【東邦】AI搭載マシンを使用したバッティング練習

今秋の東海大会で頂点に立ち、2年連続のセンバツ出場を当確にしている東邦(愛知)。2016年夏の甲子園では、八戸学院光星(青森)を相手に終盤で7点ビハインドをひっくり返したミラクル劇も記憶に新しい。看板となった全国屈指の強打線など攻守に地力が際立つが、どのように強さを築き、維持し続けているのか。その練習に迫った。

東邦は校舎は名古屋市内にあるが、野球部のグラウンドは東郷町にある。平日の放課後はバスで30分弱かけてグラウンドへ移動し、夜7時半ごろまで全体で練習する。寮に住む部員は1学年あたり数名ほどいる状況だ。

ティー打撃、フリー打撃

前篇で紹介したように、東邦の練習は4種類のメニューを特に時間をかけて取り組む。そのうち打撃に関するものがティー打撃とフリー打撃だ。土日などはそれぞれに40分かけるから、フリー打撃とティー打撃を合わせれば一人あたり80分間、打ちっぱなしということだ。スイングの絶対量が強打線の源だ。

使うのは木製バットのみで、金属バットは使わない。ティー打撃では通常より5~10センチほど長い「長尺バット」や、重さ1.4キロのバットも用いる。長尺バットはヘッドが遅れて出るから、バットの使い方を覚えられるし、重いバットを振ることでトレーニングも兼ねられる。

フリー打撃では当然試合を想定し、さまざまなテーマや制約のもとで振る。約400万円で購入したAI(人工知能)搭載のピッチングマシンがあり、多くの球種が多様な配球パターンで出てくる。

コースへの対応力アップにも余念がない。たとえばフリー打撃では、「インコースをファウルにする」ことを徹底して練習する日もある。試合で厳しい球をファウルで粘り、根負けした投手の甘い球を仕留めるためだ。今秋の県大会準決勝で好投手・山田紘太郎(西尾東)を攻略した試合後、森田泰弘監督は「追い込まれてからよく粘っていた」と話していたが、こうした練習の成果だ。ほかに「今日は外角しか打たない」という日もある。

低目の変化球は手を出さず、見逃す。追い込まれてからはバットを短く持ち、外角球を踏み込んで逆方向へ打つ。打撃練習で徹底的にこうしたワザも身につけ、シュアな打線になっていく。

手投げによるゴロ捕球、個別ノック

残る2種目が手投げによるゴロ捕球と、個別ノックだ。手投げによるゴロ捕球は、東邦では「ゴロ捕・基本」と呼ばれるメニュー。至近距離で次々に左右に転がされるゴロを、低い捕球体勢を保ち10本連続で捕り続ける。正面の手投げゴロを1球ずつさばくパターンもある。グラブの位置がヒザより下にあるか、足のステップがスムーズか、コーチらがしっかりチェック。地味なメニューだが、それだけ基本に忠実ということだ。繰り返して体に染み込ませる。個別ノックでは、同じ組の4人が代わる代わる打球を受け続ける。

TRX、「平和堂」ダッシュ

筋トレ室はグラウンド脇にある。バンドをつりさげ自重(じじゅう)を利用して体幹などを鍛える「TRX」もいち早く取り入れてきた。また東邦の名物練習に「平和堂」がある。学校近くの「平和堂」(平和公園)の石段100段を週1回、20本ほど駆け上がる。タイムは13秒が目標だ。日々の練習に耐えられるだけの基礎体力、足腰の強さを養う。
 

鍛錬の量はやはり豊富だ。公式戦の試合後でもすぐグラウンドに戻って練習する。「今のチームは打力が劣るかと思っていたが、やっぱり練習すると違った」と首脳陣。たしかに今秋の新チームの打者陣は、図抜けた能力をもつ石川昂弥、熊田任洋(ともに2年)を除き、旧チームではみなベンチ外だった。それでも東海大会では下位打線が奮起。個々の素材だけではない、練習由来の力が結果に表れた。

森田監督の「ノッてやれ」という方針もあり、練習中はグラウンドにBGMが流れ、雰囲気は暗くない。ハードでも前向きな練習が繰り広げられている。(取材・写真:尾関雄一朗)