羽黒高校競合3部活の監督 食トレ座談会

子どもの食と食文化をより豊かにするため、教育現場の役割は重要です。多数の部活動で立派な功績を残す羽黒高校の人気部活の監督たちに食についてお話しを聞かせていただきました。

コロナ対策でより効率のいい 食トレが求められるように

—最近の高校生の食事情について、気になっていることはありますか?

澁谷 総じて量が少ないと感じます。特に女子生徒はかなり少ないですし、運動部の部活生でも少ない子が多いです。

本街 好き嫌いが多いですね。野菜がダメとか魚が苦手とか。

齋藤 ごはんを食べるスピードが遅いと感じます。飽食の時代だからでしょうか、昔みたいにガツガツ食べる子は少なく、食に対しての欲が少ないという印象ですね。

澁谷 食トレっていう言葉が生まれたのも、そういう背景があるからではないでしょうか。昔だったら、言われなくてもガツガツ食べていたけれど、いまでは「トレーニング」と名前をつけて意識的に食べることを促す必要があるのでは?


ここぞという場面に対応できる身体を作るのが食トレの目的。

—飽食の時代……なるほどですね。みなさんは、普段それぞれの部活でどのような食トレをしているんですか?

齋藤 バスケット部では、週3でのウエイトトレーニングや、プロテインを飲んで筋肉を増やしていきます。あくまで目安ですが、まずは「身長ー100=体重」の数字を目指し、そのあとは選手ごとの体格に合わせて目標数値を変えていきます。バスケはスピードが必要でもあるので、筋力がありすぎるとケガにつながることもあるんですよね。なので、急激に筋力アップしすぎないようにというのも意識しています。なかには、110キロで入部してきて、90キロまで体重を落とした生徒もいますよ。

本街 サッカー部もバスケ部と同様、「身長ー100=体重」と「体脂肪率12%以下」を目標にまず筋力を増やすことに力を入れます。トレーナーさんを呼んで、ウエイトトレーニングも行っているんですよ。ただ、体重を増やしすぎて股関節を痛めてしまった子もいるので、急激に体重が増加しないように、ということも注意しています。

澁谷 野球部は、専門家による食トレ指導を導入してもう7〜8年ですね。「身長ー100=体重」は当たり前になってきて、いまは「身長ー95=体重」を目標にしています。体脂肪率は、時期によって目標数値も変動しますが、一番大事な夏は15%未満にするようにしています。

—体重管理はスムースにいきますか?

齋藤 寮生はトレーニング施設もありますし、食事の量も質もしっかり管理できるので、ほとんど計画通りに進みます。バスケ部は、野球部、サッカー部と比べて寮生が少なかったのですが、近年県外からの進学が増えて今年は19人になりました。それで、だいぶ管理しやすくなった経緯があります。逆に通いの生徒の体重管理はとても難しい。実質的に学校ができることはごくわずかです。


週1でウエイトトレーニング。栄養をしっかり摂取してトレーニングすることで、身体は強くしなやかに。

—確かにそうですよね。学校側ではどのようなことを行っているんですか?

齋藤 毎日体重測定をしていて、500グラムの増減も意識するようにしています。徹底的に体重を意識させても減ってしまう、増えて来ない子には、個別指導をします。あとは練習前にBCAAを摂取していますね。本当は、野球部がやっていたように練習後すぐにおにぎりなどの補食を食べさせたいんですが、通いの子にそこまで徹底できないのと、コロナ対策としていま学校での飲食にかなり制限があるので、サプリメントに頼らざるを得ない状況です。


バスケ部では練習前に毎日必ず体重測定を行う。

—コロナ対策で、柔軟な食トレが難しくなってきているんですね。

齋藤 そうなんですよ。羽黒高校ではかなり厳しくやっているんです。昼食時、寮生はシールドが設置された食堂で食べますが、通いの生徒は教員と一緒に各自教室で一言もしゃべらず同じ方向を見て黙々とお弁当を食べます。昼食以外は飲食禁止で、ゴミ箱も撤去しました。

—そんな厳しいルールのなか、ほかの2つの部活はどうしているんですか?

本街 サッカー部もかつてはマネージャーお手製のおにぎりを食べていたのですが、いまはできていませんね。サプリメントの摂取も、最終的には個人に任せているので、全く飲んでいない子もいます。

澁谷 野球部は、練習前後のおにぎりが食べられなくなってしまい、専門業者の強化食(プロテインをベースに特別配合されたサプリメント)頼みです。せめてここだけはと思い、練習後すぐ、目の前で飲ませることを徹底しています。


監督の話を真剣に聞くメンバー。

—コロナにより、学校ではより効率のいい補食が求められているんですね。ちなみに、栄養不足が原因でケガが起きたりすることはありますか?

齋藤 アクシデントで骨折などをする子はいるけれど、バスケ部では栄養不足とケガの相関関係はあまり感じていません。逆に昔は貧血の子が多かったですが最近はほとんど見かけなくなりました。

本街 サッカー部でも、ケガと栄養不足の関連性は検証不足です。ただ、試合中に足がつる選手が多いんですよ。また、夏合宿で走り込みをするときに具合が悪くなる子もいますが、そういう子はだいたい決まっているんですよね。調べてみたら、栄養状態とパフォーマンスの相関関係が出るかもしれないですね。

澁谷 野球部に関してはいまのところないですね。食トレを始める前に比べてケガはものすごく減ったので、栄養とケガの相関関係は実感しています。


指示待ちではなく、自ら考える羽黒野球部。

—部員たちの体調管理をするうえで保護者に対して求めていることはありますか?

齋藤 2年前に、野球部が導入している食トレ業者さんに来ていただいてバスケ部とサッカー部の保護者を交えたセミナーを開催したことがあったんです。そのとき、知識と実績のあるプロが話せば、保護者も食トレの必要性を実感できるのだと感じました。すごく意識が高まったのですが、そのままコロナ禍に突入してしまいその後は保護者へのアプローチができていない現実があります。今後はオンラインを駆使して、保護者への情報発信も考えていきたいですね。

本街 同感です。サッカー部としても新入生の保護者には毎年栄養講習をしていきたいのですが、そこまでできておらず……。その部分は、なんとか改善していきたいですね。


インターハイ、選手権ともに出場経験豊富なサッカー部。

澁谷 保護者への情報発信は専門家を介していろいろと行っていますが、保護者の意識を変えさせる一番のポイントは選手本人の意識ではないかと思っています。なので、部員たちには「ご飯の量を増やして欲しい」とか「オレンジジュースを常備して欲しい」とか、気づいたことがあれば保護者にお願いするように指導しています。子どもからのオファーであれば、親御さんはみんな頑張ってくれますからね。

—それはいい考えですね!

お三方は普段から情報交換をよく

されているんですか?

澁谷 僕はよく聞いてますよ! 特に、コロナ禍では戸惑うことも多く、練習どうしていますか?とかお二人によく相談しました。

齋藤 そうですね、仲が良いから、食トレの情報など気になることがあれば気軽に聞ける関係性ですよ。

—監督たちの仲の良さ、風通しの良さが、羽黒高校の強さの秘訣かもしれませんね!

Close up!


3部とも、栄養不足を招かないようサプリメントの活用を推奨している。サッカー部では個人に任されているが、バスケ部は練習前に全員がBCAAを摂取し(上)、野球部は選手それぞれにカスタマイズされた強化食(下)を練習後に摂取している。


写真左から
野球部
澁谷 舜 監督
Shun Shibuya

野球部監督3年目。羽黒高校野球部OBであり、羽黒イズムを継承する若きホープ。近年の成績は、2020年秋の県大会準優勝、東北大会ベスト8。モットーは「主体的に考えて試合運びをする、意志ある野球」。保健体育担当。

サッカー部
本街直樹 監督
Naoki Honmachi

滝川第二高校、国士舘大学を経て、古河電工(現ジェフユナイテッド市原)とNEC山形(現モンテディオ山形)でプロ選手として活動後、羽黒高校の体育教師およびサッカー部監督に就任。22年目を迎える。保健体育担当。

バスケットボール部
齋藤 仁 監督
Jin Saito

バスケ部監督に就任して27年目。もともと弱小だったチームを県内無双状態に引き上げた名将。インターハイ3年連続、選手権大会3年連続4回出場中。目下「全国で勝てるチーム」作りに奔走する羽黒高校の教頭先生。専攻は物理。

取材・文/高橋美由紀  撮影/小松祐規(Lab)