【日大豊山】福島直也監督|日大豊山には日大豊山のやり方がある
昨年夏も東東京大会で準々決勝に進出した日大豊山。甲子園出場は過去に1度だけだが、近年もあと一歩まで迫ることは多い。チームを指導する福島直也監督はコーチ、監督就任時代から方針を大きく変えてきたということを前編では紹介したが、後編ではさらに安定して結果が出ている理由について迫る。
最初は『やらないといけないからやる』からスタート
コーチ時代、監督就任当初は指導方針も固まらず、とにかく“監督っぽく”ふるまうことで選手を追い込んでいたと話す福島監督。父親の死などをきっかけに今では自分が無理をせず、とにかく選手をよく観察するようになったということは前編で紹介したが、それだけで結果がついてくるわけではもちろんない。以前と変わった点について、福島監督はこう話してくれた。
「チームのコンセプトや徹底事項、そういったことは明確にするようにしました。ミーティングもただやるのではなくて、テーマを決めて資料を作ってからやります。あとただ野球やって勝つだけじゃなくて、活動理念から決めようと。学校の理念とも重ねて、『社会に貢献できる人間力のある生徒の育成』として、そのために自分はやるんだということを明確にしました。生徒に対して示すということもありますけど、自分のやることが明確になったという方が大きいかもしれませんね。高校野球はやっぱり教育の一環ですから、この子たちがこれからの世の中を作っていくにあたって、それに必要なことをグラウンドでしっかり経験してもらおうと。そのためのスローガンが『克己』、己にうちかつこと、あと凡事徹底、そういう風に落とし込んでいきました」
前編でも触れたように以前は結果のみで判断していたものが、こうした方針を明確にしたことで、選手たちの理解も深まり、日々の取り組みも変わっていったという。そしてチーム作りにおいても、時期によってテーマを明らかに変えているそうだ。
「まず8月に新チームがスタートした時はチームとして何も出来上がっていない状態ですから、まずはこちらから言われたことをやりなさいと言います。自主性なんてありません(笑)。赤ちゃんや何も知らない子どもに自主性って言っても無理ですよね。だから最初はこちらから与えていきます。だから最初は『やらないといけないからやる』からスタートです。それがだんだん『大事だからやる』に変わっていく。こちらが言わなくても分かるようになるんですね。そのあとは『やりたいからやる』、最後には『楽しいからやる』という風になるように考えてチーム作りをするようにしました。だから6月のこの時期はやることは決めておきますけど、あとは選手たち自身の取り組み次第だと思ってやっています」
強みは〝ここぞ〟の場面の集中力
もう一つ福島監督がチーム作りをしているうえで考えるようになったのは、対戦相手との力関係や、自分たちの強みの部分だという。
「東東京だけでも強いチームはいっぱいあります。帝京さんの打線は凄いですし、関東一校さん、二松学舎さん、単純に比較したら力は向こうの方が上ですよね。それに勝とうと思ってやみくもにやっていたのが昔だったと思います。でもそれでは当然勝てない。じゃあ自分たちがどう戦えばいいのか、勝てる部分はあるのか、そういったことをよく考えるようになりましたし、選手にも言うようになりました。うちの選手たちの強みを考えると、勉強もしっかりしないといけない学校なので基本的に真面目な子が多いんですよ。トレーニングをやるっていっても、しっかり数字の目標を決めて、それに向かってできる。そういう部分はやっぱり強いですよね。あとはここぞという時の集中力がある。ずっと相手を圧倒できなくても、ワンチャンスで勝てることもあります。そんなことはよく意識していますし、選手にも話はします」
この春の東京都大会でも、それを裏付ける試合があった。それが4回戦の東京高校戦だ。相手のエース、永見光太郎はプロも注目する好投手で、3回戦では二松学舎大付を相手に被安打3、1失点で完投勝利をあげている。そんなピッチャーと対戦する時に、福島監督が選手たちに話した内容はこんなことだった。
「相手のピッチャーがいいというのは当然知っていましたけど、選手たちがそれに対して凄く意気込んでいたんですね。でもちょっと待てと。『二松学舎相手に3安打だよ、うち二松学舎より打線強い?』っていうことを話したんですね。意気込んで打てれば苦労はないけど、そうじゃないよねと。じゃあまずは何をするべきかと言ったら、相手の打線をしっかり抑えて守ることが大事だという話をしました。結果として得点は入りましたけど(7対0で日大豊山が勝利)、決して打ち崩したわけではないです。良いところで一本が出たというのはありましたけど。だから常に相手との力関係、自分たちがその中で何を重要視するかというのは意識するようにしていますね」
福島監督の話で印象的だったのは、やり方はそれぞれ違って、日大豊山には日大豊山のやり方があるというところだった。またそのチームに合う選手というのも確実にいるということも話していた。最後に日大豊山の野球部に合う選手について聞くと「自分で考えて行動できる選手」という答えが返ってきたが、練習の雰囲気を見てもそれは強く伝わってきた。
監督も選手も無理なく自然体でやりたい野球をやる。そんなチームが夏にどんな戦いをみせてくれるかにぜひ注目してもらいたい。(取材・西尾典文/写真・編集部)
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