【小金原ビクトリー】子どもに「失敗する権利」をたくさんあげる指導

この夏に台湾で行われた「第10回 BFA U12アジア選手権」。そこに参加した侍ジャパン U-12に一般の少年野球チームから唯一コーチ(ヘッドコーチ)に選ばれた高橋雄太さんが指揮をとる軟式少年野球チームが千葉県の松戸市にある小金原ビクトリーだ。侍ジャパンのコーチはどんな指導方針で、どのような練習が行われている小学校のグラウンドに足を運んでみた。

目先の勝利よりも大切にしたい、子どもたちの「この先」

チームを預かった当初、子どもたちは大人の顔色を伺って試合ではカチンコチンだったという。「いっぱい失敗していいよ」と言い続けたが、「そうは言ってもどうせ失敗したら怒るんでしょ?」と子ども達もなかなか素直には受け入れてくれなかった。しかし、「子どもに失敗する権利をたくさんあげる」というテーマを持ち、根気強く接するうちに、少しずつ試合でも初球から積極的に振れるようになってきた。

チームの変化を相手から教えてもらうこともあったという。この夏のある試合でのこと。選手が四球で一塁へ歩く時、打者はバットを地面に置かずにベンチの選手が素早く引き取りに行く。そして引き取ったバットをベンチからさらにもう一人が引き取りに行くという「バットリレー」で素早くバットケースに戻す。
さらに相手キャッチャーがマスクを落とした時は相手選手よりも早くマスクを拾いキャッチャーに渡す。いずれも子どもたちが考えて始めた行動だ。チームとしては当たり前の行動だったが、後日、対戦相手チームが所属する連盟のFacebookに「大人が注意指導している様子もなく子どもたちが自然に行っていたのがすごい」と子どもたちのその行動を賞賛する投稿が挙がっていたそうだ。
そのことを自慢げに話す高橋監督はとても嬉しそうだった。

そんな高橋監督は、子どもたちの現在と将来についてこう語っている。
「少年野球の現場で1年監督をやってみて、ロボットのように子どもたちを動かせば、そこそこ勝てると思っています。例えば送りバントの練習や走塁を徹底的にやらせて技術を磨くとか。そうすれば相手の守備がぐちゃぐちゃになりますから。
でも子どもたちが次のステージに行ったときのことを考えると『この子たちはどうなってしまうのだろう?』って考えるんです。そう考えた時に、いくら勝つ確率が高くなるからといっても、それはさせられないですよね。であれば、子どもたちが自分たちで考えらえるチーム作りをした方が、最終的に子どもたちも野球を長く続けられると思うんです。子どもたちも好きじゃないと野球を続けないですからね」

その信念はチームを預かって1年、形となって現れつつある。
「初めにこの子たちを見たときはとんでもない戦力だったんです。このメンバーで勝つことを求められたら堪らないなと思いました、正直。しかし、信念をもって取り組んだ結果、この子たちが12年ぶりとなる県大会に出たんです。それはもう感動しましたよ。個々じゃなくてみんなでやって。子どもはもちろん、父兄の皆さんも喜びはすごかったですね」


 
しかし、そんな高橋監督の信念やポリシーも、時に父兄からは「物足りない」と指摘されることもあるという。
「父兄の皆さんは『子どもたちをもっと怒ってほしい』と思っているようなんです。私も怒らないわけではありません。挨拶とか仲間のことを思わない行動をした時とかはめちゃくちゃ怒ります。でも野球の技術については全く怒りません。そこは子どもたちは分かってくれていると思っています」

子どもは失敗することが当たり前

子どもたちの失敗やミスに怒鳴り声をあげる指導者も未だに多い。そもそも少年野球の現場で失敗やミスに対して「大人が子どもを怒る」ことは必要なのだろうか? 

「指導者が一生懸命になる度合いと熱心さを履き違えていることが多いと思います。大人が一生懸命になることは大切な事だと思いますが、それでうまくいかなかったり、結果が出なかったときに子どものせいにしないでほしいんです。矢印は子どもではなくて常に大人に向けてほしいですね。
そもそも、子どもは失敗することが当たり前です。教えたこと、できていたことを次の週には忘れてしまうことなんてしょっちゅうです(笑)。でもそれに対して、指導者も根気強く同じテンションで100回でも言ってあげることがすごく大事だと思います。やっぱりどこかで感情が入ってしまうので、『この前も言っただろ!』になってしまうと思うのですが、そうではなく『またもう一回言うけど、このほうがいいよね』っていう、その口調とかも大切にしてほしいですね」

最後に「ヤキュイク」を見ていただいている親御さん、指導者に対してメッセージをお願いした。
「親御さんに対しては、もっと普段の子どもたちをたくさん見てほしいですね。具体的にいうと子どもたちの変化を見てほしいです。楽しそうにしているか? 痛そうにしてないか? 悔しい顔をしているかとか?
指導者には教えない我慢をしてほしいです。気持ちはわかるのですが、教えたがりが多いんです(笑)。そこを我慢して子どもたちに考えさせてほしいですね。大人が答えをわかっていても、子どもたちに考えさせて大人は待ってあげることが大切だと思います。
あとは『主役は子ども』ということですね。負けたときのミーティングとか長いチームが多いと思うんですけど、負けたら監督の責任だよっていう指導者が出てきてくれたら、もっといいなと思いますね」(取材・文、写真:永松欣也)