「高校野球監督がここまで明かす!投球技術の極意」清水央彦監督|県立大崎
打撃技術の向上により140キロを超えるボールでも打ち返されるようになった近年の高校野球。そこでより大事になるのがピッチャーの育成ですよね。 今回から数回にわたりスポーツライター大利実氏の書籍「○○技術の極意」シリーズから『高校野球監督がここまで明かす!投球技術の極意』の一部分を紹介します。初回に登場するのは長崎県立大崎高校を2021年センバツ初出場へ導いた清水央彦監督。どんなピッチャー育成を行っているのでしょうか?
まずは投げる腕から 下半身の指導は最後に
清水央彦監督に初めて会ったのは、2007年頃だったと記憶している。神奈川・川崎北高を率いていた佐相眞澄監督(現・県相模原高)のもとに、バッティング指導を教わりに来ていた。すでに、清峰の部長として春夏4度の甲子園を経験したあとであり、投手育成に長けた指導者であることはよく知っていた。どこかでお話を聞きたいと思っていたところ、偶然にも、神奈川の地で会うことができた。
──ピッチャーはどんなところから教えるのですか?
たしか、こんな質問をした覚えがある。それに対する、清水監督の考えに驚かされた。
「私は、投げる腕から教えます。ほとんどの指導者が、『腕はいじらない』『下半身から教える』と考えていると思いますが、下半身を教えるのは最後です」
その後も多くの指導者から、投手育成法について聞いてきたが、「投球腕から教える」と自信を持って答えたのは清水監督だけである。
なぜ、投球腕から入るのか。なぜ、下半身の指導は最後なのか。
もっとじっくりと話を聞きたいと思ったまま、10年以上の歳月が過ぎてしまった。その間清水監督は佐世保実を夏の甲子園に2度導き、この春には県立大崎高を初の甲子園出場に導いた。甲子園に行くときには必ずと言っていいほど好投手がいて、現在の大崎高には安定感が光る右の坂本安司と、将来性豊かな長身左腕・勝本晴彦を筆頭に、楽しみなピッチャーが複数いる。
羽田空港から飛行機でおよそ2時間、さらに長崎空港からレンタカーで1時間半。目的の場所である西海市の大島総合運動公園のグラウンドに着くと、「こんな遠くまでわざわざありがとうございます」と、清水監督が笑顔で迎えてくれた。この野球場は、大崎高校の実質的なホームグラウンドであり、平日も土日も優先的に使用できるようになっている。
早速、聞いてみたかった。投球腕から教える理由はどこにあるのでしょうか──?
「利き腕なので、誰もが優れた感覚を持っています。感覚があるからこそ、直しやすい。それが一番の理由ですね」
何とシンプルな答え。
では、軸足から指導しない理由とは?
「軸足で立って、体重移動を起こして……という動きもたしかに大事ですが、まだ下半身の力がないうちにそこをやってしまうと、スピードが全然上がってこないんです。軸足できれいに立ったとしても、体重移動のスピードにつながっていかない。上半身の動きができて、トレーニングによって下半身が強くなってから、下の使い方を教えるようにしています。これまでの経験上、下の動きは形だけ作っても、良くなっていきません」
高校野球は実質2年半。清水監督の中には、投手育成のおおまかなプランがある。
「教える順番は、右ピッチャーでたとえるのなら、右腕、左腕、左足、右足で、最後にもう一度、右腕に戻ってきます。優先順位は上から下。上半身については1年秋ぐらいまでに改善して、それと並行して、下半身はトレーニングでみっちりと鍛えていく。1年生の冬頃には、ステップする左足の改善に入り、それができてから軸足に入る。だいたいこの順番を踏むようにしています」
指導の順番が、ここまで明快な指導者もなかなかいないだろう。順を追って、それぞれのポイントを紹介していきたい。
【投球腕の指導(右投手の右腕/左投手の左腕)】
1.トップは後頭部の後ろ → 時間軸の中心として先に決める
投球腕で重要視するのがトップだ。
「トップ=時間軸の中心です。トップが決まらなければ、ほかの動きをいろいろと修正しても、ずれが生じてしまう。だからこそ、先に作って、決めるようにしています」
いわば、投球フォームの基準とも言えるのがトップ。ここが決まっていれば、グラブハンドや下半身の動きを変えたとしても、フォームが大きく崩れることはない。
では、清水監督が考える理想のトップの位置とは?
「後頭部の後ろです。利き手がここに入ってくれば、ヒジが自然に上がり、いわゆる”ゼロポジション”を取りやすくなります」
「耳の横に持ってきなさい」という教えも聞いたことがあるが、「後頭部」との違いはどこにあるのか。
「耳の横では、どうしてもヒジの位置が低くなりやすい。低い位置から投げにいくと、ボールを押し出すようなリリースになってしまいます」
入学した当初は、正しいトップの形を覚えるために、後頭部に手を置いた状態からの正対キャッチボールを行う。正対で感覚をつかんだあとは、ピッチングと同様に体を横向きにしてボールを投げる。
トップを作ったときの手のひらの向きは自由。「上に向くのが理想ではありますが、特にこだわりはありません」と清水監督。ここまで型にはめると、腕の振りが鈍くなるピッチャーが出てきてしまうという。
2.動きの中でトップを通過する → トップで止まるのはNG
正対と横向きのキャッチボールで、トップの位置がわかってきたら次の段階に入る。
「テイクバックからリリースにいくまでの間に、一瞬でもいいので、後頭部の後ろを通過させること。トップを作ろうとして、動きが固まってしまうのが、一番良くありません。感覚的には、テイクバックからトップ、リリースにいくにつれて、動きが加速していくことが重要です」
実際にやってみるとわかるが、肩甲骨の可動域が狭いと後頭部の後ろにまで持っていくのが難しい。持っていけたとしても、ぎこちない動きになる。清水監督曰く、「トップを作ることと、肩甲骨の柔軟性を高めることはセット」。大崎高では毎日のアップで、太い縄を使った体操を取り入れている。肩甲骨を意識して、腕が耳に触るぐらい大きく、大きく回す。毎日行っていれば、肩甲骨の可動域は確実に広がっていく。ほかのメニューも動画で紹介しているので、ぜひチェックしてほしい。
続きは本書から(書籍では写真を交えてより詳しく紹介されています)。
清水央彦(しみずあきひこ)
1971年生まれ、長崎県出身。佐世保商業から日本大学へ。教員免許取得後、2001年より北松南高校(現・清峰高)野球部の部長兼コーチに就任。甲子園春夏計4回出場を果たす。2009年夏より佐世保実業監督を務め、2012年、2013年と2年連続で夏の甲子園出場。2017年に外部コーチとして大崎高校へ。2018年春より現職。2021年センバツ初出場へ導いた。
著者:大利実(おおとし みのる)
1977年生まれ、横浜市港南区出身。港南台高(現・横浜栄高)-成蹊大。スポーツライターの事務所を経て、2003年に独立。中学軟式野球や高校野球を中心に取材・執筆活動を行っている。『野球太郎』『中学野球太郎』(ナックルボールスタジアム)、『ベースボール神奈川』(侍athlete)などで執筆。著書に『中学の部活から学ぶ わが子をグングン伸ばす方法』(大空ポケット新書)、『高校野球 神奈川を戦う監督たち』『高校野球 神奈川を戦う監督たち2 神奈川の覇権を奪え! 』(日刊スポーツ出版社)、『101年目の高校野球「いまどき世代」の力を引き出す監督たち』『激戦 神奈川高校野球 新時代を戦う監督たち』(インプレス)、『高校野球継投論』(竹書房)、『高校野球界の監督がここまで明かす! 野球技術の極意』『高校野球界の監督がここまで明かす! 打撃技術の極意』(小社刊)などがある。2月1日から『育成年代に関わるすべての人へ ~中学野球の未来を創造するオンラインサロン~』を開設し、動画配信やZOOM交流会などを企画している。https://community.camp-fire.jp/projects/view/365384