【高校球児のための大学野球部ガイド】獨協大学硬式野球部を紹介!

以前は東海大が圧倒的な強さを誇っていた首都大学野球連盟。しかしここ数年は二部まで含めて力の差が小さくなっている印象が強い。そんなリーグで確かな存在感を示しているのが獨協大です。昨秋のリーグ戦では見事に二部優勝を果たし、入れ替え戦では惜しくも1勝2敗で一部昇格は逃したものの、西武からドラフト2位指名を受けた佐藤隼輔を擁する筑波大をあと一歩のところまで追いつめました。そんな獨協大学硬式野球部を紹介します!

監督よりも権限が強い学生コーチ

一昨年のドラフトでは並木秀尊(ヤクルト)が同校から初めてNPB入りを果たし、近年では社会人で野球を続ける選手も増えている獨協大学。しかしスポーツ推薦の制度はなく、入部してくる選手は基本的に指定校推薦や一般入試をクリアした選手のみ。中には浪人を経験している選手も在籍している。そんなチームがなぜ全国でもトップクラスのレベルを誇るリーグで結果を残すことができているのか。その秘密を探るべく、チームの指揮を執る亀田晃広監督に話を聞いた。

亀田監督は東北福祉大から社会人野球の日本通運で内野手として活躍。膝の怪我をきっかけに現役を退いた後、指導者を目指して教員免許を取得し、2014年から獨協大の監督に就任している。選手時代はアマチュア球界のトップでプレーしてきた指導者であるが、自身の経験をむしろ反面教師にしている部分があるという。

「高校は普通の公立高校だったんですけど、大学では本当に野球しかしてきませんでした。社会人も野球で入社したので引退するまで何もできなかったんですね。言い方は悪いですけど本当にただの“野球バカ”ですよね。だから自分みたいな大人にならないように、自分を反面教師にして野球を通じて色んなことを学んでもらうのが一番です。うちは特待生もスポーツ推薦もないので指定校推薦で入ってくる選手が多いですけど、野球部のための枠があるわけではないので簡単ではありません。だから自分みたいに野球だけやってきた子はいないですね」

それでも亀田監督の就任以来、部員は増え続けて今年は4学年合わせて170人を数えた。非常勤のコーチやトレーナーはいるものの、常駐の指導者は亀田監督だけとのことだが、そんなチーム事情だからこそ重要になってくるのが学生コーチだ。

「現在OBのコーチが1人土日に来てくれていますが、自分だけで170人もいる部員を見るのは当然目が届かないので、学生コーチが重要になってきます。ですから会社と一緒で組織、役割をきちんと明示して、選手の前では学生コーチを大人扱いするようにしています。Aチーム、Bチームの入れ替えについての権限も僕よりも学生コーチの方が強いですし、リーグ戦のメンバーを決める時も僕と学生コーチはフラットな立場で話し合います」

選手や学生コーチに話を聞いて驚いたのが、監督のことを役職ではなく「亀田さん」と呼んでいたことだ。一般企業では社長のことを役職で呼ばないなどという会社も増えてきているが、大学や高校の野球部ではあまり見たことがない。このあたりも監督と学生コーチ、選手との関係をよく示していると感じた。そしてそれは役割分担だけでなく、亀田監督が選手に対してリスペクトの気持ちがあることも関係していると言えそうだ。

「最近はプロとか社会人で野球を続けたいという選手も出てきましたけど、本格的な野球は大学までという選手が多いです。自分の大学時代とは違って当然授業もちゃんと受けないといけない。そんな中でも一生懸命やる選手ばかりですし、本当に凄いと思います。本人たちの前では直接言わないですけどね(笑)。寮もないので一人暮らしで身の回りのことをやっている選手も多いです。あとアルバイトもOKにしていますけど、そこから学ぶことも多いですよね。さっきも言ったように特待やスポーツ推薦もないので、学生にPRできる武器があるとすれば、野球は野球でしっかりやる『文武両道』ということですね」。

大事にしている「社会に出るための教育」と文武両道

社会人の一線でプレーしていたこともあって、まだまだ選手より遠くへ打球を飛ばすなど野球の面では自ら示しながら厳しく指導しているという。またマナーや礼儀なども当然細かく指摘しているそうだ。学業や学生生活を疎かにしないだけでなく、グラウンド内でのそういった取り組みも結果が出てきた要因であることは間違いないだろう。そして冒頭で亀田監督が話したように、野球以外の面でも社会に出て通用するための指導も行っているという。

「自分は教授ではないので細かいところは分かりませんが、選手の書く日誌やノートはちゃんとした文章で書けているかチェックします。あとはテーマを与えて全員の前で5分間スピーチもやらせています。目的は起承転結を考えて大学生のレベルに合った話ができるようになること、体育会の用語ではなくて社会に出ても通じる言葉を使ってきちんと話ができるようになること。そのおかげもあるかは分かりませんが、いわゆる人気企業に一般就職する選手も多いですね」

社会に出るための教育に重点を置いているが、野球についても大学で一気に飛躍する選手も少なくない。獨協大から初のプロ入りを果たした並木選手はまさにその代表例と言えるだろう。
「並木も足だけは高校時代から速かったみたいですけど、最初からプロを狙うような選手ではありませんでした。両親が教員ということで教員免許を取りたいというのと、自宅から通えるということでうちを選んだそうです。最初は全然打てなかったですし、守備もちょっと上手いかなというくらいでした」

そんな選手がなぜプロに行けたのか?
「連盟を通じて大学ジャパン候補に推薦できる仕組みを知って、当時のマネージャーが良かったプレーの映像を集めて推薦したら一次選考に通ったんです。代表合宿で自慢の足をアピールして(50メートル走で参加選手中トップのタイムを記録)、それがプロに繋がった感じですね。うちに来て本当に伸びた選手だと思います。プロに決まってから教育実習も行って、教員免許もしっかりとりました。『文武両道』を体現した選手でした」

監督と選手の関係性から見える獨協大カラー

冒頭でも触れたようにこの秋は二部リーグで優勝を果たし、筑波大との入れ替え戦も第1戦で見事に勝利しながらそこから連敗を喫した。惜しくも一部昇格は逃したものの、その戦いの中でも選手たちの成長を感じたという。

「二部の優勝を決めた試合もかなり劇的な内容で、終わった後にメンバー外の4年生が号泣していたので自分も号泣してしまいました。入れ替え戦の前日にはキャプテンが『まだ亀田さんを半分しか男にできていないぞ。一部に上がって絶対に男にするぞ!』っていう話を部員たちにしてくれていました。
コロナもあって去年はなかなか練習もできなくて、今年も大変な時期もあったんですけど、入れ替え戦が終わった後の4年生はやりきった顔をしていたと思います」

監督が選手と一緒に号泣する、選手から「監督を男にする!」という言葉が出るというところにも獨協大のカラーがよく表れていると言えそうだ。そんなチームの特徴を示しているのが毎年12月の全体練習収めの日に行っているクリスマス会だ。チーム対抗での運動会や全員で円になってプレゼント交換を行い、昼食には大鍋で用意した大量の牛丼を亀田監督が選手1人1人に盛り付けて手渡すなどしているという。そしてこのクリスマス会を先頭に立って盛り上げているのが亀田監督なのだ。こういう行事がある野球部というのもかなり珍しいのではないだろうか。

最後にそんな亀田監督の感じている大学野球、そして獨協大野球部の良さについて聞いた。
「いいチームになってきたと思います。選手に直接は言わないですけど(笑)。自分は野球に関しては本当に恵まれた環境でやらせてもらいましたけど、それで調子に乗っちゃって野球以外のことはやりませんでした。獨協は文武両道で勉強もみんなしっかりやるのが当たり前になっていますし、アルバイトやいわゆる普通の学生としてやることもやる。でも野球についても言い訳せずに一生懸命やるチームです。だから勉強も野球もしっかりやりたい子が集まってきているんじゃないですかね。夏には練習会もやっていますから、この雰囲気がいいなと思った高校生はぜひうちに来てください!」(取材・文:西尾典文/写真:編集部)