【大宮東】冨士大和|一番下から這い上がる夏、プロ見据えるMAX144キロ左腕

地区予選敗退からの巻き返しを狙う夏。184センチ78キロの恵まれた体格からサイドハンド気味に投げ込むMAX144キロの速球と巧みに操るチェンジアップ。プロも注目する大宮東の大型左腕、冨士大和投手にお話を聞きました。

球速よりもボールの回転を重視

――たいへん失礼ながら、練習試合を1回見ただけでは冨士投手について理解が追いつかず、練習にもお邪魔したうえでインタビューをさせていただきます。

どうもありがとうございます(笑)。

――冨士投手の大きな特徴は、その腕の振り。左腕がサイドハンドに近い角度から出てきます。高校2年時から見ている人によると、その角度がだんだん下がっているとも聞きました。自分自身ではどう感じていますか。

腕の角度は無意識に落ちています。たまに直そうとしていますが、落ち着くところが今の位置なので。リリースポイントは高すぎてもダメだし、低すぎてもダメ。日によっても微妙に違うので、毎日ちょうどいい位置に合わせて投げています。

――肩・ヒジの故障歴はありますか?

1回も痛めたことがありません。

――それは素晴らしいですね。冨士投手の体に合った投げ方ということなのでしょうね。

フォームを指導されたことは1回もありません。指導者の方々には感謝しています。

――変則的なフォームに見えますが、放たれるボールは捕手のミットを激しく叩く猛烈な球威を感じます。このギャップが、強豪打線からも三振を量産できる理由なのかなと感じますが、どうでしょうか。

球持ちがいいことと、ボールの出どころが見えづらいことはよく言われます。ストレートで空振りを取れることが一番の長所だと感じています。

――最速144キロとのことですが、数字以上の体感スピードと球威を感じます。

球速よりもボールの回転を重視しています。

――回転を確かめる方法はありますか?

ボールの音を聞くようにしています。キャッチボールやブルペンで「シューッ」という音が聞こえる時はいい証拠なので。キャッチャーにも「音鳴ってる?」と確かめることもあります。

――ブルペンでの投球練習を見ていると、ボールが抜けたり引っかけたりした直後に1球で修正してくるシーンが強く印象に残りました。あの修正力はどこからくるのでしょうか。

ボールが抜ける原因はリリースポイントがズレているか、重心が前に突っ込んでいるかなので。投げ終わってから反省して、考えを整理して次の球を投げています。

――それだけ自分の体やフォームの特性を理解しているということですね。お兄さんの冨士隼斗投手(日本通運)は右のパワーピッチャーでタイプは異なりますが、理論派のようですね。昨年、大学生のドラフト候補を取材していて、複数の投手が「冨士くんに投げ方を教わったら球が速くなった」と証言していました。お兄さんからアドバイスを受けることもあるのでしょうか?

兄は大学(平成国際大)でケガをした時に、体の使い方や練習法をたくさん調べていました。体をコントロールできるようになって今があると言っていて、兄からいろいろと教わっています。

――どんな点を学んだのですか?

「胸のしなりを使えていない」と教わりました。メディシンボールを使って胸郭を柔らかく、強く使えるトレーニングをするようになって、球持ちやしなりが出てきました。

――冨士投手はセットポジションに入る前に、両手を割って胸を開くようなルーティンがありますね。あれも胸郭を柔らかくするイメージでしょうか。

自分は少し猫背で、テークバックで肩が内側に入るクセがありました。それを直そうと思って、肩が内側に入らない意識づけとしてルーティンにしています。

コントロールを磨いて、配球の引き出しを増やしたい

――冨士投手のフォームを静止画で撮影すると、トップの時点で左ヒジがかなり下がっていることがわかります。一般的には「故障しやすい投げ方」と見られてしまうのかなと思いますが、どうとらえていますか?

自分のフォームは胸郭を広げる投げ方なので、トップでヒジが低くなるのは必然的だと考えています。兄からも、「今以上に低くならなければ大丈夫」と言われました。

――そう言われてみると、自然な体の使い方に思えてきました。勉強になります。ちなみに、試合後に疲労が出やすいのは、体のどのあたりですか?

脇の下や広背筋に張りが出やすいので、マッサージをしてもらいます。自分としては、大きな筋肉を使えている証拠だととらえています。

――肩・ヒジに負担がいっていない証拠ですね。故障がないのもうなずけます。

むしろ、ヒジの内側の筋肉に張りが出る時は手投げになっている証拠なので、修正するようにしています。

――いかに自分の体と向き合っているのか、よく理解できました。変化球についても教えてください。冨士投手は抜くチェンジアップが印象的で、最初は「カーブかな?」と思うような面白いボールですね。

中学時代にコロナ期間の時に、動画サイトを見て遊び感覚で身につけました。カウント球でも決め球でも使えるのがいいところだと感じています。

――今の課題はどこですか?

まだコントロールがまばらなので、高いレベルの打者だとボール1個分の制球力が求められると感じています。コントロールを磨いて、配球の引き出しを増やしたいです。

――今後の進路はどう考えていますか。

自分のなかではプロ一本で考えています。春休み中には「行きたい」と決めていました。ドラフトで指名されなければ、大学も考えます。

――最後に夏の大会に向けて抱負をお願いします。

チームとしては春の大会で県大会にも出られなくて(地区予選敗退)、一番下まで落ちました。3年生を中心に這い上がってやろうと思っています。強豪チームと練習試合をするなかで抑えられる試合も増えているので、その力を大会でも発揮したいです。(取材・菊地高弘/写真・編集部)