【益田東】結束力で甲子園へ!全員で培う人づくりが誇り
100回記念大会出場校中3番目に多い138人の部員数が誇りだ。18年ぶり4度目の甲子園出場を果たした益田東は、選手投票による4軍制を取り入れ、レギュラーと控え選手が切磋琢磨し強くなった。選手たちは自信をもって言う。「寮生活で培った結束力だけは、どこにも負けない」と。
人気メニューはチキンカレー、親子丼、唐揚げ

1981年生まれ。大阪府出身。益田東から大阪体育大へ進学。リーグ優勝7度。大学卒業後、2004年に母校の監督就任。島根県の高野連強化委員も務める。保健体育教諭。
「いただきます!」
食堂に元気イッパイの声が響いた。その数は総勢138人。全生徒318人の半数近くを占める野球部は、この大所帯で寮生活を送り、野球の練習に励んでいる。
「昼は僕も生徒たちと一緒に食事をとります。一人一人の顔を見ていると、毎日の変化に気づくんですよ。この選手は今日元気ないな。何か悩んでいるのかな、と」。
まるで自分の家族の話をするような顔で話すのは、大庭敏文監督(37)だ。22歳で母校の監督になり、今年で15年になる。自分のときは40人程度だった野球部が、今や毎年100人を超える規模になった。それでも大庭監督は選手全員の顔と、名前と、個性を把握している。今夏、監督になって初めて自分を甲子園に連れて行ってくれた選手たちを父親のような目で見つめながら、美味しそうにご飯を頬張っていた。
選手たちは2年前に完成した綺麗な食堂で、毎日3食をお腹いっぱい食べることができる。ご飯は、4升の炊飯ジャーが5個並ぶ150人分。夜は20時まで利用できるため、練習を終えたあとも温かい食事をとることができる。

管理栄養士の深川安栄さんは「この寮には柔道、陸上、サッカー、そして女子選手もいますので、アスリートに適した献立を毎日考えて提供しています。入寮したてのころは、食が進まず苦労する選手もいますが、しだいに慣れ、目標体重に合わせてご飯を何杯もお替りする選手が多くなりますね。食べる速さも速くなっていきますが、ここでは無理に急かすようなことはしません。野菜と魚が苦手な生徒が多いですが、野球部はいつも残さず、綺麗に食べてくれ、お礼や挨拶もしっかりしているので作り甲斐がありますね」と話す。
選手に聞いた人気メニューは、
1位チキンカレー(トマトの隠し味が特徴)
2位親子丼(フワッとした卵が好評)
3位鶏の唐揚げ(白ワインとニンニクの風味が人気)
とのこと。寮の食事のお陰で、好き嫌いが改善される選手も多い。まさに“同じ釜のメシ”効果。高校時代に集団生活を経験することで、規則正しい生活が身につくことはもちろん、社会に出てから必要な協調性、多様性、人との接し方、仲間意識などが育まれる。県外の選手が大半であるが、この点に惹かれて入学を希望する保護者が多いことも特徴的だ。
管理栄養士の食事チェック
写真は取材日のお昼ご飯。寮での食事時には100%のオレンジジュースと牛乳が飲み放題。各自で栄養を補うために専門家のアドバイスを参考にする選手も。
益田東の写真は昼食ですね。レンコンたっぷりのきんぴらは、脚がつるのを防ぐ効果があります。一緒に入っているお肉のサポートも受けて、午後からの練習も頑張れますね。
島根は39校だが、簡単に甲子園には行けない
寝食をともにしたからこそ磨かれる一体感。それは野球にも生かされる。大庭監督は「人数は多いほうがいい」と言い切る。その根拠を熱く説明した。
「同じ声を出すにも、1の力より、10の力の方が大きい。そして一人の個性が集合体になったとき、膨大な力を生むんです。一人一人の能力を確立させるために、ウチは全員が同じ練習を同じ量行います。上手い選手の練習時間が減っても、これがウチのスタイルです。一人一人に目を向け『みんなで』という言葉をどこよりも大切にしているのが自慢です」。
副キャプテンでサードコーチャーの乾颯汰選手(3年)は益田東の強さのルーツを「一つのことに一丸となる力の大きさだと思います」と言う。「島根は39校しかないけれど、簡単に甲子園に行けるわけではありません。秋に開星に負けたとき、キャプテンの荻野(竜志)と徹底的に話し合いました。慣れ合いをやめて、全員で同じ目標に向かったから、夏、開星に勝つことができたのです」。


練習試合は、138人の選手を4軍に分けて行う。呼び名もユニークで、1軍はヤンキース(メジャー球団名)、2、3軍はジャイアンツ、タイガース(プロ野球団名)、4軍はルーキーズ(1年生主体)。外部コーチ合わせて計9人の指導者が付き、多い時は1日4カ所に分かれて試合を行う。結果で昇格する“メジャースタイル”のやり方だ。4軍の振り分けは、ポイント制の総選挙。選手一人一人が投票をしていき「選ばれた仲間」が公式戦のユニホームを着るという仕組み。「選ぶ責任」と「全員野球」のこだわりが表れている。
練習はメリハリをつけて行う。グラウンドの横に「甲子園坂」と呼ばれる心臓破りの急な坂があり、この坂をダッシュで10往復するのが名物練習だ。入学時から球速が35キロアップしたエース和田晃成投手(3年)も、この練習で下半身が強くなった。時代が変わり、大庭監督が経験してきたような「猛練習」はなくなったが、年末だけは近くの山や海岸を「3日間で計100キロ」走り、1年を締めくくることになっている。達成感と結束力がつく益田東の伝統的な恒例練習だ。
耳の聞こえない部員のため全員が指文字を覚えた

今夏、甲子園出場を果たした3年生が中3のころ、益田東野球部に耳の聞こえない選手が入部を希望してきた。障害のある選手を受け入れたことのない大庭監督は「どうやってコミュニケーションを取ったらいいのだろう?」と考え、必死に指文字を覚えた。
驚いたのはここからだ。周りの選手たちも「自分たちも」と指文字を覚え、最後は81人全員“会話”ができるようになる。耳の聞こえないその選手は、最後の夏、エースとしてマウンドに立つまでの野球選手となった――。

人としての思いやりや、仲間を受け入れる心。今の3年生たちはその教えを益田東で学ぶため、全国から集まった世代だ。
「甲子園に出ることを1番に求めるなら、ウチには来ないほうがいいと思う。もっと野球が上手な指導者はおるし、勝てる監督がいると思う。ただ…。人を育てるということには自信があります。夏の甲子園のアルプススタンドを見たときにね、OBとファンでぎっしり埋まっていたんですよ。また行きたい場所ですね」。
次の夢は創部初の「甲子園1勝」。大阪出身の大庭監督が、過疎の町で人を育て続けて15年。咲かせた花は、喜びと愛情にあふれた色をしていた。
甲子園の思い出



甲子園1回戦・常葉菊川戦は7-8で敗れたが、5点ビハインドから集中打で勝ち越しする意地を見せた。「甲子園って良い所だな」。甲子園練習でスコアボードを見つめた選手たち。スタンドもベンチも一体となって、憧れだった聖地を存分に楽しんだ。
益田東高校DATE
所在地:島根県益田市染羽町1-24
学校設立:1978年
直近の戦績:
2018年夏・県大会優勝 全国高校野球選手権1回戦
2018年春・県大会1回戦
2017年秋・県大会3位
(文・写真:食トレマガジン#7より)