創志学園|ドラフト候補西純矢が気づいた「気持ちのコントロール」
賛否を呼んだガッツポーズ
今、グラウンドで黙々と練習をこなす西純矢の表情からは笑顔が絶えない。この冬の西の練習のテーマは「どんな時も明るく乗り切る」ことだ。
「自分はチームに影響を与えやすい立場なので、苦しい練習でもしんどい表情を見せてはいけないと思って。どんな状況でも明るく乗り切っていこうと思っているんです」。
昨夏の甲子園では初戦の創成館(長崎)戦では最速149キロのストレートに加え、毎回の16奪三振を奪い、一気に注目の的となった。と、同時に“あること”も賛否を呼んだ。それはアウトにしたりピンチを脱した時に見せたガッツポーズだ。
ガッツポーズは決して相手を挑発しているのではなく、自分を鼓舞するつもりでやっているつもりだった。だが、実際は様々な受け止め方がある。
「自分ではそのつもりはなくても、不快な気持ちになっていた人も多かったと思います。予想以上に色んな反響がありました」。
夏の甲子園から帰郷し、自校グラウンドでの練習が終わった直後、長澤宏行監督に呼び出された。行くと、自分のガッツポーズをした写真を貼られ、自分に関しての苦言を書き込んだ手紙を見た。
「自分のことはもちろん、ちゃんと指導していない監督も悪いみたいなことも書いてあって。監督さんに申し訳ない気持ちになりました」。
気持ちのコントロールの大切さ

高校生なんだから感情を出したりするのは仕方がないよという内容や激励の言葉が並ぶ手紙もあったが、自分の行動がこれだけ世間を揺るがす事態になっていたとは知る由もなかった。下を向きそうになった時期もあったが、同時に自分の気持ちのコントロールの大切さも知った。そのため昨秋は派手なアクションは一切封印し、ピンチを乗り切ってもベンチに戻った際に小さくこぶしを握るにとどめた。
そんな中、長澤監督は系列校の環太平洋大の体育学部に在籍するトレーナーを招いて西のメンタルトレーニングを始めた。とは言っても難しい内容ではない。過去のプロ野球や世界大会の映像を見ながら、この場面ではこの選手はどんな感情になっているのか、気持ちがどう揺れているかなどを分析するのだ。11月半ばに行われた際は09年のWBC決勝の日本と韓国戦の決勝のワンシーンを見た。
「イチロー選手の決勝タイムリーを打つまでの場面だったんですけれど、ファウルで粘っていた時は、あの冷静なイチロー選手でも自然体ではない表情が見えました。でも打つ直前から自然体になっているのが分かって。実際に余計な力が抜けていたとトレーナーさんも話されていました。イチロー選手のインタビュー映像も見ながら、この場面での心構えの意図なども説明を受けましたが、こういう大事な場面でこそ気持ちのコントロールが大事なんだと感じました」。
昨秋、8回に突如崩れてコールド負けを喫してしまった中国大会準決勝の広陵(広島)戦の自分をあらためて振り返ると、あの時の自分の感情が徐々によみがえってきた。
芽生えたエースとしての自覚
「投げていた時は、どこか結果ばかり求めていたところがありました。でも、結果を出すために自分がどんな風に取り組んできたのかを考えると、練習では最後のランメニューで抜いてしまうところがありました。
目標は誰でも持っていますけれど、何の目的があって、そんなしんどい練習をやっているのかと考えたら、夏の甲子園で優勝したいから。誰のためにやっているのかと考えたら、自分は創志学園に入って色々な人に支えてもらっているので、そんな人たちに恩返しがしたいからだと思いました。
そう考えながらやっていくとランメニューでも手を抜いてしまうことはなくなると思います」。
「勝ちたい! 勝ちたい!」と思うだけで勝てるほど勝負は甘くない。そこを目指すために、今まで自分は何をしたのかを考えると、愚かな自分しかいなかったことを悔いた。そのため普段の練習から、自分の目標に向かって何をするべきか真剣に考え、取り組む気持ちもまっさらにした。そしてエースとしての自覚も固く持ち、“見られる立場”も意識。エースはチームで最も目立つ存在。だからこそ、前向きな表情でいなくてはならない。
両手に抱えきれない経験を積んだ2018年のマウンドを経て、高校野球ラストイヤーとなる2019年を前に西は大きく変わろうとしている。(取材・写真:沢井史)