【侍ジャパンU-12高橋コーチ】子どもたちに足りなかった「2つ」のこと
8月に台湾で行われた「第10回 BFA U12アジア選手権」。その大会に日本代表として臨んだ侍ジャパンU-12に元プロの監督、コーチに混じって一般の少年野球チームからただ1人コーチとして選ばれたのが小金原ビクトリー(千葉県松戸市)の高橋雄太監督だ。どういった経緯で侍ジャパンのコーチを務めることになったのか、代表チームを指導してみて思ったこと、感じたことなどお話を伺った。
「貪欲な姿勢」評価されコーチに就任
――まず、高橋さんが侍ジャパンのコーチに就任した経緯について教えてください。
高橋:初めは野球指導員という資格を取得したんですね。取得した理由はまず自分がしっかりと資格を取らないと子ども達を指導できないと思ったからです。この資格を持っている方が全国に200人くらいいるのですが、私が住んでいる千葉県は資格取得者が自分一人だけなんだそうです。そうしたら全日本軟式野球連盟からハガキが来たんです。「侍ジャパンU-12のコーチ選考に応募できる資格があります」という。それでまずは論文を出しました。どういうことを日頃の指導では注意しているとか、どういう練習メニューを組んでいるかといった内容です。そこから最終選考8人に選ばれまして、そして最終的に仁志敏久監督と面談をして合格したというのが就任までの流れになります。
ーー高橋さんのどのような点が評価されたと思いますか?
高橋:今回も監督は仁志さんでピッチングコーチは元ヤクルトで活躍された河端龍さん。毎回元プロの方ばかりが監督、コーチをされていましたので、正直なところ私も選ばれた理由がよくわかりませんでした。仁志監督からは「何かを学んでやろう」「何かを盗んでやろう」という貪欲な姿勢を評価したと言われましたが(笑)。最終選考に残っていた他の方々がすごい方ばかりで、自分は無理かなと思っていたのですが、そんな形で選ばれることになりました。
ーー高橋さんはチームでは何のコーチ担当されたのでしょうか?
高橋:ヘッドコーチです。作戦面とメンバーの相談、ピッチャー以外のその他すべてですね。
ーー選手の選考についてはどのような点を重視されたのでしょうか?
高橋:送られてきた映像などを見て、私と仁志監督、河端コーチでそれぞれ見て、何週間後に集まって選考していきました。その中で今回メンバーに選ばれた子ども達は総じてみんなバランスのいい子たちでした。投げるにしてもしっかり投げる、打つにしてもバランスよく強く振れるという子が選ばれましたね。
ーー守備はダメだけど打撃はすごくいいとか、そういうことではなく打つ、投げる、走るのトータルのバランスが良かった子が選ばれたということでしょうか?
高橋:そうですね。
ーーバランスを重視した選考になった理由は?
高橋:あらかじめピッチャーは何人、内野は何人ということも考えて選考をしていたのですが、少年野球はピッチャーをやっている子はどのポジションもできるしバランスもいい。センスのある子がピッチャーをするという考えもありました。ですので、結果的に選ばれた選手は所属チームでピッチャーをやっている子が多くなりました。
ーー選考にあたって子どもの体のサイズは気になりましたか?
高橋:そうですね。でも体が大きい子を選ぼうとかいうことではなく、体が大きくてもしっかり体を使えている子ですね。
足りなかった「自分で考えること」と「野球が好き」な気持ち
ーー小学生年代の全国トップクラスの子ども達が集まっていたわけですが、そんな子ども達を見ていて共通していることなどはありましたか?
高橋:いい選手ばかりなんですけど、普段の所属チームで「自分で考える」ということをあまりやっていないのではないかと思いました。
また、本当に野球が好きなんだなとは残念ながら思えなかったですね。どうしても自分のチーム(小金原ビクトリー)の子たちと比べてしまうのですけども、技量はもちろん侍ジャパンで集まった子たちの方が全然上なのですが、でも自分のチームの子たちの方が野球を楽しんでいるなと思いましたね。
そのあたりのことは仁志監督も気になっていたようで、「高橋さんのチームと比べてどう思う? 正直に教えて欲しい」と言われて、私も正直にそのように答えました。自分で考える、自分から発信するというところを技量同様にこれから磨いていってほしいなと思いました。
――小学生年代では勝利を第一に掲げる「勝利第一主義」の指導に疑問の声が出ることも多いですが、こういった国際大会では「勝利第一」で臨まれたのでしょうか?
高橋:もちろん勝ちに行く試合、勝ちに行く大会なのですが、仁志監督が本当に素晴らしい方で、子ども達に対しては目の前の試合に勝つことと同様に、これからのこと、この先のことについてもずっと伝えられていました。勝つことはもちろん大事なんですけど、子ども達が常に「自分で考える」ということをすごく重視されていました。私もヘッドコーチとして携わらせていただいてものすごく勉強になりました。
――結果的に3位で大会を終了しましたが、その結果については子どもたちはどのように受け止めていましたか?
高橋:最近の子どもたちはみんなそうなのかもしれないのですが、(スーパーラウンド初戦の)韓国戦に負けた後もわりとサラっとしていて(笑)。
試合後には毎回ホテルでミーティングをしていて私が子どもたちに話をしていました。その席で仁志監督からの訓示のようなことも毎回伝えていたのですが、さすがに韓国戦のあとは少しきついことを言いました。
「君たちは何人から選ばれてここにいるの? ユニフォームの胸には何がついているの? 代表に選ばれずに悔し涙を流している子たちもいるんだよ? それを『負けました。ははは』ですましていいの? 悔しい気持ちも大事だし、悔しかったらそれを表現しようよ。負けたことから逃げていたら成長しないよ」
というようなことを話しました。どれだけ響いたのはか分かりませんが。所属チームの方針や親御さんの考えと違っていたら、子ども達もなかなか耳を傾けにくいというのはあるかもしれませんね。
――最後に代表チームのコーチを経験してみた上で、野球少年のお父さん、お母さんに何かメッセージをお願いします。
高橋:6年生にもなると子ども達の中にも自立したいという心があると思います。お父さん、お母さんには子どもに干渉しすぎずに、グラウンドの中のことは指導者や専門家に任せる、答えがわかっていても子ども達にまず考えさせる。そのようにして子ども達の成長を促してほしいと思いますね。(取材:永松欣也、写真:本人提供)