則本佳樹 たどり着いた兄と同じ場所 兄とは違う“技巧派”で生きる

 ◇ボールパーク

山岸ロジスターズで熱投する“則本の弟”佳樹

 則本兄弟が同じ楽天のユニホームを着ることになった。10月25日のドラフト会議で育成2位で、則本佳樹投手(24=山岸ロジスターズ)が指名された。兄はチームのエースで5年連続リーグ奪三振王に輝く昂大投手(28)。全国的には無名なクラブチームからプロ入りを果たした「則本弟」の社会人時代、兄弟の絆、そして思い描く未来像に迫ってみた。(取材・大木 穂高)

 楽天の新入団選手発表会見から3日後の11月25日午前8時30分。佳樹は「つなぎ」を着て、静岡県島田市内の山岸運送本社でパソコンと向かい合っていた。「引き継ぎやあいさつが大変で…」。同月末の退社前に作業は山積みだった。

 所属部署は「YMワークス・ボディプリンター事業部」。走行時に映えるトラックを「創(つく)る」ため、両側面にラッピングするデザインを考案する。「元々デザインが好き。営業先で案が採用されると最高の気分」と笑う。

 普段は午後5時30分まで仕事だが水、金曜は午後3時で終わり、専用グラウンドでチームの練習を行う。両日以外は個人練習。グラウンドに照明設備はなく冬季は主に室内練習場で汗を流す。

 「兄と同じ直球で押すつもりで静岡に来たけど、仕事で忍耐を覚え、冷静に考えた。自分は軟投派の変化球勝負。山岸のおかげで気付いた」。入社から2年。天野義明監督も「入団時とイメージは違う。今季途中から姿勢が伝わってきた」と言う。「プロがダメならここで仕事を続けるつもりだった」。4学年上の兄を追いかけてきた野球人生。進むべき方向性を見つけた社会人生活は、回り道ではなかった。

 3兄弟の末っ子。滋賀県犬上郡の自宅の庭先には父がつくった「お手製ブルペン」がある。「当然投手を目指した」。兄と同じように、少年時代から佳樹はここで投げ込んできた。冷静な昂大に対し、弟は「テレビで一緒にプロ野球を見ていても、僕だけ血が騒いでガレージにバットを振りに行ってしまう」といった行動派だった。

 兄が全ての基準だった。高校は「兄が進学した八幡商を倒したい」と北大津に進む。3年夏に甲子園のマウンドに立った。「あの時は兄を超えた」と思ったが、近大では活躍できなかった。

 兄が楽天に入団した大学1年から「則本弟」の看板を背負った。自身は直後に右肩を故障。手術を2度受けた。リーグ戦登板は1試合だけ。昂大が打ち込まれると、周囲から「兄貴、何してん?(故障ばかりの)おまえもな」と冷やかされた。

 「自分のことならまだしも、兄のことは悔しかった」。一方で、「これからずっと“則本の弟”なんだ」と覚悟も決めた。兄が投げる試合は必ず見て、活躍を心の支えとした。

 結果を残せずに卒業となったが、チームを新設する山岸運送から誘われた。「名前も知らない。でもやる気が湧いた」。兄の背中を追いかけることに迷いはなかった。

 入社2年目。4月21日の都市対抗1次予選準決勝・静岡硬式野球倶楽部戦で7回コールドながら完投勝利。「初の公式戦登板で最も印象に残っている。監督も感極まって泣いていた」。調査書は楽天から届いた。ドラフト会議は、山岸一弥社長と天野監督と3人で社長室のテレビで見た。

 開始から2時間30分、諦めかけたが社長から「まだ分からんぞ」と励まされ、歓喜の瞬間を迎えた。直後に昂大とは連絡を取り合い「ここからが大変だぞ」「しっかり走っておけ」と助言を受けた。

 球速は140キロ前後。山田潤担当スカウトが「パワーの兄と違い、切れで勝負するタイプ」と評するようにカーブ、フォークを駆使して凡打を築くことが真骨頂だ。「岸投手が目標」と言う。近大時代の同期で、寮も同部屋だった巨人・畠の存在も刺激だ。現在は地元の滋賀で自主トレを行っている。「まずは支配下登録。早く1軍に上がらないと…」。兄弟で同じマウンドに立ち同期生と投げ合う。そんな夢を描く。

 ▽山岸ロジスターズ 静岡県島田市に本社がある「山岸運送グループ」が、16年5月2日に創部。同年夏にトライアウトを実施し、選手は同グループの各事業所を中心に勤務する。17年から活動を開始。天野監督は静岡高―駒沢大で活躍。同年9月に初の公式戦を行い、今季は29人が所属。4月に都市対抗東海地区1次静岡県予選で優勝も、2次予選敗退。9月の東海地区クラブ選手権は準決勝敗退。

 【則本 佳樹(のりもと・よしき)】

 ☆出身 滋賀県犬上郡多賀町。

 ☆50メートル走&遠投 6秒3、100メートル。

 ☆趣味 音楽鑑賞、ドライブ。トラックのラッピング用の風景などの撮影。

 ☆好きな言葉 雑草のごとく。小学時代の監督の言葉で「雑草は踏んでも立ち上がってくる」と言われ心に刻まれた。

 ☆好きな芸能人 同じ名前の「X JAPAN」YOSHIKI。佳樹も小学時代にドラムを習っていたことがある。

 ☆性格 「プライドは高い方。でも兄・昂大には小さい頃は言い返せなかった」

 ☆対戦したい打者 ソフトバンク・柳田悠岐。