ようこそ、株式会社NPB(日本プロ野球)へ 【第1回 球界の人事部:東京ヤクルトスワローズ、埼玉西武ライオンズ】

 去る、2018年10月25日、支配下登録選手、育成選手を含めて104名のプロ野球選手が誕生。“次世代のスター”を求める世間の熱気は冷めることはない。その誕生を現場で見届ける人々の熱気は年々増していくばかりのようにさえも感じる。

がしかし、昨今、一昔前のスポ根の風潮、雰囲気の印象が根強く 「野球離れ」、「野球人気の低迷」など野球界は逆風にさらされているのも また事実なのだ。

 そこで今回は、その野球界を皆さんにより親しみを持って捉えてもらうべくこのドラフト会議を“株式会社NPB(日本プロ野球)という会社の選手配属先を決定する会議”と置き換えて話を進めようと思う。
「どのチーム(部署)がどういう特色があるのか?」
「その特色を今回のドラフト会議でどう反映してあるのか?」
「その部署(球団 )っぽい雰囲気に合致しているのか?」
という独自の切り口で今回のドラフト会議を中心に考察していこうと思う。

※ちなみにこの先の各球団の特徴、役割付けなどは筆者の超主観的な妄想であることも添えさせていただく。

 初回は、“球界の人事部”こと東京ヤクルトと西武ライオンズから見ていこう。

 まず、“株式会社NPB(日本プロ野球 )”として一番の大切にすべきは何と言っても観るものを惹きつけるプレーヤー(人材)であることは疑う余地もない。そして、その人材の成長こそが野球界の発展に寄与し、その逞しくなったプレーにプロ野球ファンは酔いしれる。この会社としての基本方針はもちろん、各球団ともに試行錯誤をしつつ、選手育成を通じてプロ野球発展のために心血を注いでいる。

その中でも、プロ野球ファンの中に一定層の存在するクラスターである“成長のそのものの過程を見守っていく”という両親的感情移入スタイル観戦者を、図らずも虜にしてしまう育成方針が透けて見えてくるのが前述した2つの球団の面白いところ。
そして、この2つの“人事部”の魅力を紐解くキーワードは【アットホーム】だ。

この育成方針と牧歌的な雰囲気こそが“プロ野球界の人事部”たる所以なのだ

特にそのアットホームさ加減といったら、日本プロ野球会の他の部署の追随を許さないのが東京ヤクルトスワローズ。
“地元”東京六大学から青木宣親を4位で指名、ミスタースワローズまで育て上げ、当初から決してアメリカ球団の評価が高くなかった青木のメジャー移籍を容認し、夢のメジャーリーグへ送り出す。そして、その経験を日本に戻った際にはヤクルト球団に呼び戻し、還元してもらう・・・。このヤクルトならではのフォローアップはまさに、人事育成システムと呼ぶにふさわしい。
(後述する埼玉西武もメジャー移籍の牧田を呼び戻す報道もあるがこの辺りもさすが、似てる。)

写真提供:共同通信社


例えるなら、一般社会において、有望株の新入社員が、海外支社勤め経験をし、グローバルな視野を手に入れて日本に帰ってくる・・と考えてもらうとその体制がいかに“日本らしく”アットホームな球団かをお分かりいただけるだろうか。

2018年のドラフト会議においてもその“採用戦略”が垣間見える 。

 一番人気の根尾昴(大阪桐蔭)は競合で外しながらも、そのあとは“地元”神宮の清水昇(国学院大)を1位、続く2位でも中山翔太(法政大)を指名と戦力としての期待はもちろんのこと“地元・神宮球場の選手”を上位に持ってくるあたりがヤクルトらしい。そして、4位には、濱田太貴(明豊高)を指名し、好奇心旺盛で大分から上京してくる18歳の若者をヤクルトなら安心して預けられる。また、明治安田生命から初のプロ野球選手誕生となった8位吉田大成も同社との“新たな就職ルート”を開拓するとともに、指名される側の関係者の夢も広がるヤクルトならではの“人肌のある指名”となった。

 そして一方、アットホームな雰囲気がありつつも、時に正攻法の“ザ・人事”的な採用戦略を見せるのがパ・リーグの人事部・埼玉西武ライオンズだ。

古くは情報戦を巧みにかいくぐり選手の獲得をするという球界の寝技師の異名もとった根本陸夫の“ドラフト外”での伊東勤獲得などトリッキーなドラフト戦略の歴史を持つが、昨今は、実に現場の状態に堅実な指名が上位で目立つ傾向にある。

今人気の“人材”を競合してまで取りに行くというよりは、“今時点においてのチームに必要な人材”として即戦力右腕・松本航をもはや“お家芸”の単独指名で一本釣りに成功、そして3位に堅実なプレーが信条の山野辺翔(三菱自動車岡崎)を獲得するあたりは抜け目ない補強でさすが、ザ・人事と唸らされた。

その一方で、地元埼玉地域密着採用の渡邊勇太朗(浦和学院)に富士大ルートのもはや指定校推薦枠に佐藤龍世(富士大)、そして、過去の実績や名門校の看板に惑わされない森脇亮介(セガサミー)、粟津凱士(東日本国際大)、中央球界での知名度などには牧野 翔矢(遊学館)。
まずは“自チームでしっかり育て上げ、その個々の成長が野球界全体の発展に繋がるのだ!”というような球界全体を見渡した人材育成の意思を感じ取れなくもない。

渡邊勇太朗(わたなべゆうたろう)
【写真提供:共同通信社】


 両球団ともに育った選手がみんなFAやポスティングでいなくなりがちなのも人事部たる 所以なのかもしれないが、生き馬の目を抜くプロ野球という実力世界においてこの2つのアットホームな部署はどこか応援したくなる魅力が漂う。
ファンの方々もまた、親しみやすい人たちが多い印象を個人的には持っている。野球に興味はあるけど、どの球団に注目すればいいのかわからない?というエントリーの野球ファンの方にもオススメの球団である。

 次回は、株式会社NPB(日本プロ野球)の屋台骨であり花形部署の一つである営業本部【読売ジャイアンツと阪神タイガース】を見ていこう。

第2回「営業本部編」はこちら

文・キヅカキラ氏(@KZSK)