【智弁和歌山】中谷仁監督「12月、1月は何をやってもいい」
甲子園で通算68勝を挙げた高嶋仁前監督が勇退したのがちょうど4か月前。突然の報道に、驚いた高校野球ファンも多かっただろう。その名将からバトンを受けた中谷仁監督は今、智弁和歌山の新しい時代を築くために奔走の最中だ。
12月から始まるオフ期間は全体練習よりも個人の課題に向き合う内容がメインだ。この日はあいにくの雨だったため、室内練習場でアップなどを終えるとナインは各自でティー打撃やマシンを相手にした打ち込みを黙々とこなしていた。
「12月、1月は何をやってもいいと。極端な話、帰ってもいいというくらい(笑)」と中谷監督は言うが、野球に限らず自分に足りないものを補うための期間としている。
先日はアスリートタレントとして知られる武井壮さんの『大人の育て方』という講演を動画サイトで全員で視聴する機会があった。野球というカテゴリーから幅を広げ、人生にまつわる考え方を養う。そして今、選手らに積極的に進めているのは読書。電車通学の選手も多いため、様々なジャンルの本を勧めたりもする。
中谷監督の右腕になっているのが古宮克人部長だ。古宮部長は06年の夏の甲子園でベスト4に進出した当時のキャプテンでもある。選手目線で常に物事を考え、熱血な性格が手伝って時には練習で一緒に走り、選手と腹を割って話すことも。練習メニューは中谷監督と相談しながら決めるが、良いと思ったトレーニング等は積極的に取り入れている。
ただ、中谷監督はウエイトトレーニングに関してはあまり肯定的ではない。「ウエイトをすることで成長ホルモンが分泌されるし、必要な部分はあるんです。でもウエイトによるケガなどもありますし、高校生はまだ体が成長段階なのでどこまで取り入れるかですよね」。
やみくもに筋肉をつけるだけでは体は強くならない。これはプロでの中谷監督の経験を踏まえての確かな答えでもある。
現代は子供の性質が変わったとよく聞くが、中谷監督は必ずしもそうではないと思っている。
「根本的なところは変わらないと思うんです。甲子園に行きたい。野球がうまくなりたいと思うのは自分たちが高校生の頃と同じ。変わっているのは周りの環境です。今は情報が多すぎて何かを知りたければ、ネットなどで調べさえすれば簡単に情報が入ってきます。ただ、選択を間違えると大変なことになる。特に今はこう言えば周りが納得してくれる、みたいな優等生コメントも出回っているので、こうすればいいと型にはめがちな部分もありますよね。本音で言っていることももちろんあるとは思いますけれど、こう言ったら大人は褒めてくれるからみたいな言葉もあるので“このセリフ、本当にこの子が言ってるのかな”と思う時があるんですよ。
相手が求めているからと、必死できれいな答えを言う必要はないんです。分からなければ“分からない”って言ってくれた方が良い。だったら“じゃあ分かるようにするために、こんなことを勉強してみようか”って次のステップに進める訳ですから。みんな、優等生になろうとしなくていいんです」。
少数精鋭制を敷く智弁和歌山だが、1学年10人だった枠が現在は12人になった。わずかながら人数が増えた中、中谷監督の教えを受けたいと入学を希望する生徒も増えている。力強い、豪快な選手を毎年のように輩出してきたイメージが強いが、力強さに加え、何かが変わろうとしている智弁和歌山。12人が12色の色で輝ける選手であって欲しい。それが中谷監督の願いでもある。(取材・写真:沢井史)