【津久見】練習は監督と主将が毎日相談。目指すのは伝統の「打ち勝つ野球」
1日1500スイング
河室聖司監督の就任時に行なったミーティング以降、津久見は黄金期のスタイルでもある「打ち勝つ野球」を再び手にするべく、練習時間の8割を打撃練習に割いている。
「理想は一死一塁からでも長打で走者を返すという往年のスタイル。やはり相手を黙らせることができるのは、圧倒的な打撃力だ」と河室監督は力説し、当初は1日1000スイングというノルマを設定したが「1000スイングは今までもやっているし、どこのチームでもやっていること。いっそ1500まで引き上げてみよう」と、昨年冬に上方修正に踏み切った。
1500スイングの内訳は素振り、20分間のティー打撃、フリー打撃やハーフ打撃の総数である。目に付いたのは1100g~1200gのトレーニング用重量バットでフリー打撃に臨む選手たちの姿だ。2年生はどの選手も前から来る球に対しても振り負けることがなく、スイングの形を崩さずに右へ左へ強烈な打球を打ち分けていた。逆にティーは7~800gの軽いバットを使用して軌道修正を行ない、連続ティーでヘッドスピードの向上にも取り組む。素振りに関しては各自のバットかマスコットバットを用いるが、どのバットでスイングを行なうかの判断は選手個々に委ねている。
過去の傾向から「10万本をクリアした頃から1100gを振れるようになる」という実感が河室監督にはあり、1年生も夏を越し秋季戦線が始まる頃には前から来る球にも結構な確率でアジャストできるようになる。
今夏の大分大会では中津北との1回戦で11得点、杵築との2回戦で10得点と打線が火を噴いた。また、1500スイング導入後の春には鶴崎工戦との2回戦で二けた得点、その後2試合が7得点と、初戦以外はすべて5得点以上を挙げている。現チームで4番を任されている近藤龍美は「上位から下位まで満遍なく振れるようになってきたので、ビッグイニングが作れるようになった。とくに序盤で3、4点取って試合を優位に進めることができている。集中打がでること自体、練習の成果だと思う」と胸を張った。たしかに今夏も序盤の得点が目立った。初戦の中津北戦は2回までに4点、3回戦の宇佐戦も2回までに3点とマルチ得点で先手を奪っている。主将の近藤は試合前のじゃんけんで勝てば必ず先攻を取るようにしているが、これも「先手必勝」というチームスタイルを実践するための大事なポイントなのだそうだ。
河室監督はスイングの軌道について「レベルで振ること」を徹底させている。とくに最近はMLBでスタンダード化し、柳田悠岐(福岡ソフトバンク)なども提唱するフライボール革命が大流行の兆しを見せている。ボールの下を叩いてスピン量を加え、フライを打ち上げて飛距離を出すというこの理論がひとり歩きし、もしくは履き違えたまま小・中学校時代を過ごす選手が増えているという実感が河室監督の中にはある。「極端なアッパースイングをする選手が以前よりも増えてきた」と首を傾げるのだ。とくにロングティーをやらせるとそのあたりの癖は顕著に表れ、対投手でも速い球に振り負ける、振り遅れるといった傾向が如実に表れる。高校野球という短期間の活動の中で確率を上げるためにも、基本に忠実な「レベルスイング」をチーム内で徹底しているのだという。
垣間見える全盛期の面影
練習メニューは主将の近藤が昼休みに河室監督と打ち合わせし、最終的に決定したことを選手たちへと伝達する。取材したこの日の通常練習も、メニューは当然打撃中心だ。ウォーミングアップ、キャッチボールを済ませたところで3か所でのフリー打撃が始まった。ゲージ裏では、4か所に分かれてティー打撃。三塁側ファウルゾーンではハーフ打撃に取り組む選手たちもいる。これをローテーションで回していく。
投手陣は順次ブルペンに入り、できあがったものは打者を相手に打撃投手も務めた。これらのルーティンが終わると守備練習へ移行。ノッカーは選手たちが務める。投手陣はウエートをする者、外野のポール間を走る者と思い思いにメニューを消化し、捕手陣は外野で捕球から送球までの一連の動作をチェック。全体を見渡しても、さながら自主練習といった雰囲気だ。
その後は主に相馬豊樹部長が考案した体幹トレーニングへ。選手たちはこの間に各自で持参した握り飯などを補食する。
津久見に赴任する以前、河室監督は大分県高野連の理事長を5年間に渡って務めた。甲子園や国体、九州大会などに出張しては、いろんなチームや人物と接する機会に恵まれている。「目が肥えたと思うんです。子供たちを指導する上でも、これは大きかったですね。子供たちが提案してくる練習のやり方に対して、私の中で比較対象のレベルが高いので『それじゃあまり効果がないよ』と、より的確なアドバイスができるようになりました」と言う。
現在の立ち位置を踏まえ、復活を飾る上で理想とするスタイルを追い求める。重量バットでスイングを重ねる津久見ナインの姿に、全国を震え上がらせた全盛期の面影が垣間見えた。(取材・写真:加来慶祐)