会ともに県ベスト16。他校の監督も「今年の幕総は期待できそうですね」とうなる。

成長の軸となっているのが、選手たちが自ら考案するという練習メニューだ。毎日選手全員でこなすルーティンワークは存在せず、素振り、ウエイト、選手ひとりひとりが自分に今足りないものを考えて調整している。 日々の練習を支えるのは、公立校とは思えないほど充実した施設で、両翼90mの広々とした野球部専用グラウンドをはじめ、雨天でもウエイトができるよう考えられた部室、3選手同時に投球練習ができるほど広いブルペンなど、約60人の選手がそれぞれ満足いく練習ができている。


対外試合の前でも黙々と自主練習に励んでいる。グラウンドではキャッチボールや守備練習、ブルペンでは投球練習など、各々自分に足りない部分を強化して試合に臨んでいる。

練習の成果を確かめるため、毎週末のように対外試合が組まれており、柳田監督の腰の低さ、堅実さが人を呼び、県内外の強豪校が相手の場合もある。主将の沖﨑は、「いろいろな高校と試合をすることで、野球に対する取り組み方が変わりました。今まではティーひとつとっても、目的意識がなかった。でも、ああいうバッティングがしたい、ああいう打球を飛ばしたいと考えながらバットを振るようになりました」と話す。日々の練習と対外試合。その繰り返しがチームを飛躍させようとしている。

千葉の厚い壁も、チーム全員で超えていく!

2021年のドラフト候補に名を連ねる村山亮介の存在も大きい。外部からの注目度が高まる中、柳田監督は「良いものは良い、すごい人に対してはすごいと言える、素直な選手が集まっています。村山が味方にいるという安心感は選手たちからも伝わってきますし、彼の存在がチームを上昇志向にしているのは間違いないですね」と語る。実際、対外試合中に「お前なら打てるぞ!」、「俺がお前までつなぐぞ」といった声かけが多く、“村山なら必ず何かやってくれる”という不動の四番に対する期待の高さがうかがえた。  

沖﨑主将は 「千葉はベスト16の壁が厚いのですが、ここを突破するためにチーム全員で成長していきたい。選手、監督、マネージャー、保護者、応援してくれるみなさんと一緒に成長して、いい結果を報告したいんです」と語気を強める。この夏は、これまでの練習の成果を全員野球で発揮して初の甲子園出場を目指す。


野球選手を陰から支える9人のマネージャー。3年生の星田陽南(ひな)さん(写真の前列左から2人目)は、昨年の秋季関東地区大会決勝戦でアナウンスを務めた。


指揮を執るのは同校OBの柳田大輔監督。「面白い監督がいると聞いて進学を決めた」という選手もいるほど注目度が高まっている。チームの主体性を重んじた指導で夏へ挑戦!

春季千葉大会をバネに強くなりたい

5月に行われた春季大会では、3回戦敗退にとどまった。2回戦では5回コールドの快勝を収めていただけに、選手たちには悔しい思いも残った。その悔しさをバネに、夏に向けての活力にしたい。

好調をキープすることの難しさを学ぶ

春季大会の初戦では、市立松戸高校と対戦。3年の梅澤がキレのあるストレートを中心に5回を2失点と好投したほか、攻撃ではクリーンアップが快音を響かせ、4回までに12得点のコールドゲームとした。選手たちからはホッとした笑顔も見られ、保護者も「やはり今年は期待できそうです」と、選手たちの雄姿に夏への想いを膨らませていた。  

しかし、強いチームの条件である「いい状態をキープすること」はカンタンではない。3回戦は先日調子のよかったクリーンアップにいまひとつキレがない。エースの重安が登板し、得意のスライダーで打者を翻弄し、1試合を一人で投げ抜くも、打線の援護が得られず2-3で惜敗。投手、打線、どちらか一方だけの調子がよくても勝利にはつながらない。チーム全体の調子を上げることがいかに重要なのかあらためて感じさせる結果だった。


保護者は「幕総ブルー」のTシャツと、お揃いのタオルで応援。横断幕の持ち込みが制限されるなか、心の中でエールを送る。

なりふり構わず短期間で弱みをつぶす

2回戦はコールド勝ちしていただけに、選手たちには「もっとできたはずだ」という気持ちが残った。春季大会で浮き彫りになったチームの課題を克服すべく、学校にやってくる野球指導者やトレーナーに我先に教えを乞おうとする積極的な姿が見られた。  

柳田監督は「調子がいい、悪いはもちろんありますが、『悪いとき』を一つずつなくしていき、前を向いていきたい。悔しいという思いの上に強さがあることを選手たちには知ってほしい」と語る。  
監督の想いを背に受けて選手それぞれが自分の武器を磨き、アツい夏に備えている。


市立松戸戦に先発し好投した梅澤投手(3年)。この日はタイプの違うピッチャーが投げて相手を翻弄し見事勝利した。

Key Player

約70名という大所帯をひとつにまとめるキャプテンは、ケガに苦しみながらも前を向き奮闘中。クリーンナップとして活躍が期待されるチームのムードメーカーは、どんなときでも声かけでナインを鼓舞する。チーム上昇のカギを握る2人にフォーカスした。

「長期離脱中でもチームをバックアップ!」


3年/内野手・主将 沖﨑真周(Masyu Okizaki)

「公立高校で甲子園を目指したい」という沖﨑キャプテンは、チームの精神的支柱だ。打撃力と俊敏な守備力を兼ね揃え、プレーの面でも中心的存在を担っていたところ、2年生の秋に肩を負傷。長期の戦線離脱を余儀なくされた。
 
繰り返す脱臼に苦しみ、今年の冬には手術も経験。春季大会はベンチ入りを果たすも守備につけるのは夏の大会直前の予定だ。ベンチに座っている時は選手一人ひとりの特徴をよく観察し、個々に伝えた。

「最後の夏は、万全の調子で迎えたい。今年はいいところまで行けるチームに仕上がっています」と語るなど、チームを第一に考えるキャプテンシーがうかがえた。


手術を経験したが夏の大会は完全復帰し、チームの中心選手として臨む。

「声出しだけはスランプがありません!」


3年/内野手 正部大成(Taisei Masabe)

練習中や試合中、たびたびベンチや観客席からクスクスと笑い声が起きる。その先にいるのは、チームのムードメーカー、正部だ。「あいつは常にしゃべってますよ」という柳田監督。

チームが不利な状況に陥っているときは選手を鼓舞するより一層大きな声がグラウンド中に響き、点差が開いていても、正部の声かけ一つでチームの雰囲気がガラリと変わる様子が分かる。

「いついかなる時も声を出し続けることで、チームの士気を奮い立たせることを意識しています。これまで声出しだけはスランプがありません! これからも声を出しを続けます!」と笑顔を見せる。プレーはもちろん、声出しの様子にも注目だ。


声かけに呼応するかのように、チームの志気も高まる。

プロも注目! ホームラン50本を狙う


「3年/捕手 村山亮介(Ryosuke Murayama)

身長185センチ、体重108キロ、チームの中でもひときわ目立つその身体の大きさ。恵まれた体格から豪快なスイングを繰り出し、6月中旬現在37本塁打をたたき出している。プロ注目選手として、各所から脚光を浴びるようになった彼だが、1年生の時は「大学でも野球ができたらそれでいいです」と、大きな身体に似合わぬ小さい声でぼそっと答えるような選手だった。  

ひたすら練習に励み、徐々に才能が開花し始めると2年からはレギュラー入り。人並み外れたその体格とバッティングの爆発力から、経験豊富な3年がひしめく中で四番に抜擢される。次第に打撃力が評価され、プロスカウトや強豪大学の監督の目に留まるようになり自信をつけていく。


スイングスピードや力強さはもちろんだが選球眼もよく、春季大会2回戦では3四球を選んだ。

「プロに行きたいと考えていますが、まずはチームを引っ張って甲子園出場という目標を叶えたいです」と語る様子にかつての面影はない。  個人の目標は通算50本塁打。「必ず達成できると思っています」と強気だ。限られた時間の中でそれが達成できるのか、彼の活躍に注目したい。

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村山のパワーを支えるお弁当はこれだ!


“茶色いお弁当”にはとにかく手間がかかるが母の利恵さんは、早朝から毎日肉を焼いたり炒めたり、パワーの源をたくさん詰め込む。

「生まれたときは4,500g弱もあって(笑)。とにかく幼少期のころから大きかった」と話す村山の母、利恵さん。スラっとした長身のご夫婦で、父の勝行さんはバレーボールをしており、恵まれた体格は両親譲りなのだ。  自宅に帰っても、あまり家族と話をするタイプではないという今どきの男の子。そんな彼を気遣ってか、両親も「今はそっと見守っています。サポートと言えば、キャッチャー道具の運搬や、朝早いとき、悪天候時の送迎くらい」。  密にコミュニケーションをとらない分、特に力をいれているのが愛情をこめて作るお弁当だ。大量に敷き詰められたご飯の上に、大好物の肉がたくさんのっかっている。  息子が各方面から注目されていることについては「にわかに信じがたい話で……」と、戸惑いつつも、プロでも大学でも本人の悔いのない進路を選んでほしいと願っている。  甲子園出場を目標とし、卒業後は厳しい世界に挑もうとしている息子を全力で応援する。

(取材・文/山口真央 写真/廣瀬久哉)