【東京城南ボーイズ】その日の「テーマ」と打ち込み数を重視したバッティング練習
江戸川南シニア時代に松坂大輔(中日)、小谷野栄一(元オリックス)などを指導した東京城南ボーイズの大枝茂明監督。9月には指導方針などについてお話を伺ったが、今回の現場にお邪魔させていただいた。練習レポート前編ではバッティング練習の様子を紹介する。
東京城南ボーイズは土日祝日だけでなく、平日の夕方からも練習を行っている。それも計画的に1週間のスケジュールが組まれているのが特徴だ。まず試合をすることが多い日曜日を基準として考え、翌日の月曜日は体を休めるために練習はオフ。火曜日は都内近郊のジムのスペースを使いバッティングと投手は軽めのピッチングを行う。主に体をほぐすことが目的だ。そして水曜日は都内の室内練習場でバッティング中心のメニューを行い、翌日の木曜日は休養。そして金曜日は再びジムで土日の試合に向けて体を動かすという流れになっている。今回は水曜日の室内練習場で行われる練習を取材した。
先述したように水曜日の練習はバッティングが中心。練習時間は17時から19時までの2時間と決められているため、全体でアップなどは行わず到着して準備ができた選手からマシンを使って打ち始めるというものだった。バッティング練習は3人ずつで、この日は故障者や欠席者を除いて11組に分かれて打つというものだったが、大枝監督によるとこの打つ順番に必ず決まりがあるという。
「最後の3組の9人がレギュラーで、特にラストの1組がクリーンアップなどの中心選手が打つように分けています。それより前の選手は到着できる時間によって組んでいます。もちろん前の試合の結果などから入れ替えます。組分けは毎回プリントして置いておくので、選手はそれを見てバッティングの時間に合わせて各自でアップしますが、レギュラー陣の方が余裕を持って準備できますから。『悔しかったら後ろに入るように頑張れ!』という意味なんです。練習内容は全員同じですが、こういうところで差をつけることによって選手達に競わせる意識をつけるようにしています」
実際にこの日も前回の組分けとは入れ替えがあったとのことで、プリントされた一覧を見た時の選手の表情には少し緊張感も見られた。またこの用紙には毎回その日のテーマが書かれており、この日のテーマは『打った打球方向確認』というものだった。ここに一つ意識させることを入れることで自然とバッティングがレベルアップする仕掛けになっていると大枝監督は話す。
「前にもお話しましたがうちの方針は『結果論から話す』ところです。バッティングはとにかくいい打球が飛ぶことが大事。どんなにきれいな形で振っていても打球がしっかり飛ばなかったら意味がありません。今日は打球方向の確認がテーマですが、上(フライ)と下(ゴロ)はダメだと言っています。ボールを切らずにしっかりミートして飛ばす。とにかくそれを確認するだけであとは打ち込むことが目的です。
今日は水曜日で、明日の試合のためにやるわけではない。打つ力をつけるために、また応用力をつけるために打ち込む日ですから。逆に火曜日と金曜日はティーバッティングが中心ですが、それは試合の後、試合の前ということもあって数も打ちますけどそこでスイングを固める、修正するという意味が強いです。そうやって日によって同じバッティングでも目的を分けるようにしています」
東京城南ボーイズのバッティング練習の特徴はマシンを使って行うというところにもある。三つのマシンのうちの一つは緩いカーブだが、残りの二つは125キロから127キロくらいのスピードに設定されており、距離も通常のマウンドより前に置かれている。中学生にとっては簡単に打てる速さではない。実際にこの日は軟式の少年野球チームに所属している小学6年生が体験入部で練習に参加していたが、このマシンを使ったバッティングではほとんどまともな打球は前に飛んでいなかった。ただこのような設定にしているのは当然狙いがあるからだ。
「この練習の目的は数を打つことですから、それを考えるとマシンの方が効率がいいですよね。基本的にボール球は来ませんから。試合でもストライクはとにかく初球からどんどん打つ。そうしないとバッティングは上達しません。私もコーチも基本的にはバッティング練習中は声をかけません。時間が限られているので教えていたらその分ロスしますから。
あと速いボールに設定しているのはそれだけ無駄な動きをさせなくなるという効果があるからです。距離が短くて125キロ以上のボールが来るので、それに合わせようと思ったら自然と無駄なことはしなくなります。同じように打っていてもいい打球が飛んだ時とそうでない時は何が違うのか、こちらが言わなくても選手たちが自分で考えて修正できるようになりますよ」
実際にこの日のバッティング練習を見ていても打席の周りにはコーチはおらず、スイングに対して何かを言うようなことは一切なかった。ただ選手達は誰かに言われなくても自分で考えながらバットの出し方や踏み出し方を調整している姿がよく見られた。
取材したのは11月で公式戦が近くないということもあって主力も調子が落ちているという話だったが、それでも高校生顔負けの打球を飛ばす選手は多く、バッティングのレベルは非常に高いものだった。ちなみに冬場でも室内練習場は寒さがそれほどではないため、年間通じてこのようなバッティング練習は行っているとのこと。結果論をテーマに選手に教えすぎることなく、1週間を計画的に使いながら効率よく練習している成果が見えやすいバッティング練習という印象だった。
*後編「『教わるんじゃなくて野球をやろう!』子供達の自主性を重視した練習」。