「走り終わったら倒れるのではなくコースに一礼」箱根駅伝初シードに挑む上武大

マラソン芸人のM高史さんと萩原拓也さん(ポップライン)が関東地区の大学陸上部(長距離)を訪問し、チームの様子をレポートする当企画。第5弾は、正月の箱根駅伝に11年連続で出場することが決まった上武大学にお邪魔しました。専門誌では見られない学生たちの〝素顔〟を、芸人2人が引き出していきます。
●インタビュアープロフィール

M高史(ものまねアスリート芸人、右)
駒大陸上競技部では駅伝主務として選手をサポート。2011年12月より「ものまねアスリート芸人」へ転身し、〝公務員ランナー・川内優輝選手のそっくりさん〟として注目を集める。
萩原拓也(お笑いコンビ・ポップライン、左)
かつて神奈川大陸上競技部に選手として4年間所属。卒業後は2年間の役者生活を経てお笑い芸人へ転身し、現在は設楽悠太選手(Honda)のそっくりさんとして駅伝ファンを中心に密かなブレークを果たしている。
不屈の雑草軍団
上武大学は、元オリンピックランナーの花田勝彦さん(現・GMOアスリーツ監督)を駅伝監督に迎え、2004年に駅伝部が創設されました。地道に強化を進め、創部5年目の2009年に箱根駅伝へ初出場。以来、11年連続で本戦へ出場を続けています。
いまだ箱根駅伝のシード権獲得には届いていませんが、2011年には全日本大学駅伝で6位に入り、悲願のシード入りを達成。主なOBには、現在マラソンで活躍中の園田隼選手(黒崎播磨)、山岸宏貴選手(GMOアスリーツ)らがいます。
2016年3月には花田監督が退任し、それまでコーチだった近藤重勝さんが駅伝監督へ昇格。近藤監督は神奈川大時代に5区山上りを4年連続で任され、2度の区間賞を獲得した〝山の職人〟として知られています。当時の神奈川大は箱根駅伝と全日本大学駅伝で2連覇を達成するなど全盛期を築き、その中心人物として活躍していました。
▲中央が近藤重勝駅伝監督。今季で就任3年目となり、ポップライン萩原さんは神奈川大陸上競技部の後輩にあたる
今季は6月の全日本大学駅伝選考会で17位(8位までが本戦出場)と振るいませんでしたが、10月の箱根駅伝予選会では本戦出場ラインギリギリの11位で通過を決め、11年連続の箱根出場を決めました。
近藤監督は兄貴みたいな存在
そこで今回は、上武大を裏方として支える廣瀬貴明主務(4年)と、廣瀬主務が「次期エース」として期待する佐々木守選手(3年)に登場してもらい、チームのことについてお話いただきました。
▲チームを裏方として支える廣瀬貴明主務(右)と、次期エースとして期待されている佐々木守選手
どうでしたか?15km地点までは総合14位あたりを走っていたと思うのですが……
元々設定どおりでは走っていたんですけど、他の大学がなかなか落ちてこなくて、「やばいかな~」とはちょっと思っていました。
応援してくれているサポートのみんなが「(順位的に)やばいぞ! 麗澤大と創価大が前にいるぞ!」と伝えてくれていたので、とにかくその2校のユニフォームだけを追っていました。
予選会独特の空気もありますよね。特に上武大学さんって、例年職人のように15kmから上がっていくイメージがあるのですが、そういうチームの伝統ってあったりするんですか?
特別なことは何もしていませんが、「この予選会だけは落とせない!」という強い気持ちで走ってくれているのだと思います。
監督も日ごろから「うちらは予選会通れなかったら終わりだぞ」という話をしてくださるので、予選会に対する気持ちはどこの大学にも負けないと思います。
上武大学は他校と比べ、都心から遠いところにありますし、一度落ちてしまったら新入生の勧誘も難しくなります。そういう意味でも箱根だけは譲れないですね。
ちなみに近藤監督は萩原さんの大学の先輩にあたりますが、普段はどんな監督さんですか?
僕も学年は被っていないので、そこまでわからないんですよね。
コーチ時代はずっと寮に住み込んで選手と一緒に生活をしていましたし、今も週に2回は来られて、距離感も近い監督です。掃除とかも率先してやられますし、選手からの信頼度も高いです。
監督がやっていたら、「自分もやらなきゃ」と思いますよね。
距離感も近くて、信頼もあって、兄貴みたいな感じですね!
選手時代の実績もすごいですし、学生にとっては目標にもなりますよね。
「監督の檄が聞き取れないくらい、沿道の歓声がすごかった」
▲前回の箱根駅伝は10区を走った佐々木選手(左)。あまりの歓声に、「監督からの檄が聞こえなかった」と話す
高校時代はインターハイ入賞の実績がある佐々木選手。なぜ上武大学へ進学しようと思ったのでしょうか?
それでは2人のルーツを探っていきたいのですが、佐々木選手が上武大を選んだきっかけはありますか?
上武大の選手は、高校時代に無名でも、しっかりタイムを伸ばし、かつ箱根で活躍できるというイメージがあったので志望しました。
でも、佐々木選手は高校時代から活躍していましたよね?
一応インターハイでは3000m障害で7位入賞の実績があったのですが、5000mのタイムが持っていなかったんです。
5000mの高校ベストはどれくらいだったんですか?
いや、速いな!でもサンショー(3000m障害の略称)でインターハイに行っているのはすごいですね。
前回の箱根駅伝は10区で区間12位でした。初めての箱根はいかがでしたか?
すごく緊張したんですけど、タスキをもらうことなく繰り上げスタートになってしまったので、ちょっと悔しい思いが残りました。でも、すぐに切り替えて、開き直って走っていましたね。
10区を走る皆さんは「耳が痛くなる」と言いますよね。左耳だけキーン!って(笑)。運営管理車からの近藤監督の声は聞こえましたか?
僕が走った時はすごく風が強くて、監督の声を聞きたかったんですけど、風の「ボーッ」という音しか聞こえなかったです(苦笑)
一同 (爆笑)
▲練習の拠点となる伊勢崎キャンパスのグラウンド脇には、救急救命センターが常設されており、アクシデントが発生しても対応できる仕組みが整っている
熱い近藤監督の声が届かないくらい、風と沿道がすごかったんですね……。廣瀬主務が、マネージャーになったきっかけは?
元々選手として入ったんですけど、故障が多くて、3年生の夏前くらいに辞めようかなと思っていたんです。マネージャー経験のある本村哲也コーチに相談した結果、「これまでとは違ったかたちでいいから、箱根駅伝に関わりたいな」と思い、今に至っています。
実は、今もこっそり練習しているんですよ。1500m3分台を目指しています。
でも、マネージャー出身の方ってそういう人多いですよね。
そうですね。僕も駒澤大学で主務をやっていましたけど、大学を卒業してから5000mの自己ベストを出しました。他にも、早稲田大学の主務をされていた行場竹彦さんも、ウルトラマラソンの日本代表になっています。
マネージャーをしていると、走りたい気持ちがすごく溜まるんでしょうね。
同級生が結果を出してくれると、特にやりがいを感じますね。就職先も人の役に立つ仕事(ホテルマン)に決まったので、やって良かったと思います。
佐々木選手は予選会当日にシューズを……

普段は頼りになる佐々木選手ですが、箱根予選会当日に信じられない失敗をしてしまったそうです。
そんな廣瀬主務から見た佐々木選手評価はいかがですか?
前回の箱根もそうですけど、今季も安定して結果を出してくれるので、頼りになります。
実は予選会ではアクシデントがあって、直前でシューズを忘れちゃうという……(笑)
Mさん&萩原さん えぇーー!!
大学の陣地からスタート付近まで移動する際に、レースで使うシューズを忘れてきたんです。仕方ないので、控え選手がダッシュで取りに行って、ギリギリ間に合いました。
頼もしいんですけど、そういう抜けているところがあるんです。
自分はどちらかというと周りに注意するタイプで、あの時も「お前ちゃんとシューズ持ったか?」とか言っているんですよね。それなのに、自分が忘れちゃうという……。
一同 (爆笑)
10分くらい前ですね。もうスタートに並ばないといけない時間です。
すごいな……。ちなみに取りに行ってくれた選手は誰だったんですか?
途中まではマネージャー兼トレーナーの津間(友樹)くんが持ってきてくれて、あとはリザーブの岡山翼(3年)がダッシュしてくれました。
マネージャーなのに、こっそり記録会へ出場する廣瀬主務

「趣味が無い」という廣瀬主務は、陸上が好き過ぎるあまり、休日を利用して記録会に出場しているのだとか……。
今度は2人のプライベートなことを聞いていきたいのですが、趣味とか特技はありますか?
自分は野球がとても大好きで、オフの日は必ず他の部員とキャッチボールをしています。
はい、小学校3年生から中学3年までずっとやっていました。
高校でも野球をやる予定だったのですが、中学の時に駅伝チームに入れてもらって、そうしたら全国大会まで進んで、区間2位を取ってしまって……。
(※佐々木選手は5区で5人抜きの快走を見せ、所属していた山形十中は全国5位入賞を果たす)
それは陸上に行った方がいいですね(笑)。ちなみに野球はどこのファンですか?
あれ、東北だから楽天かと思いました(笑)。何で横浜なんですか?
中畑清さんが大好きで、横浜の監督に就任してからずっと好きです。試合観戦もしたいんですけど、なかなか行けてないですね。来年は行こうと思っています。
僕は本当にないんですよ。趣味が無さ過ぎて、陸上しか好きなものがないです。
平成国際大長距離記録会です。1500mに出場して4分03秒68でした。
そうですね、マネージャーが多いときは、自分も練習に混ぜてもらっています(笑)。監督も時間があるときは「いいよ」と言ってくれているので、この環境はありがたいですね。
休みの日にどこか遊びに出かけるとかはないんですか?
(遊ぶ場所が)何もないですよ(笑)。治療で都内に行くくらいですね。
遊ぶところがないと、誘惑がないから身体を動かすことに専念できますよね。
箱根駅伝では上武大の〝下克上武大作戦〟に期待!
▲上武大学は、箱根駅伝に向けた目標を「下克上武大作戦」と発表。前回20位から巻き返し、だるまに目を入れることはできるのか……
では最後に、「箱根駅伝で上武大学のここを見てほしい!」というところがあればお願いします。
声援をくださった方々や、走ってきた道への感謝の気持ちを忘れないようにすることを心掛けているので、その〝感謝の走り〟を見てほしいです!
うちは走り終わったら倒れるのではなく、コースに一礼をして終わっているので、そこは見てほしいところではあります。あとはロードだったらトラックのタイム以上の力を発揮できるというところも注目していただきたいです。
視聴者は〝ジャイアントキリング〟を期待しているので、ぜひがんばってもらいたいですね!
貴重なお時間の中、2人ともありがとうございました! 箱根駅伝本番もがんばってください!
