【小金原ビクトリー】練習で大切にしている「考える」「楽しむ」「思いやる」

小金原ビクトリー取材の最後は練習の様子を詳しくお伝えします。練習の最後に行われた紅白戦では「子どもたちが自分で考える」「野球を楽しむ」「仲間を思いやる」という、高橋監督が大切にしていることが凝縮されているようでした。

発言した子どもの意見を否定せず、まずは褒める

小金原ビクトリーの練習時間は土曜日は基本的に午前9時から11時くらいまでと短く、午前か午後に試合が行われることが多い日曜は、試合+4時間ほどとやや長い時間を取っている。平日練習は行ってこなかったが、最近になって子どもたちが「(平日も)練習したい!」と言いはじめたそうで、平日でも夕方からコーチが見守る中で「自主練習」が行われるようになったという。

土日以外は子どもたち各自で自主練習となっており、毎週何か課題を出しているそうだ。やれない課題ではなく簡単な課題を出すことがポイントだという。そうすることでゲームやスマホに走る時間を少しでも野球の練習に使ってもらうというのが狙いだ。その課題を土曜の練習の時に確認するそうだが、「ちゃんと課題をやって来たかどうかすぐにわかります。練習に来た時の顔色でわかります(笑)。後ろめたい感じで(笑)」なのだそうだ。

日曜の午後に練習がある場合は子どもたちに練習メニューを組ませることにしている。
「でも大体バッティング練習になります(笑)。『何がしたい?』ってきくと『バッティング!』っていうんで(笑)」

監督が日曜日にたっぷりと守備練習をさせたかったとしても、子どもたちがバッティングをしたいというのであれば、子どもたちの意見を尊重するのだという。
「子どもたちに考えさせることが大事ですから。あとは、今どきの子どもって考えたことを発言したことを発表することをとても恥ずかしがるんですね。だから指導者は何か発言した子どもに対しては「それいいよね」ってまず褒めてあげることが大事だと思いますね。そうすることで次も発言するようになりますから。発言に対して否定的なことを言ってしまうともうダメですね。次から発言しないですから」

発言した子どもの意見を否定せず、まずは褒めてあげるー
今どきの子どもたちと接する上で大人たちが意識しておく必要がありそうだ。

時間がかかっても子どもに考えさせる

練習のはじめのウォーミングアップとダウンにはSAMURAI JAPANで川島浩史トレーナーがやっていたことをチームに持ち帰り落とし込んでいる。
ただランニングをしてダッシュをするということではなく、笛の合図で前へダッシュ、バックで戻る。そのときに滑らないで膝を使ってしっかり止まることを意識させているという。バック一つをとっても目を切る半身のバックなど、外野の動きを意識した動きを取り入れている。このアップの動きは野球のどんな動きに役に立つのか? なぜ必要なのか? それらの意図も子どもたちに説明して行っている。また、週に一度は肩甲骨と股関節の柔軟性のチェックも行なっているという。

キャッチボールは1日1回。「肩、肘には生涯の耐用期限があると思っているのでなるべく少なく」というのが高橋監督の考えだ。なるべく少なく、というのは球数ではなく時間で10分くらいが目安。
「この子たちは野球が好きなので休憩時間も野球をやっているんですよ(笑)。そこでもいっぱい投げているので」と、練習としてのキャッチボールを少なくしている意図を説明してくれた。

この日行われていた2つのノックは少し変わっていた。1つは高橋監督が社会人野球時代に練習していた「間ノック」と呼ばれている練習だ。この練習の狙いは子どもたちのコミュニケーションと判断。ノッカーを務めるコーチが内野と外野の間にフライをあげる。そのボールに対して、内外野の子どもたちは自分が行くのか、相手を行かせるのか? それを考え、判断して、声を出して相手に伝える。また相手がボールを追いに行ったなら自分はカバーに入るという動きの確認にもなる。そして、カバーした選手はカバーで終わらずに相手にちゃんと指示を行う。

この「間ノック」は何度も繰り返し行われていたが、コーチの指示通りに子どもたちを動かすのではなく、どう動くかを考えるのはあくまでも子どもたちだ。
「『こうなったらこう動け』と子ども達に動きを叩き込むほうが簡単だと思います。でもそこは子どもたちに考えてもらいたいところですので、時間がかかってもこのやり方にしています」

もう1つは「フライを怖がらない練習」。ノッカーが高く打ち上げた打球に対して落下点に入り構える。子どもがボールを落球してもOK。大人たちは怒らない。なぜならこの練習の目的は「フライを怖がらない」ことだから。落下点に入って、怖がらずにボールを捕りに行けていれば捕れなくも問題ではない。野球経験の浅い子どもなどはボールを怖がることがまだあるため、まずはそれを払拭することが狙いなのだ。


 
ノックの最後は子どもたちが逆シングルでの捕球練習を行う。ちなみに小金原ビクトリーでは「逆シングル」という言葉は禁止で「バックハンドキャッチ」と呼ぶことにしているという。「逆シングルって『逆』という言葉がつくとなんかネガテイブじゃないですか(笑)。ですので、このチームでは『バックハンドキャッチ』です。ジャンピングスローなんかするとみんなで褒めますよ」

子どもたちに問いかけ、考えさせる

練習の最後は子どもたちお待ちかねのバッティング練習。この日は6年生チームと5年生チームに別れて紅白戦形式で行われた(ピッチャーのみ手動マシンを使用)。打順もポジションも作戦も子どもたちが決める。大人たちはそれを見守るだけだが、時折選手たちにポジティブな声をかけていた。

「さっきのサードゴロ、すごくいいダッシュだったよ」
「今のゴロ、前に突っ込んだら絶好のジャンピングスローのチャンスだったなー」

言われた選手たちは照れながらも笑みを浮かべ「次はやってやるぞ!」と次のプレーを心待ちにしているようだった。

大人たちは子どもたちを褒めるだけではない。たとえばセカンドフライに対して、「セカンド!」と指示を出した子に対しては、
「『セカンド!』という声だけじゃ少し足りない。他にどんな声をかけてあげられる? 『前? 後ろ?』そうだよな。そこまで言ってあげたほうが取りやすいよな。どんな声をかけてあげたらその選手は捕りやすいか? 人のことを考えながらプレーできるようになったら、自分ももっと上手くなるよ」

「前とか後ろとかも言ってあげろ」と初めから答えを押し付けるのではなく、子どもたちに問いかけ、考えさせていることがポイントだ。

楽しそうに行われていた紅白戦だったが、勝つことに対しては子どもたちも真剣だ。バントを打ち上げてしまった子には、「バットのヘッドがちょっと下がっていたよ」と別の子がすかさずアドバイスを送っていたし、ミスから5年生チームにサヨナラ負けを喫した6年生チームの一人は責任を感じて涙を流していた。そして、その様子を茶化しながらも6年生たちが「お前のせいじゃない」と慰めていた。

高橋監督が大事にしている「子どもたちが自分で考える」「野球を楽しむ」「仲間を思いやる」ということが凝縮されたような紅白戦だった。

最後に高橋監督に、子どもたちに将来どのように育って欲しいかを尋ねた。
「次のステージでも野球を続けて欲しいですね。そこで試合に出たり、活躍してくれるともちろん嬉しいんですけど、レギュラーではなくてコーチャーだったり応援に回った時に、腐らずやってくれる子になってほしいですね。それは野球が好きだったり、仲間を思う気持ちがあるからできることだと思うので」
 
高橋監督が望む将来へ子どもたちは一歩ずつ歩んでいる。そんな思いがした小金原ビクトリーの練習だった。(取材・文、写真:永松欣也)