ランナーでもある茂木健一郎氏・堀江貴文氏がアドバイザーに!! 日本陸連【JAAF RunLink】の狙い
市民ランナーの中には、競技者に近いレベルのランナーもいる。だが、ほとんどの市民ランナーは、競技として走ってはいない。それぞれの目的のために走っている。
そんな市民ランナーにとって、トップ選手の育成・強化をしている日本陸上競技連盟(JAAF)は、縁遠い存在だ。
走ることは陸上競技の1つではあるけれど、自分とは全く無関係、と思っているのではないか。
その陸上競技連盟(以下、JAAF)が、市民ランナーに向けた、新たな取り組みを始めた。その内容はどんなものなのか?今月13日に行われたJAAFの会見を通してお伝えしたい。
2040年までにランニングの競技人口を2000万人に増やすのが目標
JAAFの新しいランニングのプロジェクト名は「JAAF RunLink」。約2年の構想を経て、今月、号砲が鳴らされた。
背景には、ランニング人口の伸び悩みがある。東京マラソンを機に、一気に市民ランナーが増えたものの、笹川スポーツ財団の調べによると2012年(約1009万人)をピークに、上昇カーブは描いていない。また、スポーツ界には、“ポスト2020”という、東京オリンピック・パラリンピック以後、スポーツをどう発展させていくか、という課題がある。
『JAAF RunLink』とは、どんなプロジェクトなのか?
JAAFの尾縣貢専務理事によると、JAAFは、2040年をひとつのターゲットに、2つの柱を掲げて活動しているという。1つ目はアスリートの育成・強化。これは「競技陸上」と銘打たれ、オリンピック、世界陸上のメダル獲得を目標にしている。1つ目の柱は、市民ランナーも察しがつくところだろう。
そして2つ目の柱が、市民ランナーとも大きく関係してくる、JAAFの新しい取り組み『ウェルネス陸上』だ。
尾縣専務理事は「全ての人々の、全てのステージにおけるスポーツ環境を整えることに邁進していく。陸上競技の走る、跳ぶ、投げる、歩くという運動は、全てのスポーツ活動の基本で、アスリートだけでなく、一般の方々も生涯を通じて楽しめる。この『ウェルネス陸上』実現を目指して、具体的な案を検討し、たどり着いたのが『JAAF RunLink』です」と発表した。
平たく言うなら、これまで市民ランナーにとって雲の上の存在だったJAAFが、市民ランナーに寄り添うプロジェクトを推進してくれる、というわけだ。
尾縣専務理事によるビジョンの説明に続き、『JAAF RunLink』の具体的な施策を明らかにしてくれたのは、プロジェクトのチーフオフィサーを務める早野忠昭氏だった。日本の市民マラソンをけん引してきた早野氏は、東京マラソンには第1回から深く携わり、東京マラソンのワールドマラソン・メジャー入りにも尽力した。

早野チーフオフィサーによると、「JAAF RunLink」の活動は大きく2つある。1つは市民マラソン大会の統括、支援。現在、全国に2000以上あると言われている市民マラソン大会のうち、JAAFの公認はわずかその1割程度。今後は加盟を募り、統一の運営基準で、安心・安全な大会作りを進めていく。例えば、大会ごとに結んでいた保険を「JAAF RunLink」が統括することで、安心安全、社会性を提供し、大規模な大会と同じ水準の補償内容を確保できるという。
市民ランナーに話を聞くと、やはり「陸連公認」の大会はテンションが上がるそうだ。「陸連公認」の大会が増えれば、ランナーのモチベーションも高まり、大会そのものの価値も上がるだろう。「JAAF RunLink」では、安心安全に加え、出場者がまた参加したくなるような、より大会を楽しめるプランも模索していくという。
もう1つは、市民ランナーのデータを一元化した「JAAF RunLinkプラットフォーム」の構築・活用だ。これによってランニングのマーケットを活性化していく。
2040年までに、ランニングの競技人口を2000万人に増やすことを目標に掲げる早野チーフオフィサーは、「そのためにはビジネスとの関わりが不可欠」とも。ランニングの楽しみ方は、ビール、音楽、ファッションなど、人それぞれだが、その先には、ビジネスが存在する。多種多様な市民ランナーのニーズをキャッチしながら、ランニングと連動するマーケットを掘り下げていくつもりだ。このあたりは、ビジネスマンのランナーなら、合点がいくのではないだろうか。『JAAF RunLink』は、スポーツ庁と経済産業省が後援し、経団連が協力している。
来賓挨拶ではスポーツ庁の鈴木大地長官が登壇した。鈴木長官は「まさに我々の向かっていく方向と同じ。スポーツ庁では、生活の中にスポーツを取り込む『Sport in Life』を提唱している。今回のプロジェクトは画期的な取り組みで、スポーツの原点。楽しみながら走る人を、日本中に溢れるぐらい、取り組みを広げてほしい」と激励の言葉を送ると、「陸上競技連盟ではなく、陸上連盟という名称でもいいのでは。競技をする人もいれば、楽しむ人もいてもいいので。水泳連盟も昔は、日本水上競技連盟だった」と続けた。鈴木長官は、映画を見る、本を読む、そういう流れの中でスポーツができれば…と考えている。

市民ランナー目線から意見を述べた茂木氏と堀江氏の両アドバイザー
新プロジェクトのアドバイザーに就任したのが、脳科学者の茂木健一郎氏と実業家の堀江貴文氏。両氏は、この日行われた、早野チーフオフィサーとのトークセッションに参加し、それぞれの視点からランニングについて語った。
実は、茂木氏も堀江氏もランナーだ。会見当日も10km走ってきたという茂木氏は、来年の東京マラソンにもエントリー済み。堀江氏も東京マラソン経験者で、トライアスロンや、アドベンチャーレースなどにも挑戦している。各方面で活躍している両氏の、市民ランナー目線のコメントは、とても興味深かった。
脳科学者として、脳とランニングの関係に言及していたのが茂木氏。「走ることは認知症の予防になる。定期的に運動している人は、認知症の確率も下がるエビデンスがある」と言う。また「走っている間にストレスが解消され、閃きや発想が生まれる。忙しいビジネスパーソンにこそ、ランニングはお勧め」とも。
一方、「これから80年、100年人生になる中、足腰を鍛えるランニングは、寝たきりにならないための重要な予防方法」と、茂木氏に近い意見の堀江氏は「ランニングは敷居が高いと思われている。まず、そのイメージを変えないと」と言葉に力を込める。
「個人的には嫌なのが、フェイスブックに、初めてマラソンに参戦しました。残念ながら、サブ4達成できませんでした、とあげている人が多いこと。そういう、運動神経いい系のランナーが、ランナーなら、サブ4を達成しなければならない、と思わせる風潮を作っている」
確かに…ランナーに取材すると、まず自己ベストを聞いてしまう筆者も、その風潮に肩入れしている一人かもしれない。サブ3やサブ4のランナーは、リスペクトすべき存在ではあるが、市民ランナーにとって、タイムは全てではない。本来、走る目的は、みんな違ってそれでいいのだ。
堀江氏は「僕がトライアスロンをやっているのは、練習後に仲間と食事をするのが楽しみなのと、仕事以外のつながりができるから。会社や家庭以外の場所に、居場所や生きがいがあるのはとてもいいことで、その1つの手段としてランがあってもいいのでは。ランの形は(ただタイムを追い求めるのではなく)もっといろんな形があっていいし、今までになかった形があってもいい」と話す。

早野チーフオフィサーからは、両アドバイザーに、ランニング人口を増やすためには?という質問も。両氏はアドバイザーとして「会社や職場などの場で、隙間時間を使って、定期的にランをできるようなイベントや、シチュエーションを例示してはどうか」(堀江氏)、「ネット情報よりも、実は身近な人からのお誘いが決め手になる」(茂木氏)と、答えていた。
「エリート競技者の育成機関で、これまでは我々のような市民ランナーを相手にしてくれなかった日本陸連が、「JAAF RunLink」を作ったのは大きい。裾野が広くなければ、頂きも上にはいかない。エリートから草の根まで、つながっていくことが大事では。一方で、プロの指導も大切で、陸連出身のエリートたちが、我々のような市民ランナーを教える仕組みを作ってもらえば」と茂木氏。
具体的なアクションはこれからのようだが、私たち市民ランナーに目を向けた『JAAF RunLink』の今後に注目したい。