「現役のプロ・アマ選手と一緒に野球あそびをしよう」イベントレポート(後編)

今年で3回目を迎えた早稲田大学野球部OBが主催する野球あそびイベント。今回は過去2回とは異なり、今年は“現在チームに所属していない”小学3年生から6年生を対象として行われた。前編では前段となるあそび場の風景や現役選手によるデモンストレーションを中心に触れたが、後編では実際の野球あそびについてレポートする。

「現役のプロ・アマ選手と一緒に野球あそびをしよう」イベントレポート(前編)

午前中はグラウンドを開放して自由にあそび、12時から行われた開会式では現役選手によるキャッチボール、盗塁、ティーバッティングなどのデモンストレーションが行われ、その後いよいよ野球あそびが開始となった。今回は“現在チームに所属していない”子ども達が対象ということだったが、それでも過去の所属経験や学年によって技能は異なるため、それぞれのレベルに合わせてチーム分けをして行われた。

硬式野球部のグラウンドである安部球場では比較的高学年の野球経験がある子どもたちが中心となり、「かんたんベースボール」という実際の野球に近い形式のゲームが行われた。ただその名に「かんたん」とあるように、監督は不在で細かいサインなどはもちろんない。盗塁、四球、ワイルドピッチ(パスボール)もなく、打順も守備位置も子ども達が自由に決めるものだ。

投手はマウンドから投げるが、何とか抑えようというよりも打者が打ちやすいストライクを投げて、それを打つところからスタートさせているように見えた。なかなかストライクの入らないケースもあったが、四球がないため投手は委縮することもなく、またお互いのプレーを称賛し合う場面も多く見られた。

一方の軟式球場は低学年で野球経験もほとんどない子ども達が中心となって「ならびっこベースボール」と「ベースボールファイブ(5)」の二種類のゲームが行われた。ならびっこベースボールはティーに置いたボール(もしくはトスしたボール)を打つところからスタートするもの。打者は打った後にホームベースと置いてあるマーカーを往復すると1点が加わるが、ホームに到達する前に守備側がボールを捕球して全員が集まって「アウト!」と言えばアウトとなるルールだ。守備側で難しいダイレクトキャッチや送球、捕球という部分を簡略化して、誰でも楽しめるような工夫がされている。

ベースボールファイブはバットを使わず、打者が手でボールを打つところからスタートする。1チームは5人、内野のみで行いダイレクトで捕球、打者走者がベースに到着するまでに送球、または走者にタッチすればアウトになるところは野球と同じルールで行われる。どうなればアウトになるのかということを理解するために非常に分かりやすいゲームであり、またバットを使えない公園でも楽しめるという利点も持ち合わせたあそびだ。

どのゲームも特徴的だったのは子どもが主体となって行っていたということ。前編で紹介したトップレベルの現役選手や早稲田大学の現役野球部員も参加していたが、冒頭にルールを説明することやゲームの補助がメインであり、あくまでも進行は子ども達が行っていた。野球経験がないため最初は戸惑うこともあったが、理解するとすぐにどんどんゲームを進めて各エリアで歓声や拍手が巻き起こっていた。まさしくこのあたりは『野球教室』ではなく、“野球あそび”と呼ぶに相応しいものと言えるだろう。イベント終了後には参加した斎藤佑樹選手、重信慎之介選手も報道陣の取材に応えていたが、ともに子ども達の楽しむ姿を見て野球を始めたころの原点を思い出させてもらったとコメントしていた。

また4年生で来年からプロに進む小島和哉選手は卒業論文にも「野球の参加動機と継続意図」というテーマで取り組んでいるという。そのようなテーマに取り組もうと思った背景には自分が所属していた小学校時代のチームが部員不足に陥っていることや、筒香嘉智(DeNA)選手が勝利至上主義に対して警鐘を鳴らすような発言を聞いて思うところがあったと話していた。

彼らのようにプロの世界でプレーできる選手は一握りではあるが、そんなトップ選手でも根底には野球を好きで楽しむという気持ちがあることは間違いない。そして現在の野球界では最も野球を楽しむべき小学校の育成年代からそのことが忘れ去られているような現場が多いのが実情ではないだろうか。

もちろん厳しい環境に身を置きたいという選手、保護者も中には存在しており、それに対して厳しい指導を行う指導者がマッチしていることも多々ある。しかし多様な価値観が生まれる現在の世の中において、一つの選択肢しかないというのは望ましい状況ではないだろう。

そんなことを考えさせられるイベントだった。今後もこれが一つの大学野球部OBの取り組みとして終わるのではなく、多くの場所、幅広い年代で化学反応が起こっていくことを期待したい。(取材・西尾典文、写真:編集部)