【武相】豊田圭史監督|グラウンドの中では「昭和」、外では「令和」
29歳の若さで富士大の監督に就任し、リーグ戦では10連覇を達成するなど全国でもトップレベルの強豪に押し上げた豊田圭史監督。2020年8月には母校である武相高校の監督に就任し、2024年春は県大会優勝という成果も出している。そんな豊田監督に高校の指導者となった経緯、大学と高校の違い、現在意識して取り組んでいることなどを聞いた。
『ROOKIES』状態からのスタート
豊田監督が武相の監督に就任したのは2020年8月のことである。大学野球で結果を残し続けていただけに、このことは神奈川県内野球関係者の間で大きな話題となったが、その経緯はどういったものだったのだろうか。
「2020年にちょうどコロナが広まる直前で、いつもは沖縄でキャンプをやっていたのが変更になって、神奈川の横須賀でキャンプをやることになりました。その時に1日球場が使えない日があって、武相のグラウンドをお借りしたんですね。その時に理事長と校長に挨拶をして、武相のOBですという話をしたら、当時の西原(忠善)監督が夏に退任することが決まっていて、指導者を探しているから『どうだ?』という話をされました。さすがに急だったので迷いましたが、実家が神奈川で自営業をしているので、いつかは帰らないという思いもあって、4月半ばにはやりますと返事をさせてもらいました」
武相は夏の甲子園に4度出場し、その後もコンスタントに上位進出を果たしていたが、近年は県大会でも序盤で敗退することが多くなっていた。豊田監督の現役時代と比べてもチームは良くない意味で大きく変わっていたそうだ。
「最初に来た時は本当にマンガの『ROOKIES』みたいな状態でした。前任の西原監督の責任というわけではもちろんありません。少し前から退任が決まっていたそうで、学校側も環境を整えようとしていなかったというのが大きかったのだと思います。ボールもバットも転がっていて、グラウンドも整備されていない。部室もゴミだらけ。だから最初は毎日掃除、環境整備からスタートでした。もう目に見えるあらゆるところをきれいにする。あとはチーム全員が同じ方向を向くようにウォーミングアップとキャッチボール。その繰り返しばかりでした。野球の技術をどうするという以前の問題でしたね」
その言葉通り、豊田監督が就任直後の秋の神奈川県大会は横浜高校を相手に0対11で大敗。その後もなかなか結果を残せない日々が続いた。そんな中で豊田監督はどんなことを感じていたのだろうか。
「野球の技術面に取り組めるようになるまで2年かかりました。でも全員が同じ方向を向いて野球に取り組むためにも環境整備や挨拶、全員で全力で取り組むということは絶対に必要だと思っていたので、そこはぶれずに取り組みました。それは選手に対してだけではなくて、保護者に対してもそうです。うちは自宅から通っている選手も多いので、学校だけでなく家庭での取り組みも重要ですから」
ただ、大学野球に比べると高校野球の方がチームを統率してマネジメントするということはやりやすいと思ったという。
「人数はそこまで多くありませんし、甲子園に出るという分かりやすい目標もあります。これは大学野球を経験してきたことが大きかったと思います」
挨拶の練習から全員で取り組む昭和スタイル
近年は選手の自主性を重んじて全員が同じことをやるということに否定的な意見もあるが、豊田監督はあえて全員で決められたことに取り組むことを重視しているという。それにはこのような狙いがあるそうだ。
「挨拶の練習から全員で取り組みますし、練習でも1人でも手を抜いている選手がいたら全員でやり直します。ある意味、自主性ということがよく言われる今の時代には少ないスタイルだと思います。中学時代から技術もあって、能力も高くて、野球もよく知っている選手の集まりであれば、そこまでやらなくて良いのかもしれませんが、うちはそうではありませんから。だから全員で同じ方向を向くということをやりながらも、細かいプレーの部分も当然全員で学ぶようにしています。なぜ全力疾走するのか、なぜこういう連係プレーをするのか、そういうところも徹底してやります。チームによって色んなスタイルがあって良いと思いますし、うちはこういうスタイルだというのを選手に知ってもらうのも重要です。プレーもそうですし、スタンドの応援でも絶対に手を抜かないようにということは徹底して言っています。よく『どんな練習をしているんですか?』と聞きに来る指導者の方もいますけど、チームによって選手も環境も違うわけですから、他のチームを参考にするよりも、自分たちのチームに合ったスタイルを見つけていくことの方が大事だと思っています」
取材当日もグラウンドからは良い意味で緊張感が漂っており、すれ違う選手たちの全力の挨拶も強く印象に残った。これも豊田監督が就任してから築かれた武相のスタイルと言えるだろう。新しい監督が来て結果を残すとスカウティングに力を入れているという話題になることが多いが、豊田監督は「チームの練習がある時にスカウティングで欠席するということは絶対にしていません。今いる選手を常に最優先にしていますから」という。そんな取り組みで結果が出たことで、逆に力のある選手も武相を希望してくれるケースが出てきたそうだ。
SNSはどんどんやれ
最近では珍しい緊張感のあるチームという印象の武相だが、一方でグラウンド以外では今の時代に合った取り組みも必要だということを選手には伝えているという。
「グラウンドではある意味昭和っぽい感じがするかもしれませんが、一歩出たら令和ですから、選手にはそれに合ったことも重要だという話をして、SNSもどんどんやるように話しています。もちろん問題にならないようにはどのように使うかということも気をつけるように言っています。大学に行ってからSNSで失敗して退学、退部になったということがあったら困りますよね。そういうことは高校生の間からしっかり知っておいてもらいたいです。野球部のインスタグラムのアカウントも、自分が色んな人に武相を知ってもらいたいということでスタートして、コーチに運用してもらっています。あと練習やトレーニングについてももちろんフィジカル面をしっかり強化するようなことはやっています。全員が同じ方向を向くというやり方以外は、きちんと現代の流れをしっかりつかんでいるつもりです」
選手たちの体つきを見てもよく鍛えられていることが分かり、効率的なトレーニングを行っている証拠のように見えた。全員で同じ方向を向きながらも、新しいものはしっかり取り入れる。そんなスタイルで武相が甲子園を席巻することも十分に期待できるのではないだろうか。そんなことを強く感じた豊田監督の話と武相の練習風景だった。(取材:西尾典文/写真:編集部)
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