【少年野球2.0】「笑顔が絶えない少年野球」レッドスネークコルツ(横浜)の取り組み
少年野球チームがどんな指導をしているかは、グラウンドに入った瞬間にわかるものだ。 マウンドからコーチがボールを投げながら、子どもを指導している。 「な? ちゃんと踏み込むといい当たりが出るだろ?」 「うん、わかってるんだけど」 「失敗してもいいから、思い切って振ってみろよ」 「そう、いい感じだ!」 「もうちょっと高めに投げてよ」 「よっしゃ!」 グラウンドのあちこちから笑い声が聞こえてくる。選手たちはユニフォームを着ているが、昔の子供の野球のような活気がある。 横浜市旭区の少年軟式野球チーム「レッドスネークコルツ」だ。ヘッドコーチの河原哲大さんに話を聞いた。
4年前にチームに指導者として復帰
「僕自身がこのチームの出身です。4年生から入団して、中学ではリトルシニアをやって高校は大沢啓二さんがいた神奈川商工です。専門学校まで硬式野球をやりましたが、そのあとは草野球をする程度でした。でも、家族ができて子どもに野球の楽しさを教えようと、4年前にコーチになりました。監督はいらっしゃいますが、後継者を考えておられたので、私がやりたい方針も理解していただいたうえでまかせていただいています。バトンタッチの最中ですね」
“大好きな野球を嫌いになってほしくない”
河原さん自身は、多くの野球少年と同様、怒鳴られながら野球をやってきた経験の持ち主だ。
「あの頃なにがあったのかな? と思いだしてみるんですが、怒られてやる野球は、マイナスのプレッシャーでやる野球です。大人の顔色ばかり見て、積極的にはなれません。でも、それでは楽しくない。野球人気が減っている中、積極的なプレーができるチームにしたいと思ったんです。チームに戻ってきて、野球指導者になるにあたって考えたのは子供たちに“大好きな野球を嫌いになってほしくない”ということでした」
規律とスローガンを掲げる
グラウンドには「チーム規律」「チームスローガン」という2枚の紙が掲示してある。
チーム規律
1.あいさつを必ずすること!
2.大きな声で返事をする!
3.整理整頓!
4.リスペクトの心!
5.自分から率先して行動する!
6.朝は自分で起床し、参加する!
2018年 チームスローガンと目標
1.スローガンBest Play &Challenge
2.目標
(1)2018年最終目標旭区大会で優勝する(A・Bとも)
(2)2018年最初の目標旭区大会、もしくは他の大会で「2勝」する
(3)目標に向かった全力プレーをいつもする意識してできることを全力でやる
「復帰した時からこういう考えを持ってはいたのですが、思いを伝えることなくなんとなくやっていました。でも、しっかり文字にしないと伝わらない、みんながわかるようにしないといけないと考えてこういう紙を作りました。以前からスローガンはありましたが、発表しても1週間たつと忘れていました。でも、今は毎週みんなでこの紙を見るので、忘れなくなりました」
目標は子供たちを“野球好き”にすること
厳格な球数制限を実施
少年野球といえば、健康被害の問題がある。
「うちのチームも十分配慮はしていますが、それでも肘が痛い子は2、3人はいます。球数はしっかり見ています。投球だけでなく、ノックでも送球するのを1球とカウントし、投げすぎている子は捕球だけにすることもあります。こうした方針は、手伝ってくれている5人のコーチも理解してくれています。態度が悪いときなどは注意しますが、エラーしたから叱りつけるようなことはありません」
むしろ、見学する父母のほうが過熱することがあるという。
「秋の新人戦のときに、応援に来ていただいているお父さん、お母さんが、子どものプレーを見て『なんでそうなの! カバーしなさいよ!』『ちゃんと投げて!』などの声があがりました。子供に良いプレーをしてほしい、頑張ってほしいという思いで声をあげられたんだと思いますが、私はすぐにミーティングをして『ミスは発生します。でもそこですぐに答えを出すのではなくて、見守ってほしい。絶対にミスは出るので』と説明して納得してもらいました。プレーに対して、大人が厳しく声をかけても、強い心は育たないと思うんですよね。選手がどう感じて、どう考えて行動できるかだと思いますので。そういう問題はこれからもあるでしょうね」
子どもたちを守りながら勝ちを目指す
レッドスネークコルツの実力はどうなのだろうか?
「旭区の学童の連盟は15、6チームが加盟しています。野球は熱心な地域です。うち以外のチームは、ガンガン声を荒げるチームです。うちだけが異質ですね。球数制限をしたり、子どものケアに気を付けているので、勝ち進むのは難しいですね。でも、“勝たなくていいよ”とはいいません。勝つためにやらないと学びがないですから。少しずつ“こうやってやれば勝てるのかな”と手ごたえを感じている部分もあります。
地区の大会は、ほとんどがトーナメント戦です。連盟には残念ながら球数制限はありません。他のチームでは投手の酷使が当たり前ですが、うちは投手の枚数を多く作っています。いい投手でも球数が来たら投げさせません。またうちの場合、キャッチャーから投手へのリリーフも基本的には禁止しています。先日、秋のYBという大きな大会ではそれでも2勝しましたが、3戦目には負けてしまいました」
練習は土日祝日。グラウンドには送り迎えをする父母の姿もある。
「でもお茶当番はやっていません。試合の時には見に来てあげてくださいね、と声をかけています。熱心なお母さんもいらっしゃいますが、その方に負担が集中しないように気を付けています。コミュニケーションが大切ですね」
来年から軟式球の仕様が変わる。このことへの懸念も持っている。
「新しいボールはよく飛びます。ボールが少し硬くなっているからだと思います。また重くもなっています。子ども的には良くないのかなと思います。重くなると肩やひじに負担がかかりますし、故障者が増えるのではないでしょうか。球数をより厳密にカウントしなければならないし、ストレッチなどもしっかりすべきだと思います」
目標は子供たちを“野球好き”にすること
河原さんは自分の子供が卒業しても指導者を続けるという。
「僕が4年前にチームに戻った時、選手数は9人ギリギリでした。子どもを集めるにはどうしたらいいかな、と考えて“エンジョイベースボール”を掲げました。ありがたいことに、ここ数年の卒業生はみんなリトルシニアや中学の部活で野球を続けています。僕の大きな目標は子供たちを“野球好き”にすることです。これからもこの方針で頑張っていきます」(取材・写真:広尾晃)