【高松商】監督が必ず新入生に送るメッセージ、ドラ1浅野が成長した理由
大正、昭和、平成、令和と、4元号での勝利の記録を持つ名門・高松商。2014年の就任以来、「選手自らが走り出す“自走する集団”」「やらされる3時間よりも自らやる30分」「価値ある答えは“正しい答え”より“考えた答え”」を指導のモットーに掲げ、高松商を見事に立て直した長尾健司監督にお話を伺った。
甲子園4元号勝利の名門・高松商
春夏49度の甲子園出場を誇り、大正、昭和、平成、令和と、4元号での勝利の記録を持つ名門・高松商。
1996年から20年近く、聖地から遠ざかった時期があったが、2014年に長尾健司監督が就任して以降、復活傾向にある。春は2度(2016年、2019年)、夏は3度(2019年、2021年、2022年)、甲子園に出場。この秋も四国大会準優勝を遂げ、来春センバツ出場が有力視されている。
長尾監督は丸亀高校、順天堂大を卒業したあと、中学校の教員を21年間務め、丸亀市立飯山中、香川大学教育学部附属中で全国大会出場の実績を持つ。
「選手自らが走り出す“自走する集団”」「やらされる3時間よりも自らやる30分」「価値ある答えは“正しい答え”より“考えた答え”」を指導のモットーに掲げ、高松商を見事に立て直した。
新入生に送る2つのメッセージ
地元の中学生にとっては、憧れの高校のひとつであり、「高商で野球をやりたい」と、毎年30名近い生徒が入部する。胸躍る新入生を前に、長尾監督が必ず伝えるメッセージが2つある。
「きみたちは、高商に野球をしに来ているのではない。勝負をしに来ている。そのことを忘れないでほしい」
伝統校ゆえに、高松商に入学できたことで満足する選手も一定数いるという。近年の成績を考えれば、在学中に1度は甲子園に出場できる可能性もある。しかし、「高商に入れば甲子園に行けるだろう」と軽い気持ちでは、目標を叶えられないのは当然のこと。仲間との勝負に勝つ気持ちがなければ、公式戦で活躍することはできない。
もう1つ、これも高松商の選手だからこそのメッセージを送る。
「高松商のユニホームを着ること、野球部のバックを持つことの自覚と責任を持ってほしい。電車に乗るときに大きな荷物をドアの前に置いて座っているだけでも、『高商の野球部員が』と学校に電話がかかってくる。ひとりの行動によって、チーム全員に迷惑がかかることを知っておいてほしい。これからは、世のため、人のため、仲間のため、応援してくれる家族のために野球をやるんだよ」
野球部への期待が大きく、ファンも多い分、自覚と責任が求められる。
ドラフト1位・浅野が成長した理由
10月20日に行われたドラフト会議で、高校通算68本のスラッガー浅野翔吾が、巨人と阪神からドラフト1位指名を受けた(巨人が交渉権を獲得)。
高松市立屋島中の出身で、自宅から自転車で学校に通う。中学3年時にはU-15侍ジャパンにも選ばれ、県外の強豪から誘いを受けたが、「地元の人たちに応援してもらいたい」と高松商進学を選んだ。
「まさかドラフト1位で指名されるほどになるとは思っていませんでした。ここまで伸びたのは、精神的な成長が大きい。新チームでキャプテンを務めてから、『チームのために』『仲間のために』『応援してくれるファンのために』と、周りのことを考えながら、野球に取り組むようになりました」
高校入学時、浅野はすでに170センチ83キロの体格で、身体的には「早熟」と見る向きもあった。長尾監督のもとには、「浅野よりも、あの中学生のほうが伸びると思いますよ」という情報も入ってきたそうだが、まったく気にならかったという。
「高校で伸びるとか伸びないとか、考えたことがありません。『高商で野球をやりたい』と、入学してくれた選手に対して、持っている能力を最大限に伸ばしてあげるのが指導者の仕事だと思っています」
野球はうまくいかないことが多いスポーツ
高松商に赴任したとき、最初に着手したのは全員が野球に取り組めるように環境を整えることだった。それまでは、1年生は学校の周りを走るだけ、レギュラーしかバッティングができないなど、練習量に差があった。
「全員に同じ環境、同じ時間を提供して、メニューを組んでいくのも指導者の役割。部活動は、教育機関である学校の中で行っていることなので、全員に学びの機会を提供していく。学びの中では、うまくいくこともあれば、いかないこともあります。野球はうまくいかないことが多いスポーツなので、失敗するのは当たり前。その失敗をどうやって成功につなげていけるか。これから社会に出たときにも、大事な考えになります」
浅野を含め、次のステージに羽ばたく3年生には、こんな話をしているそうだ。
「小学生のときの定期テストは、頑張れば100点が取れたけど、中学生になると80点ぐらいになり、高校生になると欠点(赤点)を取ることもあるよな。ステージが上がるほど難易度が上がって、失敗の数が増えるものなんだよ。社会に出ると、もっと失敗をするようになり、ひとつひとつの失敗がより重たくなる。そのときに失敗から逃げるのではなく、失敗と向き合うことが次の成功につながっていく。そのことを忘れないように」
長尾監督の座右の銘は『“失敗”と書いて“成長”と読む』。尊敬する野村克也さんの言葉であり、目標を叶えるため、そして充実した人生を送るために、欠かせない思考となっている。
*後編に続きます
(取材・文:大利実/写真:編集部)