千葉ジェッツふなばし広報・三浦一世が語る、ファンを魅了する箱推し戦略のすべて

スポーツチームの職員や企業でスポーツ関連の業務に携わっている方などを対象に、その職へ就くまでの経緯や仕事に対する思い、そして学生時代に取り組んでいて役に立った経験などを伺い、スポーツ業界を目指す方へ有益な情報を発信していく企画『スポーツ業界の本音とリアル』。

Bリーグ・千葉ジェッツふなばし チームブランディング部(2025年7月より社内体制変更で広報部に名称変更)部長の三浦一世さんは、2016年に千葉ジェッツへ入社すると、広報担当としてSNS戦略を一新。ファンの間では“イケメン広報”としても知られ、現在はチーム広報全般を統括しています。

今回は、コピーライターから未経験でスポーツ業界へ飛び込んだ理由、1人広報時代のエピソード、さらには千葉ジェッツの“箱推し”戦略についても伺いました。

コピーライターから未経験でスポーツ業界へ

ーまずは、千葉ジェッツふなばしの広報になるまでの経緯をお伺いしてもよろしいですか?

制作会社や代理店など広告畑で、コピーライターをメインで仕事をしていました。前職の制作会社から転職を考えていたときに、たまたま千葉ジェッツの広報募集という求人が載っていたんです。私自身ずっとバスケをやっていたので、これは何かの思し召しかもしれないな、と。

そこで一社だけ応募して、(選考に)落ちたら前職に残るつもりでいました。面接では当時の島田慎二社長と話が合って、その場で「君、採用するから」と握手をされました。

ー応募をした時点で、受かったら絶対に行こうと考えていたということですよね。

そうですね。ただ、どちらかというとバスケットボールは観るよりもプレーする方が好きで、Bリーグが開幕した頃も千葉ジェッツのことを知らなかったんです。

広報の募集で見たときに、知らない商品を知ってもらう広告の仕事と近いと感じて、思い切って飛び込んだ感じですね。発信を通してチームを多くの人に知ってもらって、楽しんでもらう仕事が、自分に合うんじゃないかと思いました。

ー島田さんとの面接を終えて、すぐに現場に入ったのですか?

すごい早さでしたね。ちょうど前任の方が退職するので、急遽広報のポジションが欲しいというタイミングだったようです。しかも、Bリーグ開幕を控えていて、引き継ぎもなくいきなり現場だったので本当に大変でした。

ーそれは大変ですね……入社してから何ヶ月で開幕戦だったのですか?

入社した日が開幕戦です。本来の入社は10月1日からだったのですが、9月25、26日くらいに試合があって、そこから手伝いに行きました。朝7時くらいに開場前のアリーナに着いたのですが、当時の運営責任者に電話をしたら「開いている入口から入ってきてください」みたいな。

試合当日は特にバタバタしているので、新しい人が入ってきても育てる余裕はなかったと思います。もうやるしかなかったので、そういう意味では仕事を覚えるのは本当に早かったですね。

ーその時から広報はお一人だったんですよね。最初のお仕事は覚えていらっしゃいますか?

試合会場でのメディア受付ですね。メディアの方は(私が各メディアの方を)知っているつもりでいらっしゃるのですが、私は知らなかったので「はじめまして」と言うと、「え、なんで知らないの?」みたいな感じになってしまうこともありました。

試合中にスタッツをメディアの方に配るスタッツランという仕事があるのですが、インカムで「三浦さん、スタッツランやってますか?」とか言われて、「え、スタッツランってなんですか?」って聞いたら、「あ、もういいです!」みたいな感じで切られてしまって……もう汗だくでした(笑)

ーしかもBリーグの開幕戦となると、相当の人数が来場されたはずですよね。

メディアの数も多かったですし、お客さんもほぼ満員で4,000人以上だったと思います。バタバタで終わって、人によっては「もうダメだ」と思ってもおかしくないくらいの状況だったと思います。

ただ、試合後に裏導線でたまたま前から歩いてきたマスク・ド・オッチーとグータッチをしたときに、部活をやっていた頃のアツい想いが込み上げてきて「やるぞ、頑張るぞ」というスイッチが入ったんです。彼には感謝しています。

そこからスタートして、SNSの発信や取材調整などをするようになりました。最初の頃はメディアの方に「どういうふうにしたらやりやすいですか?」と聞くようにしていましたね。分からないことが多いので、恥を忍んでも聞くしかなかったです。

ー当時からSNS発信も担当されていたのですね。

島田からも完全に任されていて、かなり自由に私の裁量で運用していました。当初は硬い発信が多かったと思うのですが、ちょっと面白くないなと思って工夫をするようになりました。

ーなにか参考にされたアカウントなどはあったのでしょうか?

スポーツに限らず、SHARPさんやキングジムさんの発信などを見て、いわゆる中の人を感じさせる運用が面白いなと思いました。当時チームに在籍していた伊藤俊亮さんは、ツイ廃と呼ばれるくらいSNSの発信を積極的にしていたので、2人で話し合いながらやっていましたね。

Bリーグは開幕当時からSNSを活用していきましょうというスタイルでしたし、動画編集などもスマートフォンでやれる範囲でやっていました。

「選手のアイドル化」と「箱推し戦略」の重要性

ー現在の広報チームの体制にはどのようにして至ったのでしょうか?

結構長く私一人で担当していたのですが、業務量の増加に伴い二名体制となり、その後前任が転職するとなったタイミングで「社内で広報に向いていそうなスタッフって誰かいますか?」と聞かれて、現在の広報メンバーである芳賀と清野の名前を挙げました。

ーもともとお二人は違う部署に所属されていたのですね。

清野はファンクラブ担当、芳賀は島田(社長)の付き人として入社してから演出を担当するなどユーティリティプレーヤーとして活躍していました。

ースポーツチームで働くとなると、基本的には何でもやるというスタンスが必要ですね。

そうですね。これはできないかも……と思わずに、まずやれる人が合うと思いますね。

ーメンバーも増えて、三浦さんご自身はどういった業務をメインに担当されているのでしょうか?

現在は、チームブランディング部(2025年7月より社内体制変更で広報部に名称変更)の統括をしています。メディア対応やSNS運用を担当するメディアチームと、YouTubeやInstagramのリールなどを作る動画制作チームがあるのですが、その両方を見ています。広報といえば広報ですが、以前のように自分が手を動かして表向きに発信することは少なくなりました。

試合には行っていますが、取材現場も基本的に芳賀と清野が対応するようになりました。選手からは「三浦さん偉くなっちゃったから全然来ない」って、めちゃくちゃ言われます(笑)

実際に選手たちと触れ合うことができるのは、スポーツチームの中でも花形というか、もちろん楽しい仕事ではあるのですが、それを私が全部やってしまうとメンバーも経験を積めなくなってしまいます。組織としても、あの人がいないと成り立たない、という状況では困ってしまいますよね。

なので今は“補欠のキャプテン”というイメージです。試合には出ていないけど、導きはするよっていう。あくまで試合に出て活躍するエースは現場の最前線でやっているメンバーであるべきだと思っていて、私は後ろから「いいぞ!」と声を掛けるイメージですね。

ーたしかに、これまでは千葉ジェッツの発信=三浦さんというイメージはありましたね。

基本的にメッセージには返信をしたり、代表戦のときも荒ぶって投稿するなどのネタ投稿もしたり、それを続けてきたことで公式=私と認知していただきましたね。ただ、チームが今後ずっと続いていくことを考えると、あまりにもそういったイメージが強くなりすぎるのは良くないなとも考えました。

今のメンバーで運用するようになって、芳賀は『敏腕マネ』、清野は『新デシセーノ』とキャラ付けをして、だいぶ私のイメージは払拭されたのかなと思います。それでもコアなブースターの方からは「この投稿は三浦さんかな?」と言われることもありますし、やっぱりずっと見ている方からすると、文章のトンマナなどで分かるのでしょうね。

ー広報メンバーそれぞれに愛称がついているのは面白いですね。

多分Bリーグの中でも、ここまで広報が露出しているチームは無いのではないでしょうか。そこには、チームを箱推ししてほしいという思いもあるんです。

というのも、Bリーグは選手がアイドル化しやすい傾向があると感じていて。なので、選手が移籍すると、ファンも他のチームに移っていくというようなこともSNS上でよく見かけます。だからこそ、選手だけでなく、例えば「あのスタッフがいるから応援しよう」というような運営もセットで千葉ジェッツというクラブを推してくれるブースターを増やすために、選手以外も出していこうかなと。

ー先ほどもおっしゃっていましたが、広報は選手と直接関わることが多い仕事ですよね。選手を目の前にして緊張することはなかったですか?

やっぱり最初は「今は声をかけていいのかな…」と思うことはありました。練習後とかも疲れているだろうし、正直、大野さん怖いし……大野さん、すみません(笑)

そんな中、当時いた小野龍猛選手(現・京都ハンナリーズ)が溶け込むきっかけを作り続けてくれました。すごくイジってもらえたんですよ。イジってくれる選手が一人出てくると、周りの選手も「イジっていいんだ」ってなるじゃないですか。そこからこちらもイジり返して、みたいな形で(馴染んでいきました)。

あとは練習場にいる時間が長かったので、それが「三浦さんは本当にチームのことを何とかしようとしてくれているんだな」という信頼に繋がったとも思います。基本的には毎日練習場で写真や動画を撮ってSNSに投稿していたので、単純に接触時間が多かったとも思います。

ー毎日いるとカメラの練習にもなりますよね。

最初はスマホだったのですが、一年目の途中からちゃんとしたカメラを買いました。父親がデザイナーで写真を撮ることもあったので、(機材を)触らせてもらうこともありカメラは好きでした。自分のカメラの方が扱いが気楽な部分もあるので、最初は自分で買いました。

ーファンの方も試合会場などではすごく良いカメラで撮影されていますよね。その写真を見て、学ぶことも多いのではないですか?

オフィシャルのカメラマンくらいの機材で撮られる方がたくさんいますよね。この人は上手いなって思うことはたくさんありますね。

ー今でも撮影を担当することはあるのでしょうか?

基本的にレギュラーシーズンはアウェーにオフィシャルのカメラマンは帯同していないので、遠征についていく時は撮っています。今は広報用のカメラも買って芳賀や清野も使えるようになりましたし、動画班にも新しいスタッフが入って編集の幅も広がったのでので試合によっては動画専任で撮影したりもしています。

だいぶ体制が整ってきましたけど、当時は一人でよくやっていたなという感じです。あの当時に戻って同じことをやれと言われても、できる気がしないですね(笑)

広報は選手のファンになってはいけない

ー広報としてもやれることはたくさんあると思いますが、その一方でリソースも限られています。入社当時はどのように取捨選択をしていたのでしょうか?

Twitter(X)は、投稿すればするほど拡散されてフォロワー獲得に繋がりますし、「千葉ジェッツは面白い投稿をしているな」と思ってもらえるように、投稿数を増やすことを優先していました。

ー他のチームとは比較にならないほど投稿していましたよね。

投稿数では、特にジェッツと(宇都宮)ブレックスさんが多かったと思います。ブレックスさんには歴の長い広報の方がいらっしゃるので、投稿を参考にさせていただくこともありました。

ーコロナ禍などリーグ全体でYouTubeが流行った時期もありました。

YouTubeについては、私の入社前から運用をお任せしていた制作会社の方と相談をしながら、シーズンで何本公開するなどの決まりのなかで、取材や企画の調整を進めました。

ー入社当時と比べて体制も整ってきたなかで、今後はどのような広報戦略を考えていらっしゃいますか?

会社の規模も大きくなってきて、リーグ最多のフォロワー数を獲得できている媒体も増えてきました。しかし、まだ他のチームに及ばない部分もあるので、基本的にはフォロワーを増やすための企画を中心に取り組んでいます。

ーSNSも媒体ごとに性質が異なりますが、使い分けなど意識はされているのでしょうか?

Instagramは、女性が多く見てくださっている傾向がありますね。あとはリールが新規層に届きやすいので、YouTubeショートも含めて動画コンテンツには力を入れています。

Xは、どんどん投稿できて拡散もされますし、リンクを添付してニュースを出す場合にも適しています。瀬川琉久選手など高校バスケで活躍した人気の選手が加入したら、まだBリーグを見ていない層に届けられる形で出していこうとか。

あと、どのクラブの広報の方も思っているはずですが、炎上しないかな……ということは考えますね。

ー選手個人のSNSでも炎上のリスクはあると思いますが、選手に注意などはしているのですか?

シーズンの最初に資料をまとめて「こういったことは気をつけてね」と伝えています。あくまでもSNSは個人のものではありますが、プロスポーツ選手として出してはいけないものってあるじゃないですか。公序良俗に反する内容や差別的な発言はもちろんよくないですし、政治や宗教についてもあまり発信するべきではなかったり、あとはスポンサーに競合するような内容も避けなければいけません。

ー選手からもSNSの使い方を相談されることもあるんですか?

「これは出しても大丈夫ですか?」と聞かれたり、誹謗中傷をされて悩んでいる選手から相談をされたりすることもあります。たまに誹謗中傷に対して「言い返してもいいですかね?」という気の強い選手もいるのですが、そこは同じ土俵に立つのではなく、ちゃんとした方法で対応していこうと伝えています。何かあった時に相談してもらえるような関係性を築くことは大切かもしれないですね。

ーまた大きなトピックとして、新アリーナ(LaLa arena TOKYO-BAY)が完成しましたが、広報目線で何か変化は感じていらっしゃいますか?

やっぱり感動しました。あれだけの広いアリーナで、もちろん施設も綺麗ですし、天井から吊ったビジョンやリボンビジョンができるだけでバスケ感があるというか、これはすごいなと。ここまでバスケも来たか、という感慨深さがありました。南船橋駅から徒歩で行けますし、電車から見えるのも良いですよね。

一方で、以前より収容可能人数が増えたので、正直集客は大変です。これまで本拠地としていた船橋アリーナが満員になっていた背景には、広報や営業、チケットチームによる各所への声掛けがありました。

新アリーナになったとしても、「広報がチケットが残っていますよ」と発信する前に売り切れるような状態が理想です(※)。これからもまずは会場に行ってみたい、と思ってもらえるきっかけづくりをしていきたいと思います。

※船橋アリーナの収容可能人数 約5,000人に対して、LaLa arena TOKYO-BAY は約10,000人の収容が可能。2024-25 レギュラーシーズンのホームゲームでは合計295,416名(平均9,847名/前年比212%増)を動員し、Bリーグクラブにおけるレギュラーシーズン年間総入場者数、クラブ史上年間総入場者数を更新した。

ー船橋アリーナのときから、お客さんとの距離が近くて、応援の圧がすごい印象がありました。そういったレガシーが受け継がれている部分もありますか?

基本的にお客さんとの距離はどのスポーツよりも近いんじゃないかと思います。ただお客さんの数が増えたから声が倍になったかというと、そうではないのかなと。

新規の方も多いので、まだ声を出すのが恥ずかしいとか、どの場面で声を出していいのかが分からないということもあります。あとは音楽ライブ向けにも作られているので、吸音素材がしっかりしていると聞きました。なので同じくらい声が出ていても吸収されてしまうこともあるそうです。

しかし、ホーム側のエンドは客席の上までジェッツレッドで埋め尽くされていますし、試合展開が接戦になったときは、すごく上から声が降ってくるような感覚があります。ぜひ一度観に来ていただきたいですね。

ー渡邊雄太選手や、若手だと瀬川琉久選手など、日本を代表する選手が多く所属するチームですが、その中ですべての選手に注目がいくような『箱推し』の工夫などはされていますか?

(特定の選手に)偏らないようにバランスは考えるようにしています。ブースターの皆さんそれぞれに推している選手がいますし、選手も人間なので「なんであいつばかり取り上げられているんだ」と思うことがあるかもしれません。

普段から練習の様子などを見ているなかで、この選手の活躍は取り上げたいなと思うこともありますし、あまり表からは見えない裏側の部分も拾い上げていくようにしています。

ーここまで広報の仕事について、たくさんお聞きすることができました。最後に、Bリーグで働きたいと思っている方に向けてのアドバイスをいただけますか?

私はたまたま転職サイトで見かけたことがきっかけですが、実際は横の繋がりで採用されることも多い業界でもあります。なので、まずはどのクラブでも、どの職種でも良いから飛び込んでみるのは大事かなと思います。

広くスポーツ業界や、メディアでも良いかもしれません。あるいは動画制作のスキルを学んで、フリーでチームから受注するなど。まず繋がりを掴みにいくのは、Bリーグで働きたい人にとってはきっかけになるのではないでしょうか。

人によってはカテゴリーを気にする方もいらっしゃるかと思いますが、どこでも良いと思います。Bリーグが開幕した頃は、千葉ジェッツも今のB2クラブより少ないくらいのスタッフでやっていた時代もありました。大変ではありますが、充実感を味わえるのではないかなと思います。

そして広報を目指したい人は、選手の完全な「ファン」になってしまうとやりづらいのかなと。選手を愛することやファン目線を持つことは大切なのですが、「ファンの皆さんはこれを知りたいんでしょ?」とある種客観的に考えられる人が向いているのかなと思います。

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