【花咲徳栄】秋の初戦敗退、夏を見据えて取り組むオフトレーニング

昨年秋は実に12年ぶりとなるまさかの県大会初戦敗退となった花咲徳栄。岩井隆監督がU18侍ジャパンのヘッドコーチとして海外遠征中だったこともあって、チームに走った衝撃も大きかったようだ。しかしそこから改めて取り組みを見直し、夏に向けて強化を図っているという。そんな花咲徳栄の1月のトレーニングの様子を紹介する。

トレーニングも姿勢が大事

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1992年にコーチとして花咲徳栄に赴任し、2001年から監督を務めている岩井隆監督。激戦区埼玉で春夏合わせて12回の甲子園出場を果たし、2017年夏には全国制覇を達成している。また昨年まで8年連続でプロ選手を輩出しているが、これは高校では歴代最長記録である。そんな岩井監督がトレーニングに関して全幅の信頼を寄せているのが塚原謙太郎トレーナーだ。花咲徳栄以外にも健大高崎など多くのチームでトレーニング指導を担当し、高い成果を出している。岩井監督は塚原トレーナーに関してこのように話してくれた。

「最初は(岩井監督と同じ)東北福祉大出身ということで紹介されて、詳しいことは知らなかったんですよ。当時、自分は股関節をそんなに重視していなくて、それでも股関節が重要だという話をよく聞くからそのことについてどう思うか聞いたら、すごくしっかりした答えが返ってきて、じゃあその強化をお願いしますということがスタートでした。
外部スタッフのトレーナーは監督や選手に好かれようと思って、こっちの言うことを否定しないことが多いんですけど、彼はちゃんと自分の意見を言ってくれる。あとチーム全体ももちろんですけど、個別の選手の課題にも取り組んでくれる。なかなかそういう人は貴重だと思いますね」(岩井監督)

取材当日は週に一度の塚原トレーナーの指導日。前編でも触れたように足袋で練習を行うのが花咲徳栄の伝統となっているが、この日はランニングメニューも多いということで最初からアップシューズを履いている選手も多かった。それだけ選手も塚原トレーナーの指導日は意識しているということだろう。

器具を使って行うトレーニングはスクワット、ベンチプレス、デッドリフト、ローイング、プルオーバーの5種類で、これを3人組で行うというものだ。そして塚原トレーナーが重視しているのはトレーニングにおける“姿勢と形”だった。
「自分が指導している高校は基本的にこの5種類です。高校生の間に必要最低限身につけてもらいたいメニューですね。でも何となくの形、姿勢でやっても効果はありません。きつくなってくるとみんな姿勢が崩れるので、そうならないように確認しています。トレーニングに限らず走ることについても普段座ったりするのも姿勢が大事ですよね。同じトレーニングをしているつもりでも差が出てくるのはそういうところだと思います」(塚原トレーナー)

ベンチプレスの後には追い込むためにすぐ腕立て伏せにも取り組んでいたが、その時も塚原トレーナーや別のメンバーがトレーニングをしている選手の腰にタオルを巻きつけて姿勢を矯正していた。またローイングについてもテンポが速い選手に対して「もっとゆっくり!そうやらないと意味ないし怪我するから」という塚原トレーナーの声がよく聞こえた。こういうトレーニングの細かい部分が後から大きな差となって表れてくるのだろう。

最低限、怪我をしないための柔軟性と筋力をつける

塚原トレーナーに現在の花咲徳栄の現状について聞くと、このような答えが返ってきた。
「トレーニングメニューの数値に関しては高校野球で上位のレベルです。常に数字を意識しながらコツコツやれる子も多いので、全体的にはこの冬も順調に上がってきていると思います。ただ特に1年生は身長が高い選手も多いんですが、それを考えると体重も数値もまだまだ伸ばせる余地はありますね。そういう意味でもまだ“伸びしろ”のあるチームだと思います」(塚原トレーナー)

また、花咲徳栄は毎年あらゆるチームから有望と言われる選手も入ってくるが、徐々に選手の特性は変わってきているという。
「今は学校の部活じゃなくてクラブチームでプレーしている選手が多いので、意外に体力がない選手も多いです。早くから野球しかやってこなかった選手も多くて体も硬い。あと野球塾とかで個別の技術は教わっているけど、“実戦での野球”が上手くない子も多いです。それは最近の特色じゃないですかね。
体力面や実戦でプレーする力が追い付いていないと怪我に繋がることも多いです。だからまずは怪我をしないための柔軟性、筋力をつけるというのは最低限じゃないでしょうか。これは花咲徳栄だからというわけではなく、指導に行っているどのチームにも共通して意識しているところです」(塚原トレーナー)

以前紹介したハンマーを使ったトレーニングも柔軟性がなければ腕だけで振り下ろすことになり、効果も半減するという。また故障を防ぎたいというコメントは岩井監督からも前編で聞かれたものであり、このあたりは指導者の意思疎通がしっかりとれていると感じられた。

秋はまさかの県大会初戦敗退から春はどこまで巻き返してくるのか。一冬を超えた花咲徳栄にぜひ注目してもらいたい。(取材・文:西尾典文/写真:編集部)