【羽黒】冬に蓄えて春夏で開花!雪に対応して甲子園出場

2005年の選抜では県勢初のベスト4に進出した羽黒。しかしその後は県内でも勝ちきれない時期が続いた。そんな中6年前に就任した小泉泰典監督のもと、食事、生活を見直して体力面を強化。この夏は劇的な勝ち方で見事甲子園出場を勝ち取った。壁を乗り越え100回大会の切符を掴んだ改革とは。

選手とともに暮らし生活面の改善から着手


野球部・監督 小泉泰典 (こいずみ やすのり)
1984年生まれ。神奈川県出身。慶應高校、慶應大学では投手としてプレー。慶應大学大学院卒業後2010年4月に羽黒に赴任、2012年8月から監督。社会科教諭。

2003年夏に甲子園初出場を果たし、2005年の選抜ではベスト4に進出している羽黒。しかしそれ以降は惜しいところまで勝ち進むものの、日大山形、東海大山形、鶴岡東、山形中央など県内の強豪チームの前にあと一歩が届かないという年が続いていた。そんな状況のチームに2010年からコーチとして着任したのが現在の小泉泰典監督だ。神奈川県出身で慶應高校、慶應大学で投手としてプレーし、その後は慶應大の大学院で運動学習を研究した経歴を持つ。その小泉監督が2012年8月に監督に就任した時にまず手をつけたのが食事の改善だった。

「コーチとして赴任して最初の2年間は寮で選手と一緒に生活していました。普段の様子や練習を見ていても熱心に取り組みますし、能力が低いわけではないのですが知識が少ないと感じることが多かったです。一生懸命やっているのに結果が出ないのはもったいないなと思いましたね。それまでも量は食べなさいとは言っていましたが、具体的ではなかった。それでたまたま大学の後輩が栄養指導を行っている会社に勤めているのを知って、そこから全員でしっかり学びながら取り組もうということになりました」。


寮生活をしている選手の昼食は学校の食堂で提供されている。他の部活も同じ食堂を利用しているが、野球部用に用意されており、ごはんの量も担当の選手がチェックしている。

監督が変わり、新しいものを取り入れる。そういった取り組みに対して選手や保護者から反発するという例も聞くが、羽黒の場合はタイミングも良かったことで、上手く取り入れられたという。「監督になった直後の秋の県大会で準決勝、3位決定戦と連敗して東北大会を逃して、チーム全体にもかなり悔しいという雰囲気があったんですね。そういうタイミングだからこそ何かを変えないと、という意識が働いて、選手も保護者の方もすんなりと取り入れられたようです」。


昼食の様子。この日のメニューは人気のある鶏の唐揚げと豚肉の生姜焼きということもあって、箸がどんどん進む選手も多かった。

全員への意識付けを徹底入部直後に合宿も実施


夏の甲子園を経験したメンバーも残り、2季連続の甲子園出場を狙う。

順調に取り入れられた食トレだったが、最初の結果は散々なものだった。それからチーム全体への浸透のために、4月に入部する新入生にも定着の機会を設けるようになったという。「最初に専門家の方にチェックしていただいた結果はひどかったですね。栄養のバランスも悪く、必要なエネルギーも足りていない。うちは寮もありますが、通いの選手もいるため保護者の方にも参加していただきました。あとはこれを早い段階から定着させないといけないと思って、新入生のために入部した直後に合宿を行うようにしました。そこでも保護者に参加してもらって、チーム全体で意識付けをします。ありがたいことに最近ではその噂が中学生にも広がっているそうで、入部する前から対策してくる選手も出てきました。大きな怪我も減りましたし、夏場にばてることや足がつるケースも少なくなったと思います」。


実戦練習での一コマ。バントもバッターボックスのどこに立つのかなど、細かい部分が小泉監督から指導されており、全員が共通認識を持つことを重要視している。

身体が大きくなる、故障が減るというのはよく聞く話ではあるが、それ以外にも食トレの効果はあると小泉監督は語る。
「数字で見えるというのが大きいと思います。体重が増えた、体脂肪率が減った。それだけで一つの成功体験だと思うんですね。寮でも常に測れるように体重計を用意しています。また寮生は3食一緒に食べますから、その場でもお互いが意識するようになる。そのことがプレーの面でもプラスに働くようになっているのではないでしょうか」。


日本で唯一学校の敷地内に教習所があり、野球部のグラウンドと隣接している。

あと一歩のために選手の力で乗り越える


専用グラウンドはあるが十分な広さがあるわけではないため、脇にある通路も使って練習を行っている。

食トレによってチーム力は確実に上がったが、甲子園にはなかなかあと一歩届かない状況は打破できなかった。東北ならではの冬の長さ、春から夏が短いスケジュールも神奈川出身の小泉監督を苦しめた部分があったという。
「11月下旬から3月の中旬までは雪の影響でグラウンドを使うことができません。その影響で春の大会も開幕が遅いので、東北大会まで行くと春と夏の間が1か月しかない。春が終わった後に一度調子を落としてしまうと夏に間に合わないんですね。でもそれを言い訳にしてはいけないので、しっかり対応しようと一昨年の秋からは早い時間から朝練をするようにして、3月にも合宿をして春から夏に向けて体力が落ちない身体作りを目指しました。試合がない期間はかなり追い込みましたが逆に毎週日曜日は完全オフにしています。そうしないと身体も大きくなりませんし、疲労がとれずに故障に繋がりますから」。


走者をつけての実戦練習の様子。どこまでリードするかをラインで示すなど、チームの決まり事の確認に時間を費やしていた。

このようにして冬場に追い込んだ結果、今年の夏は見事に甲子園出場の扉をこじ開けた。そこには小泉監督が想像した以上の選手の成長があったそうだ。「今年は特に選手の意思を尊重しようと思って取り組みました。夏の苦しい場面で力を発揮するには選手が自分で考えて動けないといけないと思ったからです。夏の山形県大会は準決勝、決勝と連続でサヨナラホームランで勝ちましたが自分の想像以上に選手たちが成長していたんだなと感じました、ただ甲子園では全ての力を出せなかった。秋は準備期間が短いですが、また考えて動ける選手の集合体になって選抜を目指します」。


グラウンド脇にあるブルペン。今年の夏は3人の好投手を擁して山形大会を勝ち上がった。

チーム全体で意識高く食トレにも取り組み、考えて動ける集団になる。この秋以降も長年敗れなかった壁を乗り越えた羽黒がどんな戦いぶりを見せるかに注目だ。

甲子園の思い出

県大会後にユニフォームを新調した羽黒高校。開会式リハーサル前日というタイミングで届いた新ユニフォームは甲子園でお披露目となった。1回戦奈良大附に敗退後は「笑って地元に帰ろう」と、大阪で吉本新喜劇を観に行ったんだそう。

羽黒高校DATE

所在地:山形県鶴岡市羽黒町手向薬師沢198
学校設立:1962年
直近の戦績:
2018年夏・県大会優勝、全国高校野球選手権1回戦
2018年春・県大会優勝、東北大会準々決勝
2017年秋・県大会2回戦

(文・写真:食トレマガジン#7より)