企業と共に、地域課題解決を。清水エスパルスが描くスポンサー戦略

明治安田生命J1リーグ所属の清水エスパルスは、コロナ禍でも新たに30社のスポンサーを獲得。パートナーシップ締結時のクラブからのリリースもたびたびSNS上で盛り上がりを見せ、締結後もさまざまなアクティベーションを生み出しています。

法人営業部の森田芳弘(もりた・よしひろ)さんと森宇宙(もり・うちゅう)さんは、口を揃えて「クラブとして地元企業様とともに、地域課題解決の一役を担いたい」と話します。エスパルスの地域貢献に対する考え方や、付随して法人営業に力を入れる理由と地元でのSNS発信力についてなど、エスパルスのスポンサー観に迫りました。

 

地元チームへの思いを胸に始まった、クラブスタッフへの挑戦

ーまずは、お二人がクラブスタッフになるまでの経緯と今の業務内容を教えてください。

 森:私は、2010年に新卒で株式会社エスパルスに入社しました。15年までは運営担当、16年から法人営業部に異動し今に至ります。

大学3年時からインターンに参加したことが、入社のきっかけです。両親が静岡市出身だったこともあり、幼い頃からエスパルスを身近で見てきました。私自身サッカーをやっていたので、「何らかの形で関わってみたい」という思いはずっとありました。インターンを機に社員になる選択肢をいただいたので、やるしかないな、と。

 

ー新卒でクラブスタッフになる前例は少なかったと思います。

森:家族からは最初は反対されました。でも、だからこそ飛び込んでやろう、と。前例が少ないからこそ「スポーツ業界でもイチから成長できる」というモデルケースを作りたいと思って。ちょっとした反骨心と、今後スポーツ業界を目指す方々のロールモデルになればという使命感を今は持っています。

 

ー森田さんはいかがでしょうか?

森田:入社18年目で、ずっと営業を担当してきました。

私は生まれも育ちも静岡で、大学卒業後も地元の金融機関で働いていましたが経営破綻してしまい。たまたま静岡新聞に掲載されていたエスパルスの求人広告を目にして、「少し違った仕事がしてみたい」という思いもあって応募しました。法人営業部とホームタウン営業部に関わり、2021年4月からは教育事業部でも仕事をしています。

 

ーかなり幅広く関わっているんですね。面白そうである反面、大変そうです。

森田:でも、その分やりがいも感じています。教育事業では、サッカースクールやフットサル施設の運営にも携わっています。フットサルは競技人口が減少傾向にあるので、高齢者向けイベントを企画したりと新しい動きもあって面白いです。

 高齢者向けイベント「ハッピーシニアプロジェクト」の様子

 

ファン作り、地域の課題解決。法人営業に力を入れる理由

ーホームタウン活動と営業は、密接な関係にあると思います。地元企業のCSR活動にクラブが関わるケースも増えました。エスパルスでは、どのような活動をされていますか?

森田:小学校で実施している「出前授業」は、パートナー企業様に協賛いただいています。先日は、現在ジュニアユース U-15の監督を務める元日本代表・市川大祐さんが参加してくれて、先生方も喜んでおられました。

ホームタウン活動で重要なのは、地域の課題解決です。地元企業、行政、エスパルスの三者で連携して、もっと深く関わっていきたいと考えています。地元企業のSDGsやCSR活動への考え方を把握するという意味では、法人営業部ともリンクしています。企業様と上手くコミュニケーションをとっていきたいですね。


元日本代表・市川大祐さんによる出前授業の様子

 

 

ー地元企業との連携はスポンサー獲得にも繋がると思いますが、エスパルスではどのような戦略があるのですか?

森:森田の話にも通じますが、企業様との連携においてどうエスパルスがお役立ちできるのかは常に考えています。やみくもに広告看板を売っても、クラブの価値を最大限には活用いただけません。エスパルスと一緒に活動することで生まれる相乗効果を意識しながら、各企業様にあった企画を提案させていただいています。

 

ーToCのビジネスに比べて、ToBではスポンサー効果が見えにくい部分もあると思います。どういったところで効果をアピールしているのですか?

森:「採用活動に活きる」というのはひとつアピールしていきたいです。企業イメージやブランディングに繋がると考えています。あと、社内でひとつのクラブを応援することは、社員の方々の連帯感醸成にも繋がると思っています。以前取材いただいた株式会社エス・トラスト様がひとつの事例で、大変ご好評をいただいています。

今までサッカーに関心のなかった社員の方が、スポンサーをきっかけに試合観戦して熱狂的なファンになってくれることも。ToBの企業様とのパートナーシップは、回り回ってファン作りにも繋がるんですよね。

 

ー森田さんにお伺いしたいのですが、18年スポーツ界にいて、スポンサー営業の売り方や企業様の捉え方も変化があったと思います。どのように感じていますか?

森田:当初は、私も看板露出といった定型商品を売りにしていました。それが徐々に提案営業に変わっていきました。企業様の発信から「今求めているもの」を汲み取って、刺さる提案を持っていけるように意識しています。

環境の変化も大きいですね。18年前は、まだまだJリーグに馴染みがない企業様も多く、商談が成立しないことも少なくなかったです。徐々にエスパルスも地域に根付いてきて、ご理解いただけることが増えました。

 

コロナ禍でも30社のパートナーを獲得。強みは、SNSの発信力

ースポンサー営業において、コロナ禍の影響はどのようなものだったのでしょうか?

森田:どの企業様も、経営状況は苦しいと思います。その中でも、新規で30社とパートナーシップを組むことができています。

一番は、エスパルスのファンやサポーターのエンゲージメントの高さを認めていただいていることだと思います。地元企業ではフォロワー数が多い方ですし発信力も強みかなと。

 

ー具体的にどのような発信をされているのですか?

森田:一定金額以上のメニューではありますが、パートナーシップ締結後にクラブからリリースを出しています。ファンやサポーターの方々から「エスパルスを応援してくださってありがとうございます!」などと反響も大きくて。特にToBの企業様はお客様との接点が少ない場合も多く、喜んでいただけていますね。

リリースの企業様からのコメントもたびたび話題になっていて、熱がある企業様ほどファンやサポーターの方々が反応してくれます。単なる契約上での繋がりではなく、心から“繋がっている”象徴になっています。

 

山下メロン園様とのパートナー締結のリリースが、熱くて印象的でした。

森:私が担当させていただいた企業様です。もともと社長の山下様がエスパルスを昔から応援してくださっていて、何か一緒にできないかとお声がけいただいたんです。コラボ商品「エスパルス応援メロン」を出したり、ファンの方々や企業様と一体となって実施できました。

コラボ商品は、日常的にエスパルスに触れるきっかけになります。企業様も、エンゲージメントが高いファンやサポーターの方々にアプローチできます。それぞれの企業様に合う形で、「クラブの熱量を届けるには」という点を考えています。

 

他にも、とある食品メーカー様との契約締結後は、サポーターの方々から「買いました!」という投稿がたくさんあがったんです。我々も驚くほどの反響があり、企業様からもスポンサー効果のひとつとして評価していただけました。

 

ー他に、印象に残っているスポンサー施策はありますか?

森田:しずてつジャストライン様(地元のバス会社)と実施した取り組みも、非常に好評でした。静岡市内の小学生に、下敷きを配ったんです。選手と監督の顔写真を背番号順に入れ、裏面にはバスの利用案内を載せました。

幼児向けのよだれかけも製作しています。エスパルスのマスコット「パルちゃん」「ピカルちゃん」を入れて、親しみやすいデザインを意識しました。クラブとしては幼い頃からエスパルスの刷り込みができ、しずてつジャストライン様についても地元の子供たちに知っていただくきっかけとなりました。ホームタウン活動として、非常に良い取り組みになったなと。


下敷き贈呈時の様子

 

森田:地元小学生の親子無料招待試合も実施しました。コロナ禍で外にあまり出られない状況が続く中、何かできないかと静岡県民共済生活協同組合様からお話をいただいたことが発端でした。

クラブ主導で県の教育委員会を巻き込み、同じ静岡県内のJクラブ(ジュビロ磐田、アスルクラロ沼津、藤枝MYFC)にも声をかけました。それぞれのスタジアムで実施して、約4,000組の親子さんが来てくれました。4クラブがともに取り組んだ事例のモデルケースです。今後も、一緒に静岡を盛り上げていく企画をしていきたいですね。

 

ー最後に、これからのスポンサーシップの在り方について、意気込みを一言ずつお願いします。

森:新しいことにどんどん挑戦していきたいです。今の社会で固定概念にとらわれていたら、先には進んでいけないかなと。情報をうまく拾い、新たなコラボや企画を実現したいです。

クラブとしては、幅広く吸収してアイデアを形にしていく力が求められていくと思います。一方でスポンサーシップに対し、根底にある考え方は見失わないようにしたいです。変わらず、地域と向き合うことを大切にしていきたいと思っています。

 

森田:静岡市は、人口減少が続いています。放っておくと地元のファンやサポーターの数も右肩下がりになっていくと思います。エスパルスの強みを地域に還元して、地元から愛着のあるクラブを目指したいですね。