【桐朋】田中隆文|高校で芽生えた独自の感性、監督が語る森井翔太郎のこれまでとこれから
偏差値71の超進学校に現れた投打の二刀流・森井翔太郎選手。NPBにとどまらずMLBも注目するこの逸材を中1の時から見ている田中隆文監督。そんな田中監督に、森井選手のこれまでとこれからについてお話を聞きました。
独自の感性が芽生え、大きく伸びた
―― 桐朋は東京大に合格者を輩出するなど、都内有数の進学校として知られています。
今(5月30日取材)は18時30分に完全下校で、17時半には練習を終えます。月曜日と木曜日は放課後の練習が休みのため、朝に30分ほど練習しています。とはいえ、学校敷地内に練習グラウンドがあるので、生徒たちには「恵まれているよ」という話をしています。
―― 京都大2年の玉越太陽投手もOBで、今春はリーグ戦で初勝利を挙げるなど活躍しましたね。
高校時代からボールは速くなかったのですが、度胸がよく飄々と投げるのが玉越のいいところでした。
―― 今年は投打に能力が高い森井翔太郎選手が、プロスカウトからの注目を集めています。
NPB球団だけでなく、MLBの球団スカウトまで見に来られています。アメリカの大学に進学する選択肢もあり、どの道を選ぶかは本人次第ですが、話し合っていきたいと考えています。
―― 森井選手は桐朋小から中高と内部進学していますが、プレーはずっと見てこられたのでしょうか?
中学1年の時から見ています。「体の大きい子だな」という認識はありましたが、ここまでの選手になるとは想像していませんでした。中学3年時には「高校は本当にウチでいいのか? 将来を考えて、自分を高められるチームでやったほうがいいんじゃないか?」という話をしたこともあります。本人としては強豪校から誘いがなかったことと、中学時代から一緒にプレーしてきた仲間と野球をしたい思いがあったようです。でも、結果的にそれがよかったのかもしれません。
―― と言いますと?
やらされる練習ではなく、自分たちで考えてやる練習をするなかで、独自の感性が芽生えたように感じます。とくに森井の場合は自分のペースで練習する子なので、大きく伸びた要因になったと思います。ウチの練習はまず選手がメニューを考えてやってみて、おかしいと感じた場合は私がミーティングで指摘するスタイルです。
―― 桐朋の場合は中高の6年間をかけて育成できるメリットもありますね。
そうなんです。中学3年のお盆過ぎから高校野球部の練習に参加できるので、冬場のトレーニングも一緒にできます。普通の高校なら冬場に鍛えられるのは2回だけですが、ウチは3回も冬のトレーニングができる。性格を早めに把握できるのもメリットだと感じています。
悪いところに早く気づける
―― 田中監督は、森井選手の投打どちらの面で将来性を感じていますか?
最初は野手かな……と思っていたんです。打撃力が高いので、それを生かしてほしいと考えていました。でも、そこから投手としての伸びがすごかったんです。球速はスカウトのスピードガンで153キロを計測して、変化球でもカウントをとれるようになってきました。投手も捨てがたいと感じます。
―― 森井選手の内面的な部分は、どう評価していますか?
素直な点が一番大きいです。あとは悪いところに早く気づけるのはいいですね。
私としては生徒に厳しく接しているつもりですが、このような自由な校風の学校ですから、強豪校の張り詰めた雰囲気はありません。高校卒業後にどの道に進むにしても、本人が順応できるか……。大丈夫だとは思いますが、行ってみないとわからない部分ですから、心配もあります。
―― 桐朋のような進学校になると、学校も保護者も求めるものは「学業」が第一だと想像します。そんな環境で高校野球部の監督を続けるモチベーションはどこにあるのでしょうか?
うーん、そうですね……。やっぱりこういう学校ですから、部員の意識も3つくらいの層に分かれます。単純に中学時代の仲間と一緒に高校野球をやりたい生徒、大会のベンチ入りメンバーに入りたいという生徒、あとは森井やキャプテンの石畝裕、エースの鬼塚心優らのように「上を目指したい」という生徒。そんななか、目標を定めるのも難しいのですが、西東京ベスト32、ベスト16……といったところに設定するのは、もったいないと感じるんです。「せっかくやるなら、甲子園に出るチームを目指そうよ」と時間をかけて言い聞かせてきました。「甲子園に行こう」と思ったら、一つ一つの行動に対して「これでいいのか?」「甲子園に出場するチームのふるまいなのか?」と考えるようになります。勉強にしたって、「自分の進める大学はこんなもんか」と考えて勉強していたらもったいないですから。
―― 思考力の高い生徒ほど現実を見つめて、「こんなもんか」という考えになりそうですね。
田中 そうなんですよ(笑)。でも、そこに気づいて変わっていく代があるんです。上級生が変わって、下級生たちを引っ張っていってくれる。そうやって生徒たちが変わっていくのを見るのが、楽しいのかもしれませんね。
(取材・菊地高弘/写真・編集部)
関連記事
-
【創価】堀内尊法監督|環境が乱れると、心も乱れる2024.1.31
-
【創価】堀内尊法監督|伝えても動かなかったら、伝えてないのと一緒2024.1.20
-
【日大三】三木有造監督の失敗と後悔、2006年西東京大会決勝での後悔2023.7.27
-
【日大三】三木有造監督の失敗と後悔、高2秋に緩慢な守備で逃したセンバツ2023.7.19
-
【日大鶴ヶ丘】徹底した意識改革で時短を図る|時短テク(前編)2018.10.24
-
【日大鶴ヶ丘】徹底した意識改革で時短を図る|時短テク(後編)2018.10.24
-
【国士舘】オフシーズンに打撃力が向上!集大成で挑む夏2018.7.14