【龍谷大平安】原田英彦監督「小さい頃はまず、楽しんで野球をやって欲しい」
この夏「甲子園100勝」という偉業を達成した強豪・龍谷大平安高校(京都)。チームを率いるのは自身も同校OBの原田英彦監督。そんな原田監督に今回は昨今の少年野球人口の減少やこの夏高校野球ファンを驚かせたイメージチェンジの秘密などを語っていただいた。
子供が楽しくボールで遊べる機会がもっと増えたら
野球界で近年、懸念されているのが少年野球人口減少の問題だ。少子化など様々な理由が囁かれている中、原田監督もこう懸念の色を示す。
「一番の問題は“世の中”。僕たちが子供の頃は柔らかいゴムボールで遊んでいたんですけれど、今は危険だからというのが理由でそれができない。気軽にゴムボールにすら触れられない世の中になっているから、野球がとっつきにくくなっているんです。じゃあ大きなボールは大丈夫だからサッカーなら遊べるという世の中になっているから、世間ではサッカーにどんどん移行していますよね。そうなると自然と野球は敬遠されてしまう。子供が減っているというより、周りがそういう環境にさせてしまっているからでしょう」。
そのうえ、野球は道具にお金がかかるとも言われる。サッカーはボールだけだが野球はボール以外にバット、グローブ。キャッチャーだと防具も必要だ。ただ、それでも昔は野球をやる子が多かった。今はそれだけ多種多様なスポーツに気軽に触れられるようになり、昔のように“まずは野球”という風潮は薄れてしまいがちになっている。
では、まずどんな風にボールに触れていけば、子供は野球への“入り口”に立ってくれるのだろうか。
「小さい頃はまず、楽しんで野球をやって欲しいですね。小さい頃はバットに当たらないと嬉しくないので、“今のボール何で見逃したんや!”とか怒る必要もない。
まずはバットに当てる喜びや、遠くへ投げられる楽しさを味わわせてあげたらいいんです。たとえ柔らかいゴムボールでもいいので楽しくボールに触れて感覚を磨いて欲しいですが、ボールに慣れ親しむ場所が減っているので、どうしてもいきなりチームに入って、いきなり厳しい教えの下で野球を始めていかないといけない。これが現実なんです」。
今春のセンバツ大会前に甲子園で全国の小学校低学年の男女児童が対象の“キッズフェスタ”が開催された。全国の高校野球指導者と共に子供たちにティーボールなどで楽しくボールに触れ、時にはアドバイスを交えながら野球を体感してもらう。
「あれはすごくいい試みでした。ああいう風に子供が楽しくボールで遊べる機会がもっと増えたら」と指揮官は懇願する。
今の球児はハイハイで赤ちゃんに勝てない!?
今と昔。比べ出すとキリがないのが現状だが、生活スタイルの一変により原田監督がもっとも感じるのは選手たちの体の変化だ。
「最近の子はしゃがめないんです。もっというと正座ができない。トイレが和式ではなく洋式が一般的になり、“しゃがむ”機会が減っているんですよね。時代の流れと言われたら確かにそうなのですが、正座ができないのは足首が弱い証拠。しゃがむことは野球の動きには必要なのですが、足首に限らず体が柔らかくなる子はグングン伸びていく。これははっきりと言えます」。
龍谷大平安では多彩な種類のアップに時間をかけて行うことが有名だが、その中で着目すべき動きが「ほふく前進」だ。

「この動きは背中や腰、そして股関節を自由に動かせないと前に進まないのですが、赤ちゃんの動きで言うとハイハイですね。赤ちゃんは寝返りをすると、次はハイハイをするでしょう。でも、寝返りができた後にすぐ立てるようになる赤ちゃんは、実は運動能力はありません。これは、これまでの統計の中ではっきり言えることです。ですので、寝返りができたらハイハイを徹底的にやらせた子は足の速い子が多い。なぜかと言うとハイハイで股関節が柔らかくなって足が動く。ハイハイで腕を使うことで、走る時に腕もしっかり振り切れるようになるんです。それを怠った子は腕が振れなくて前傾姿勢になって走れない。
赤ちゃんは、ここを使えばこうできるということが頭にインプットできているので、寝返りひとつでも右からができるようになれば、今度は左から寝返りの練習をさせるのも良いと思います。今は股関節の堅い子が多いので、ウチにいる子でも最初はなかなかほふく前進で前に進まないのですが、たぶん赤ちゃんと一緒にやると赤ちゃんの方が速いと思いますよ」。(取材・写真:沢井史)