【小金原ビクトリー】「楽しさ」聞きつけ部員が増える学童軟式野球チーム
この夏に台湾で行われた「第10回 BFA U12アジア選手権」。そこに参加した侍ジャパン U-12に一般の少年野球チームから唯一コーチ(ヘッドコーチ)に選ばれた高橋雄太さんが指揮をとる軟式少年野球チームが千葉県の松戸市にある小金原ビクトリーだ。侍ジャパンのコーチはどんな指導方針で、どんな練習を行っているのか? 練習が行われている小学校のグラウンドに足を運んでみた。
大切にしている自分で考えること、野球を楽しむこと
取材に伺ったのは10月のとある日曜の午後。この日は午前中に大会の準決勝を戦い、残念ながら負けてしまったあとの練習だった。それでも子どもたちは白い歯をのぞかせながら、楽しそうに練習に取り組んでいた。
チームの部員数は40人(この日は4年生以下の子どもたちは別の場所で練習)。幼稚園から入団も可能で最近は女子部員も増えているという。現在、少子化のスピードを上回るスピードで少年野球人口が減少していると言われているが、
「この半年でうちのチームは部員が8人増えました。それも大会もほとんど残ってないのに6年生が3人入って来てくれて。それはうちのチームの子ども達が学校などで『野球、楽しいよ』って勧めてくれたからなのだと思います。子どもは正直ですから自分が本当に楽しいと思っていないことを友達に勧めないですからね」
と高橋監督は小金原ビクトリーの楽しい野球に自信を持つ。

今年で50周年を迎える歴史のあるチームだが、高橋監督が指揮を取り始めてまだ1年。元々、松戸市の色んな少年野球チームを見ていて「子どもたちが楽しそうに野球をやっていない」と感じていたという。「こんな指導でいいのだろうか?」と少年野球の指導のあり方に疑問を感じていた時、小金原ビクトリーの指導者が急にチームを離れることになった。そして半ば父兄たちに請われる形でこのチームを引き継ぐことになった。
突然の監督就任。高橋監督がまず取り掛かったことは、子どもたちが「自分で考える」こと、そして「野球を楽しむ」という2つのこと。
そのことが着実にチームに根付いていると感じられる場面が練習の中でいくつかあった。
例えば、6年生と5年生に分かれて行われた紅白戦。打順もポジションも作戦もすべて子どもたちに考えさせて行われ、大人たちは時折、声をかけたり、アドバイスはするものの基本的には見守るだけであった。

また、ノックではノッカーを務めるコーチが思うようにフライをあげられないでいると、守っている選手たちから「ノッカー!ボール来ないよー!」と笑顔でやじる声がグラウンドのあちこちから挙がった。エラーをした選手も落ち込むどころか、笑顔で「できる!できる!できる!」と大声で叫び自分を鼓舞する。これは大人が強制しているのではなく子どもたちが率先して始めたことなのだそうだ。

適宜とられていた休憩時間でも、子どもたちは休憩もそこそこにグランウドに出てきてミニゲームのような遊びを始める。その様子はみんな早く野球がやりたくてうずうずしているようで、見ている側にも「野球が好き!」「野球が楽しい!」という子どもたちの思いが伝わってきた。
「勝利第一主義」は100%いらない

高橋監督は「楽しんで、楽しんで、やらせた先に勝つという結果が出る」という信念を持っている。
しかし、「勝つ」ことと「楽しむ」ことの両立はなかなか難しい。特に小学生の野球では厳しい指導と勝つための戦術を徹底するいわゆる「勝利第一主義」のチームが結果を残すことが多い。それを批判する声もあるが、勝つことへの執念が育まれることや成功体験を積むことができるといったメリットを挙げる声もある。そのことについて高橋監督に話を伺ってみると答えは明確だった。
「私は偏っていますけど、少年野球の現場に『勝利第一主義』は100%いらないと思っています。『勝利第一主義』は子ども達が勝つことの執念を育むことができる反面、それ以上に指導者、大人たちの方が執念が出てしまうことが多い。そうすると子ども達の体に無理をさせて試合に使ったり、気持ちが入りすぎてしまってキツイ言葉を使ってしまうということが起こりやすい。ですので、私は『楽しんで、楽しんで、やらせた先に勝つという結果が出る』という信念を持って、今このチームでやっているところです」
(取材、文・写真:永松欣也)
*後編「子どもに『失敗する権利』をたくさんあげる指導」に続きます。