【おかやま山陽】何に対しても勝負してほしい。甲子園はそのための通過点
本日18日、倉敷翠松との3回戦に臨むおかやま山陽。今年の代を「勝ってほしいな……と思わせる学年ですよね」と言う堤尚彦監督。岡山大会直前にお話を聞きました。
勝ってほしいなと思わせる学年
「この子たちとグラウンドにいる時間が楽しいですよ」
グラウンドで練習する選手たちを眺めながら、堤尚彦監督はそう漏らした。バックネット裏の部屋の壁には、年代ごとに教え子の写真がビッシリと貼られている。それも集合写真ではなく、選手の個性が表れているプレー画像である。貼り出せなくなった昔の写真はファイルに綴じて、いつでも見られるように保管してある。
甲子園出場は2018年春が最後になっているが、今年のおかやま山陽はチャンスを迎えている。2年前の1年生大会で優勝した学年が最上級生を迎え、昨秋は岡山大会で優勝して中国大会ベスト8進出。今春の岡山大会は優勝した岡山学芸館に3対4で惜敗したもののベスト4。今夏は優勝候補の一角に挙がるだけに、堤監督は「そりゃあ、楽しみですよ」と意気が上がる。
チームの軸になっているのは、“2人の主将”だ。今年のおかやま山陽は、投手陣は井川駿、野手陣は渡邊颯人がキャプテンを務めるW主将体制。渡邊がハイレベルな遊撃守備を武器にするのに対し、井川は140キロ近い快速球と強心臓でおもにリリーフとして活躍している。堤監督は井川のことを紹介する際、「太陽のような子です」と評する。
「前向きで素直で、負けず嫌いで。純粋に野球をやっていていいなと感じます。ここまで野球に向き合っている子はいないでしょう。この学年は井川を筆頭に、野球が純粋に好きだと伝わる子が多いんです」
そして、堤監督はこう続けた。
「勝ってほしいな……と思わせる学年ですよね」
2年生にも大型右腕の三浦尊神、強打の内野手の田内真翔と早くもプロスカウトがマークする逸材がいる。
といっても、今年も激戦の岡山を勝ち上がるのは容易ではない。春に敗れた岡山学芸館、春の岡山準優勝の玉野光南、地力のある倉敷商、倉敷工もいる。ノーシードながら好投手を擁する難敵も多い。
そして、岡山高校球界で最大の話題といえば、門馬敬冶監督が就任して初めての夏を迎える創志学園だろう。東海大相模で甲子園通算30勝、4回の甲子園優勝を果たした名監督が、2022年8月から創志学園の監督に就任している。
それでも、門馬監督が率いる創志学園に対して、おかやま山陽は昨秋、今春と連勝している。堤監督は「いやいや、創志はすごい選手を獲りにいってるみたいですよ」と煙に巻くが、叩き上げで強化してきただけに対抗心は強いはずだ。
甲子園は通過点
取材後、岡山大会の組み合わせ抽選会が開かれ、おかやま山陽の初戦は7月14日、倉敷と岡山御津の勝者との対戦が決まった。とくに倉敷は堤監督が「好投手がいる」と警戒していたチームである。初戦から侮れない戦いになりそうだ。
そして、おかやま山陽が目指すものは甲子園だけではない。おかやま山陽の学校ホームページには、「野球部ステートメント・宣言」としてこんな一文が載ってる。
〈大好きな野球を通じて出会う人や経験を生かし、将来、プロ野球選手になる、指導者になる、スポーツメーカーで働く、商社マンで海外に行く、父親として自分の子供に教えるなど、形は変われど、国内外にいながら世界の野球の普及に貢献できる人材を育成します〉
昨年はプロ野球界に進んだOBの藤井皓哉(ソフトバンク)が大ブレーク。そんな藤井も、今オフには中古の野球道具を携えて外国に渡る計画があるという。他にも複数の野球部OBが海外青年協力隊に応募し、野球普及のために活動している。
堤監督は「甲子園は通過点」と語る。
「学歴では勝負できなくても、生徒には『なんぼでも変われるよ』と伝えています。OBにはラーメン屋のフリーターから海外に渡り、語学力を生かしてNPB球団のスカウトに内定した子だっています。何に対しても引け目を感じることなく、勝負してほしい。甲子園はそのための通過点に過ぎません」
この夏、おかやま山陽は甲子園にたどり着けるのか、それとも。いずれにしても、その戦いぶりには、壮大なスケールのロマンが詰まっている。(取材・文・写真:菊地高弘)